企業を「反日認定」して嫌がらせをする人たちがいる。ネット上の「デマ」を信じ、SNSでの誹謗中傷や嫌がらせの電話などを繰り返して、企業を疲弊させている。愛国を叫ぶ行為によって、日本経済にダメージを与えているのだ。まるで寓話(ぐうわ)のような話だが、これが日本の現状だ。連載第1回は、サントリーの「炎上」のケースをお伝えしよう――。
日本経済を破滅させる内側からの攻撃
……われわれはこの流れに積極的に棹(さお)さして日本の生産構造のみならず、貿易構造も、消費構造も新しく改編する意力を振るい起さねばならない。その仕事は恐らく明治の先覚者が、遅れた農業国日本をともかくアジアの先進国工業日本に改造した努力にも比すべきものであろう。いわば第二の維新ともいうべき大事業である。しかし困難さの故にその仕事を怠るならば、アジア諸国は容赦なくわが国に追いつき追いこすであろうことを忘れてはならない。(1956年 経済白書)
馬鹿げた時代になったな、と思う。そして誰しもが、ほんの少し前までこういう時代が到来することなど予想だにしなかっただろう。現代は、不幸にしてイデオロギーと企業活動への評価が結びついている時代なのである。
ネット上とその狭い枠を飛び越えた人々が、自らのイデオロギーと相反する企業を攻撃し、時として不買運動を行い、あるいはデマを流す。企業は「電凸」と呼ばれるネット発の波状攻撃におびえ、その活動は畢竟(ひっきょう)萎縮する。驚くべき事にこの攻撃は企業の実体的不正に対する攻撃とは関係が無い。
例えばある企業が公害物質を垂れ流していたことが発覚したり、あるいはリコールを故意に隠していた事への抗議ではなく、その企業の「姿勢」が反日的であるかとか、会社経営者が「反日的」であるか否かという、まことに抽象的で馬鹿らしい、そして真偽も不確かな――いやほとんどの場合デタラメな――基準で糾弾の是非を決める、というものだ。
そんな馬鹿な――と思う読者の方は多いはずである。しかし実際にここ10年余、わが国ではこの手のさまざまな企業に対する攻撃や、あるいはいわれ無き批判が、企業のCM内容やその企業のCEOの姿勢に対するレッテル張りによって、実際行われてきたのである。
本記事では、このようなネット発のさまざまなレッテル張りとその背景を仔細に検証する一方、このような民間の経済活動を萎縮させるさまざまな上記罵詈(ばり)雑言が、いかに不正確でデタラメなものであるかの反証を行いながら、本来イデオロギーとは無関係のはずの民間企業に対する、勝手連的な汚名返上を行おうという意図が存在する。