預貯金口座を複数所有している人は多い。入れてある貯金をほったらかしのままでいると、思わぬ大損をするケースがある。経済ジャーナリストの荻原博子さんは「口座をほったらかして国庫に入ってしまうお金は、令和3〜5年で800億にも上っている」という――。
「郵貯」というニュースの見出し
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郵便局に預けていた貯金が没収されるかも

最近、郵便局が貯金の「権利消滅」のCMを流していますが、ご存じでしょうか。同時に、新聞やネットなどでも盛んに「権利消滅」の注意喚起を行っています。

【図表1】令和6年度 権利消滅に関する広報「新聞広告」
【図表2】令和6年度 権利消滅に関する広報「インターネット広告」

「権利消滅」とは、自分が貯めてきた「郵便貯金」を払い戻しできる・返還請求できる権利がなくなるということ。注意喚起を無視してそのまま放っておくと、文字どおり権利が消滅して、お金は国に没収されてしまうので大損です。

こう聞くと、「それって“休眠口座”のことでしょう?」と思うかもしれません。けれど、「休眠口座」のお金は請求すれば戻ってきますが、それとは違って、国に没収されてしまうタイプの「貯金」があるのです。

「休眠口座」=「権利消滅口座」ではない

「休眠口座」とは、2009年1月1日以降、10年以上にわたって取引がない預貯金口座のことで、「休眠口座」に預けられているお金は、使われない預貯金として民間の公益活動会に活用されることになっています。

ただし「休眠口座」は、預金者が気づいて「引き出したい!」と申し出た時点で、いつでも出金や解約が可能です。通帳や印鑑などを持参し、預けた「郵便局」や「銀行」に行けば、払い戻してもらえます。

また、「預金・貯金」した本人が、認知症などで引き出しできなくなってしまっても、「委任状」を持った代理人なら引き出すことが可能です。

権利消滅問題となるのは、「休眠口座」に預けられた「預金」ではなく、郵便局に預けた「貯金」の中の“ある種別”の貯金が対象です。その「貯金」をほったらかしにすると、請求する権利そのものが消滅してしまい、払い戻しができなくなるので注意が必要です。

下記の表のように、令和3年度は457億円、令和4年度は197億円、令和5年度は155億円と、かなりの残高があり、このお金のほとんどは没収され、国のお金となっています。

【図表3】権利消滅額の推移

満期から20年2カ月で国が貯金を没収

国のお金となってしまうのはどういう「貯金」かというと、2007年9月30日までに、郵便局に預けた「定額郵便貯金」「定期郵便貯金」「積立郵便貯金」「住宅積立郵便貯金」「教育積立郵便貯金」などです。これらの「貯金」は、預け入れてから20年2カ月経つと、払い戻し請求ができなくなり、国に没収されてしまいます。どうしてなのでしょうか。

小泉内閣時代「郵政民営化」が叫ばれ、2007年10月から、郵便局は民営化されました。この民営化で、貯金などを扱う「株式会社 ゆうちょ銀行」が誕生しましたが、これは民間の銀行なので、それまで皆さんが国に預けてきた「貯金」は、民間銀行が引き継いで預かることはできません。

ですから、2007年9月末までに預けた「貯金」は、「郵政管理・支援機構」というところが預かっていますが、この「貯金」については、「旧郵便貯金法」という法律が適用されていて、今でも国が預かっていることになっているのです。

民間銀行に預けている預貯金は、もし銀行が破綻したら「1000万円+利息」までは、預金保護法で守られることになっていますが、これを超える額については、破綻した銀行を清算したのちに預金者で按分されるので、100%守られるという保証はありません。

けれど、民営化前の「旧郵便貯金法」では、国が「貯金」を預かっていているので、どんなことがあろうと100%国が貯金を保証していました。

そのかわり、預け入れ期間の満期を迎えた翌日から20年経つと、払い戻しの権利が消滅して、このお金は国に没収されてしまうことになっていたのです(現行では、通知の期間も入れて20年2カ月となっています)。

通帳や証書を紛失しても調べてもらえる

対象となる貯金がある人には、満期後10年と20年を経過する時に、届け出ている住所に、案内の手紙が郵送されます。また「満期を過ぎた郵便貯金に関する大切なお知らせ」というものも届くことになっています。

ただし、こうした郵便物は、自分が貯金通帳をつくった時点の住所・氏名になっているために、結婚して住所が変わったり名前が変わったりしていると、通知そのものが届かないというケースもあります。

そういう時には、最寄りの郵便局の貯金窓口などで相談しましょう。

また、確かに「貯金」があったと思うのだけれど、すでに通帳(郵便貯金証書)を紛失してしまっているという人もいるかもしれません。

こうした人は、郵便局の窓口や、ゆうちょ銀行の店舗などで、マイナンバーカードや運転免許証など、公的機関が発行した住所・氏名・生年月日の入っている、本人確認が可能な証明書類と印鑑を持参すれば、その人の郵便貯金があるかどうかの調査(現存調査)をしてもらえます。

対象の貯金があることがわかったなら、国に没収されてしまう前に、早めに貯金の払い出しと口座解約の手続きを取りましょう。

書類にはんこを押す
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委任状があれば、家族でも貯金を引き出せる

親や祖父母などが「郵便貯金で積み立てていた」というような記憶があるならば、口座名義人本人の委任状があれば、お金を引き出すことができます。

ただし、名義人本人が認知症などになって委任状が書けないというケースもあるでしょう。こうした委任状がないような場合でも、郵便貯金の名義人の口座に直接入金するようにすれば払い戻しは可能なので、詳しくは郵便局で相談してみてください。

実は「自分(名義)の貯金なのに、国に取り上げられてしまうなんて理不尽だ」という苦情が多く、平成24年1月4日から、たとえば親が子の名義でつくった貯金口座があり、その事実を名義人本人が知らなかった場合などは、20年2カ月を過ぎても返金が可能になるなど、没収要件は緩和されています。心当たりがある人は諦めずに問い合わせてみることが大切です。

郵便貯金に限らず、「使っていない預金口座がある」「ほったらかしにしている」など、心当たりのある人は多いかもしれません。将来的に慌てないため、また犯罪に利用されないようにするためにも、早めに所有口座を整理することをオススメします。休眠口座に入っているお金は、少額でもなるべく早く引き出し、同時に口座自体を解約するといいでしょう。