国内の富裕層は節税にならない海外の大学や大学院に寄付している
幸せなお金持ちになれる人とそうでない人の違いは何か。私は富裕層税務コンサルタント・税理士として、顧問先の確定申告の手続きもしていますが、その際には寄付金の領収書を多く目にします。寄付先には被災地への義援金もあれば、ユニセフ、日本赤十字社、国や地方公共団体、学校法人への寄付もあります。日本の税制には寄付金控除がありますが、その対象となる寄付先は限られています。
しかし、多くの富裕層は寄付金控除の対象外であるにもかかわらず、海外の大学や大学院に対しても母校への寄付を続けています。あるお客様は、「控除がなくても、自分が学んだ場所やお世話になった教授の研究を支援したい」「母校への感謝の気持ちを表したい」と話してくださいました。富裕層にとって、寄付という行為は税制上のメリットを超えた特別な想いが込められているようです。
幸せなお金持ちは自分以外のためにお金を使う
私が出会った富裕層の方々を見ていると、本当のお金持は「自己の価値観に基づいた投資や支出を行うことが多い」と感じます。特に、経験や知識の共有、次世代の育成、地域や世界への貢献に強い関心を持つ傾向があります。
寄付にしても長期的な視野を持っています。教育機関への寄付は、未来の人材育成や研究の発展に寄与するという意味で、長期的な影響をもたらします。母校などへ寄付をする富裕層の多くは「自分が受けた恩恵を次世代の学生や研究者に還元したい」との思いを持っています。
アメリカの調査会社「Wealth-X」が2018年に世界の超富裕層の趣味・関心事についてまとめています。対象は3000万米ドル以上の資産を持つ超富裕層です。これによると1位は「ビジネス」ですが、2位には慈善活動や社会奉仕が入っています。
多くの富裕層が自分の資産を社会貢献に役立てている
多くの富裕層が、自身の資産を社会貢献に役立てたいという強い意志を持っており、例えば2010年にビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが「The Giving Pledge」を提唱しました。これは、自分の財産の大半を生前または遺言で慈善活動に寄付することを公約するよう呼びかけるもので、富裕層が社会に貢献する意思を公に表明する場として機能しています。
世界には多くの著名な財団があります。財団は主に慈善活動や教育、医療、科学研究、社会福祉などさまざまな分野で貢献しています(図表2)。
日本の富裕層も資産を社会貢献に役立てるようになっている
こうした活動は海外だけではなく、日本でもおこなわれています。慈善活動、社会的投資、教育機会の提供、地域コミュニティの支援など、積極的に資金を投じている起業家がいるのです(図表3)。
たとえば、ファーストリテイリング創業者柳井正氏の公益財団法人柳井正財団では、有望な人材が経済事情等に関わらず世界トップレベルの教育機会を得られるよう支援し、2017年より米国と英国の大学に進学する学生に返済不要の給付型奨学金を51億円支給、2023年9月時点で233名の奨学生を送り出してきました。ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏が創設した公益財団法人孫正義育英財団でも新しいテクノロジーの研究開発費用や、起業や社会活動に関わる準備費用、留学や進学費用を支援しています。
富裕層がこうした財団を設立する背景には、物質的な豊かさだけでなく、「精神的な豊かさ」や「社会的な豊かさ」を大切にしていることがあります。
海外の大学や大学院への寄付は、彼らが得た教育や経験に対する感謝の表現であり、次世代への投資という側面もあります。また、寄付を通じて母校の発展に貢献することは、自分を育んだ社会に対する還元の一つとして捉えられます。このような「恩返し」の文化が、寄付行動の原動力になっている場合が多いと感じます。
海外と日本では寄付に対する考え方が違う
とくに欧米では寄付文化が広く根付いています。その理由には、歴史的、社会的、文化的な要因が大きく影響しています。
欧米では、特にキリスト教の影響が寄付文化の大きな背景となっています。成功した企業家や富裕層が社会に還元するという価値観が強く、成功者が社会貢献を行うことが尊敬される行動と見なされます。
特にアメリカでは、慈善活動を通じて自分の名を残すことが富裕層にとって一種のステータスです。最近は日本でも、東日本大震災をはじめとするさまざまな場面で、多くの芸能人や起業家が寄付活動に取り組んでいます。
しかし、日本では謙虚さや控えめな態度が美徳とされているため、富裕層が自分の社会貢献活動を公にすることが少なく、寄付文化が目立ちにくい側面があります。また、寄付を匿名で行うことが好まれる傾向もあるため、個人の寄付行動が社会全体に認知されにくいところがあります。
そのため、寄付の文化が根付きにくい面があると感じます。2022年4月から高校の授業で資産形成科目が必修化されたことや2024年にスタートした新NISAブームもあり、投資への関心が高まっています。欧米のような投資、貯蓄、お金の使い方、寄付をトータルにバランス良く学ぶことも必要でしょう。
見返りを求めない寄付文化が社会全体の豊かさを育む一助になる
本当のお金持ちは、起業して雇用を生み、社会貢献を通じてお金を循環させる役割を果たしています。富裕層の中にはお金の使い方に厳しい面がある方もいますが、本当のお金持ちは、「見えない価値」を大切にしています。
私たちは「収入」や「資産」といった目に見える価値にとらわれがちですが、それ以上に、その資産がどのように管理され、増やし、次世代へと受け継がれるかが、真の豊かさを測る鍵となります。寄付額の多さではなく社会の発展のために資産を活用できる人が本当のお金持ちです。
最近では、ふるさと納税やクラウドファンディングを通じて、応援や寄付という行為が少しずつ浸透しつつあります。日本では、歴史的にも社会的にも寄付が根付くのが遅れていると考えられていますが、グローバルな影響や新しい社会意識の高まりを受けて、寄付文化が徐々に広がりつつある兆しが見え始めています。
成功した人が次々と寄付をすることで、大学の研究レベルの向上に貢献するでしょう。とくに理系分野では研究にかかるコスト増大が課題になっています。寄付は単なる経済的な支援にとどまらず、次世代の育成や社会貢献を通じて「どのような未来を作りたいか」を形にする手段でもあります。
億万長者が少ないいまの日本には難しいこととは
世界では、お金持ちの莫大な資産が、教育や健康問題、貧困問題など社会的に重要な問題の解決に用いられる仕組みができています。日本は世界に比べて億万長者が少ないため、まだ仕組みが出来上がっていませんが、もっと豊かになれば可能でしょう。そのためには、富裕層への課税強化はすべきではないでしょう。
日本は貧しくなりつつありますが、同調圧力が強く、人目を気にして消費に回らず、富が十分に循環していないのが現状です。私は、税金の仕事を通じて長年お客様の資産を守るサポートをしていますが、富裕層のお客様のお金の使い方を見るうちに、単にお金を貯めるのではなく、いかに使うかが非常に重要であると感じています。
老後の備えも大切ですが、お金を使うタイミングも重要です。私たちはその時にしかできないお金を使うことは、長い時間をかけて「見えない資産」を積み上げ見えない資産の総和を最大化することなのです。
みなさんもお金持ちの支出哲学を取り入れてみてはいかがでしょうか。彼らの支出哲学は、単なる消費や投資にとどまらず、価値観や生き方を反映しています。これは、私たちが将来の不確かな時代を生き抜くための重要なヒントを提供してくれています。