個人事業主や自営業者にとって、毎年2月から3月は確定申告の月。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「会社員の方も年末調整だけで安心していると税金の払いすぎになる。年末調整で精算されない“医療費控除”の対象となる費用の中に、多くの人が知らずに損をしている項目がある」という――。
税金の申告のイメージ
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介護費用も「医療費控除」の対象

公務員や会社員などの給与所得者は、確定申告をしなくても、勤め先であらかじめ給料から所得税が天引きされています。徴収された額は、毎年末に「年末調整」で精算され、払い過ぎている税金があったら戻してもらうことができます。

ただし、「年末調整」では精算されない控除もあり、その代表的なものが「医療費控除」です。

「医療費控除」は、年間10万円以上(所得合計額が200万円までなら5%)医療費を使っていれば、それを超える額の税金が、納めた税金から控除されるというもので、申請すれば払い過ぎの税金を戻してもらえます。

意外と知られていないのは、実は「介護費用」も医療費控除の対象となっているということ。これを知らないために「確定申告」をせず、税金を払いすぎている人が意外に多くいるのです。

家族で一番収入が高い人が申告する

「医療費控除」を申請して、少しでも多くの税金を取り戻すには3つのポイントがあります。

1.家族が1年間に使った医療費をまとめて「確定申告」する
2.所得税率がもっとも高い人が「確定申告」する
3.5年以内に多額の医療費を使った年があったら、遡って申告する

「医療費控除」は、家族全員の生活費を同じ財布で賄う=共有している(生計を一にする家族)のであれば、全員が使った医療費を、まとめて確定申告することができます。

例えば、6人家族で1年間の医療費が、父2万円、母3万円、祖父4万円、祖母4万円、姉3万円、妹4万円と、家族合計で20万円かかったとします。医療費控除の対象は、20万円−10万円=10万円となり、父親の年収が600万円なら、所得税率は20%なので所得税は2万円が戻ってきます。

けれど年収300万円の娘が医療費控除を確定申告すると、税率は10%なので、1万円しか戻ってきません。

ポイントは、家族の医療費をまとめて、税率が一番高い人が確定申告することです。祖父、祖母が遠くに住んでいて必ずしも一緒に住んでいなくても、生活費を出してあげるなどしていたら、生計を一つにしていると見なされ対象になります。

親の「介護費用」も「医療費控除」の対象に

実は、あまり知られていませんが、面倒を見ている親の介護費用でも、医療費控除の対象となるものはたくさんあります。

介護費用のうち、介護保険を使った場合の「施設サービスの対価」と「在宅サービス等の対価」は対象です。

ただし「特別養護老人ホーム」「地域密着型介護老人福祉施設」「介護老人保健施設」「指定介護医療型医療施設」などですが、特別養護老人ホームや指定地域密着型介護老人福祉施設については、介護保険で提供される施設サービス費のうちの自己負担分の2分の1が対象となります。

介護老人保健施設、指定介護医療型医療施設では、介護保険で提供される施設サービス費のうち、自己負担分が医療費控除の対象です。

在宅で介護保険制度を使ってサービスを受けている人は、訪問看護や訪問リハビリテーション、医療機関でのデイサービスやショートステイ(短期入所療養介護)など、かなり幅広いサービスで自己負担している金額を医療費控除できます。

また、医療費控除対象の在宅サービスとセットなら、夜間のオムツ交換や訪問入浴サービスなども対象になります。ただし、福祉用具の貸し出し料金や生活援助のサービスなどは対象外となっています。

介護期間は、平均で5年と言われています。保険でまかなえる部分は医療費控除の対象になりませんが、自己負担もかなり多くなるケースがあるので、家族を介護しているなら、戻してもらえる税金はしっかり戻してもらいましょう。

居宅サービスの対価に係る医療費控除について
要介護者及び要支援者が居宅において受けられる居宅サービスには、次のものがある。

①訪問介護【ホームヘルプサービス】
②訪問入浴介護
③訪問看護
④訪問リハビリテーション
⑤居宅療養管理指導【医師等による管理・指導】
⑥通所介護【デイサービス】
⑦通所リハビリテーション【医療機関でのデイケア】
⑧短期入所生活介護【ショートステイ】
⑨短期入所療養介護【ショートステイ】
⑩痴呆対応型共同生活介護【痴呆性老人グループホーム】
⑪特定施設入所者生活介護【有料老人ホーム等】
⑫福祉用具貸与

出典=国税庁HP

「還付申告」は5年を遡ってもOK

給与所得者の場合、すでに年末調整で税金を払っているので、確定申告で「医療費控除」をすると、すでに払っているお金から、払い過ぎの税金を戻してもらう「還付申告」になります。

この場合は、5年を遡って申告し、税金を戻してもらうことができます。

たとえば、今年20万円ほど「医療費控除」で戻してもらうお金があるけれど、医療費を整理しているうちに、3年前に入院した時に自己負担した30万円の領収書が出てきたとします。この30万円も、確定申告で請求することができるということです。

ただし、この30万円は、今年の20万円に加えて50万円で合算請求することはできません。今年のぶんは今年のぶん、3年前のぶんは3年前のぶんと、別々の請求になります。

また、入院した際の支払は自腹を切っても、あとから高額療養費制度でお金が戻ってきたり、保険会社から保険がおりたりしたら、そのぶんは差し引いて申告しなくてはなりません。

ちなみに、「ガスター10」などの「スイッチOTC医薬品(※)」は、医療費控除の特例の「セルフメディケーション税制」といって、年間の薬の購入額が1万2000円を超えると、超えたぶんの額が控除の対象となります。

ただし、「セルフメディケーション税制」と通常の「医療費控除」は、併用できないので、どちらを申告するか選択しなければなりません。

※医療用医薬品から市販薬にスイッチ(転用)した医薬品で、薬局・薬店・ドラッグストアなどで医師の処方箋なしに購入できるもの

薬局で薬を選ぶ人
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いずれにしても、医療費控除は、会社の年末調整では行われませんので、病院でもらう領収書や薬局で購入した医薬品の領収書はきちんと保管して、10万円を超えたなら申告するとよいでしょう。家族がいる人なら、全員がその意識を持ち、1年に1回、所得のもっとも高い人が「全員分をまとめて」還付申告をするようにしましょう。

何度も言いますが、還付金は自分で動かない限り戻ってきません。そのことをしっかりと頭に入れておきましょう。