Google Workspace 導入事例 - 03. 全日本空輸株式会社(ANA)
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イノベーション推進部が取り組む、顧客視点に立つ「DX の未来」
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、過去に経験したことのない経営インパクトを受けている全日本空輸(以下、ANA)。厳しい状況下でも、社内の DX を担う「イノベーション推進部」を中心に、生産性向上と新しいマーケット創造のための戦略的 DX を推進している。同部では従来のような業務部門からの要請に応えるシステム開発にとどまらず、自らも業務部門と一緒に本質的な課題を考え、テクノロジーを活用して解を導き出している。目に見えている課題解決だけでなく、一歩踏み込んで広くデザインすることで新しい価値を創造し、CX(顧客体験)向上の視点に立った DX 推進に取り組む。

野村 泰一 ( のむら・たいいち )

全日本空輸株式会社 イノベーション推進部 部長

インターネット予約やスキップサービスなど ANA の予約搭乗モデルをデザイン。ANA を退職し、日本初の LCC である Peach の創設に携わった後、2017 年 4 月より現職。最近では、ロボット、IOT、AI などのデジタル テクノロジーを活用しながら ANA の DX を推進している。

DX によるイノベーションの要は IT 部門そのものの意識改革
  • 「リモートワークが定着し、働き方が多様化した社会状況を見ると、コロナ収束後に以前のお客様が 100 %戻ることはもはや期待できません。ここさえ切り抜ければ、という発想を捨て、変化するマーケットの中で自分たちがどのような価値を提供していけばいいのか、根本的に考える時に来ています」

    そう語るのは、イノベーション推進部を率いる野村泰一氏だ。2017 年にイノベーション推進部長に就任して以来取り組んできた DX によるイノベーションが、新型コロナウイルスの感染拡大により社会が大きく変わった中、重要度を増している。

    野村氏は新型コロナウイルスの感染拡大以前より、利用者の予約、チェックイン、搭乗などの情報を、マイクロサービスを使ってデータベース化した「CX 基盤」の構築や、「ヒアラブル デバイス(イヤフォン型のウェアラブル端末)を使った空港コミュニケーション」など次々と独自の取り組みを進めている。その野村氏が DX を進めるにあたり、最初に取り組んだのは部員の意識改革だった。

    「DX によるイノベーションを目指すなら、IT 部門そのもののマインドを変えなければなりません。長年 IT 部門にいる人の考え方を変える、組織の文化を変える、ということには地道に取り組みました」(野村氏)

    野村氏は『イノ推 五輪の書』という行動ガイドラインを策定。「五輪書(ごりんのしょ)」とは剣豪、宮本武蔵が記した兵法書。同書の体裁で下記の 5 つの行動指標を全部員に提示した。

    • 風の巻 イノベーションを起こしやすい環境を自ら作ろう。
    • 水の巻 失敗を恐れず、行動したことを誇りに感じよう。
    • 火の巻 熱い思いを持ち続けよう。
    • 土の巻 きれいな花を咲かせるための土壌に着目しよう。
    • 空の巻 互いにリスペクトし、チームで成果を分かち合おう。


    「たとえば既存のやり方で丁寧に 90 点の仕事をした人と、よりよい仕組みを作ろうと素早く果敢に新しい方法にチャレンジして 65 点になった人がいたとしたら、後者を評価しますよという考え方です」(野村氏)

    野村氏は、常にこの『イノ推 五輪の書』に照らし合わせながら資料のレビューや会議を進めることで、部内に浸透させていったという。
ニーズとシーズを並列で検討する仕組みを作る
  • そのうえで「社内の生産性向上」と「新しいマーケットの創造」という 2 つの柱を立て、IT 部門の業務プロセスを根本から見直した。

    「従来のように業務課題に沿った業務要件を策定して、それを具現化するやり方では、できあがるシステムも現場の発想の域を出ません。最近のテクノロジーはこれまでの常識をはるかに越えてきていますので、テクノロジー側からの発想もぶつけながら進める ― つまり、ニーズとシーズを並列で検討することで、よりよいソリューションを生み出す体制に変えました」(野村氏)

    具体的な業務の内容として示したのが、①内製化、②プロセスを変える、③新たなコミュニケーションの 3 つのポイントだ。

    ①の「内製化」とは、可能な限り IT 部門内で対応できることを増やすこと、そしてその人材を増やすこと。システム作りに慣れていない業務部門でも目に見えているものだけではない真の課題を要件化できるように、業務部門と IT 部門が垣根を越えて一緒に考え、話し合うワークショップも設けている。要件がまとまった後は、システム構築する段階でプロトタイプを内製し、使った人の声を聞いて、チューニングしていくということも行っている。

    ②の「プロセスを変える」とは、従来の業務部門のニーズに沿ってシステムを開発する形から、仮説と検証で得たデータをもとに検討する流れに変えること。

    「こちらからお客様にさまざまなアプローチをして、その反応を見ながら、ANA とエンゲージメントを図りやすいのはどういうお客様層なのか、データで把握し検証することによって新しいマーケットを見つけていく流れです」(野村氏)

