※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
ファッションに大金を使わない
『となりの億万長者』(早川書房)という、アメリカ富裕層研究の第一人者による、億万長者の実像を描いたロングセラーがあります。“お金持ちの生態”に興味がない人はいないのではないでしょうか。
そこで今回は、職業柄、富裕層に接する機会が少なくないファイナンシャルプランナーの私から見た、「お金持ちがしない○○」を挙げてみたいと思います。
長くお世話になっているお客さまの彦田さん(仮名/58歳)は、家賃収入だけで年間2500万円が入ってくるいわゆる富裕層……なのですが、いつもTシャツに短パン(冬の今の時期は、無地のセーターにジーパン)、それにアウトドアメーカーのシンプルなリュックという出で立ちで、常に電車で事務所に来てくれます。つまり彦田さんは、一見すると、とてもお金持ちには見えません。
時計も数十年、カシオのG-SHOCKを愛用していて、壊れたタイミングで、色も形もほとんど同じものを買い替えるそう。ファッションに関して言えば、トレンドに流されることなく、スタイルを変えることもなく、何十年も同じものを愛用しているのです。逆に、彦田さんより大幅に資産の少ないお客様の方が、ヴィトンやプラダ、フェンディといった、ひと目見て「ブランド物!」とわかるものを身に着けている方が多いのが不思議です。
高い時計は買わない、iPhoneもすぐに最新世代を買わない
最近知り合ったIT系企業経営者の上村さん(仮名/44歳)も彦田さんと似ていて、いつ会っても、シャツにチノパン姿。先日、お洋服についてお聞きしたところ、「色違いのものを上下7枚ずつ無印良品でまとめて購入して、くたびれてくるとまた同じ商品をまとめ買いする」と言います。上村さんの時計もタイメックスのシンプルなもので、「1万円くらいかな」とのこと。IT系ということもあり、デジタル機器にはお金を使うかと思いきや、iPhoneも最新世代でなく、自分の好きな小ぶりのサイズの旧型を長らく使用していました。
彦田さんと上村さんのように、富裕層は案外シンプルで、いつも同じスタイルをされている方が多い印象です。アップルの創業者スティーブ・ジョブズが、常にイッセイ・ミヤケの黒のタートルにジーパン姿で通していたのと同じで、お金持ちの方に共通しているのは、「時間」を大切にしている点だと思います。仕事でのパフォーマンスを最大化するため、日頃のファッションにかける時間を最小限にする=制服化することで、時間を圧縮しているのです。
「とんでもない豪邸」には住まない
清掃芸人として知られる滝沢秀一さんのインタビュー記事で、印象的なエピソードがありました。それは、「お金持ちの家ほどゴミが少ない」というもの。高級住宅地ほどゴミが少なく、普通の住宅街の方が、100均のアイテムやファストファッションブランドの洋服なんかがわんさか捨てられているというのです。これ私、非常に頷きました。
というのも以前、老舗旅館を経営する資産家一家のお家に遊びに行った際、壊れかけのスツールを麻紐で縛って直しながら使っていたのを見たことがあったのです。ご家族は、「すごく気に入っているから、ずっと直して使ってるの」とおっしゃっていました。
お金持ちというと、とんでもない豪邸をイメージされるかもしれませんが、今例に出した皆さんは全員、中古マンションや一般的な一軒家住まいです。23区内の駅近物件のため資産価値は高いですが、決してお城のような家でもなく、内装もごくごくシンプルで上品。つまり、リセールバリューを考えた住まい方をされているのです。
お金を使うのは「健康」「教育」「体験」
ゴミの話や老舗旅館の方、また彦田さんやスティーブ・ジョブズにもつながると思うのですが、彼らは「消費」に対しても高い意識を持っているのだと思います。ゆえに、100均で衝動買いもしないし、安くなっているという理由で、ものを買わない。そして、流行も追わない。
お金持ちの方は、自分が気持ちよく使えて長持ちするものを見極め、それらが足りないと思ったタイミングにだけ買い足す。だから、結果的にゴミも少ないのではないかと思いました。
それこそ、年末年始は「ブラックフライデー」や新春初売り、福袋の季節ですが、お金持ちの方からセールの話をほとんど聞いたことがありません。また、宝くじやギャンブルをやらない方が多いことも鑑みると、富裕層には、時間的なコスト面と、消費への一貫した指針・哲学のようなものを持っている方が多いのではないでしょうか。
では逆に、富裕層は何にお金を使っているのでしょうか? それはズバリ、「健康」「教育」「体験」だと思っています。
まず、健康。私のお客さまの中で資産をお持ちの方はほぼ皆さんスポーツをされていて、太っている方が驚くほど少ない。ジムやフィットネス、ヨガや山登り、サーフィンなどなど、趣味も兼ねたアクティビティを日常生活に取り入れていて、健康への気遣いが見て取れます(そして、喫煙者も少ない)。
家族や友達との時間を大切にする
経営者の方は自費できっちり毎年、人間ドッグを受けていたり、特に症状がなくても定期的に歯医者や婦人科に行く、という方も多いですね。
また、最近よく見かけるのは、「マイボトル」。体に合ったお茶をブレンドしてもらい、それを煮出してマイボトルに入れている方や、ノンカフェインのお気に入りのハーブティーを詰めている方など、皆さんそれぞれがこだわりのお茶をマイボトルで携行しています。
稼いでいる人が夜の店で豪遊しているような話はよく耳にしますが、本当のお金持ちは、無駄に飲み歩くようなことはしません。その一方、家族や友だちといった人との時間は大事にしているので、その際の食事や旅行には潤沢にお金をかける。ダラダラと毎晩どこかで浪費するのではなく、大切な「時間」や「体験」だと思える時だけお金をつかうのです。
パッと見で分かるような豪快なお金の使い方をする人は、出入りが激しいだけで、貯金や家、土地といった資産(ストック)が乏しい方が多いような気がします。私の母はすぐタクシーを使いたがるのですが、逆に、近所のお金持ちのおばあさまは常にバスや電車を使っていて、健康面、無駄遣いをしないという点においても、富裕層の方は徹底しているなぁと感じます。
教育費はしっかり使うけれどメリハリがある
最後に、教育です。子どもへの教育費はしっかり使う方が多く、夏のキャンプや海外旅行といった「体験」も、彼らの中では教育のカテゴリーと言えるかもしれません。
かといって、子どもが望む習い事はなんでもさせるとか、受験だからといっていくつも講習を受けさせるといった使い方ではなく、何かしらの制限や子どもと約束ごとを設け、何でもお金で解決するような方法はとらない。教育面でも、普段の消費行動と同じ哲学を感じます。
本連載ではこれまでにさまざまなお金の失敗談を取り上げてきましたが、その度に思うのは、「自分軸」の大切さです。お金持ちが、なぜお金持ちであり続けるのか。そこには、消費に対する確固たるポリシーがあり、ゆえに無駄な支出がなく、コツコツと着実に資産形成ができる――そんな好循環が出来上がっているのではないでしょうか。ぜひ皆さんもこれを機に、自分のお金の使い方を振り返ってみていただけたら幸いです。