いまの若者は何を基準に職場を選んでいるのか。神戸学院大学の中野雅至教授は「最も重視しているのは『成長できるかどうか』。学歴社会から実力社会へのシフトがうかがえるが、その裏には、学校のように企業に成長経験を求めるという甘えもある」という――。
※本稿は、中野雅至『なぜ若者は理由もなく会社を辞められるのか』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
日本の若者が企業のことを信じないワケ
若者にとって「成長する」とは何を意味するのでしょうか。まず、はっきりさせておくべきことは、成長とは、たとえ労働条件に優れた大企業であったとしても、「意味のない」理不尽に耐えることではないということです。
「意味のない」というのがポイントです。たとえ残業を伴う理不尽なものであったとしても、大企業が最後の最後まで雇用を抱え込み、労働者を裏切らないと保証するのであれば、若者は意味のない理不尽さにも耐えると思います。そういうところは強かで計算もできます。
ただ、こんな大企業は皆無に近いでしょう。役立たないと思われると捨てられるし、何の保証もなく過労死寸前まで働かされる。若者はそんなことは百も承知です。
若者が企業を信じ切れないと思っているのは、これだけが理由ではありません。最大の理由は、採用から出世まで人事の基準が極めて不透明なことです。
リンクトインが世界22カ国を対象とした「仕事で実現したい機会に対する意識調査(Opportunity Index 2020)」という調査があります。ここでは、「人生で成功するためには、何が重要だと思いますか?」という問いに対し、日本も世界同様に「一生懸命働くこと」が最上位でした。
ただ、2番目以降の回答が日本とその他の国では違います。諸外国は「変化を喜んで許容すること」「ふさわしい人々とのつながりやネットワーク」と続くのに対し、唯一日本のみが「幸運」が重要であると回答しているのです。