    2020 年に同部が開発したストリーミングエンジンは、設定した条件にしたがって「CX 基盤」から合致する情報を探し出してメールを送るなど、各種アクションを自動で発動する。この機能を活用することで、それぞれのお客様に対してこれまでとは違う価値を仮説検証的に提供出来るようになった。何よりも、行動をすることで反応するお客様を認識し、施策そのものを見直す流れができたことが大きい。

    ③の「新たなコミュニケーション」とは、社内 IT 部門のもつナレッジや取り組み、成果物を他部門の人にも広く知ってもらう社内広報活動や、部門の壁を越えた交流を図るというもの。

    こうした取り組みを Google Currents(社内 SNS ツール)のグループ内コミュニティで紹介したり、Google Meet や Google Jamboard(デジタル ホワイトボード)を活用し、リアルとオンラインを融合させた社内の集まりを開催したりする。

    「Google Workspace の各ツールは、離れた人同士をうまく結びつけて議論をしたり、知恵と知恵を重ねて結論を出したりするといったことに役立っています」(野村氏)
ANA 社内の Google Meet を使ったオンライン会議の風景。Google Currents 上で提言された「お客様の忘れ物をどうやって減らすか」というテーマについて議論が行われている。
生産性向上と CX とを両立する「遺失物管理システム」開発
  • これらの取り組みから生まれた新たな仕組みの一例が、2020 年に導入した「遺失物管理システム」である。従来、遺失物は個別の空港単位に管理されており、空港事務所の台帳に記入されるまでには相当の時間がかかっていた。お客様ご自身が失くしたと思って問い合わせた空港とは別の空港で発見されることもあり、お客様にも不便をかけてしまっていた。

    だが、過去のデータを紐解くことで、忘れ物の 8 割が機内で発生していることをつかみ、関係部門との話し合いを経て、忘れ物を発見した際には即座にキャビン アテンダントがタブレットで写真を撮りクラウドにアップする仕組みを、GAS(Google Apps Script の略。Google Workspace が提供するローコード プラットフォーム) を使って内製。これによりすべての空港の遺失物をリアルタイムで確認できるようになった。

    「情報をクラウド化することでどこの空港でも参照できるようになり、お客様からのお問い合わせにも、より早く対応できるようになりました。同時にインターネットでの問合せも可能となり、空港の旅客業務の負担も軽減しました」(野村氏)

    それまで GAS を使って内製したシステムは社内業務用だけで用いられていたが、この時初めて顧客サービス向けのシステムにも組み込まれたという。

    「この案件で重要なポイントは、単に業務を改善しただけでなく、一刻も早く忘れ物の所在を知りたいというお客様の気持ちがデザインに組み込まれたことです」(野村氏)

    それこそが野村氏のめざす「CX 向上につながる DX」の形だ。
ANA の遺失物管理システム。キャビン アテンダントが撮影した忘れ物の写真がクラウド上にアップされる。このシステムにより、すべての空港の遺失物をリアルタイムで確認できるようになった。※画像はイメージです
データでしか見えない情報を生かし、よりよいソリューションを提供
  • 「IT 部門がニーズの下流に立ちすぎると、課題の本質が見えなくなる」と野村氏は言う。

    たとえば、遺失物の情報は IT 部門にとって “見えない” 世界だった。それがデータとして可視化されたことで、忘れ物をしがちな便や時間帯などの傾向が見えてきた。すると業務効率化というレイヤーを離れ、「忘れ物を減らす=お客様の体験価値を高める」という一つ高い次元の課題が浮かんでくる。

    顧客のことは空港カウンターや機内の現場が一番わかっていると言われてきた。だが反対に、データでしか見えないものもある。

    「だから、私たちは現場の仕事をリスペクトしつつも、共に上流工程に入り、共に意思決定をする必要があるんです。現場とデータ、両方の目で見てこそ、新しい価値を創造できると私は考えています」(野村氏)

    各部門だけで見ていたデータを、新たに IT 部門の目で見ることで、ある傾向が見えてくる。そして、そのデータをどう活用するか、そこから先を広くデザインしていくことに IT 部門が一緒になって取り組むことに、意義があるという。従来のサイロ型ではなく、横断的な面でのアプローチによって、社内にとどまらず、顧客にも価値を生みだしている。

    過酷な環境の変化にも素早く柔軟に対応し、それを新たな航空需要を作る契機と捉える ANA。ビジネスモデル、働き方、コスト、プロセスを広く見直すことで、今後も DX を通じて、VUCA の時代にもイノベーションを起こし続けていく。
Google Workspace
Google Workspace は、Google が提供するクラウド型のグループウェア。「Google Meet」や、メッセージやグループの会話などを行うコミュニケーション ツールとなる「Google Chat」 、他のツールが統合され強力な検索機能をもつ「Gmail」、チームで共有できる「Google カレンダー」、さまざまな形式のファイルを安全に保管、共有できる「Google ドライブ」、複数のユーザーとリアルタイムに共同編集が可能な表計算アプリケーションの「Google スプレッドシート」、アンケート フォームが簡単に作成できる「Google フォーム」など、企業で必要なすべてのアプリケーションが揃う。共同作業がしやすく、組織の生産性を高めるとともに、新たなアイデアの創出を促す機能があり、生産性向上と柔軟な働き方を実現するコラボレーション ツール。
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