年末調整の季節がきた。もれなく税の還付を受けるには何に気を付けたらいいか。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「年末調整で申請が可能な所得控除は12種類ある。このうち、とくに見落としがちなもの3つに注意が必要だ」という――。
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天引きされている税金は「仮の金額」にすぎない

今年も残すところあと2カ月。会社にお勤めの方は、年末調整の書類を受け取る時期かと思います。本稿では、もれなく税の還付を受けるための注意すべきポイントを3つご紹介します。

そもそもなぜ年末調整は必要なのでしょうか。

企業は、従業員の税や社会保険料を徴収し、本人に代わって納税しています。ご存じのとおり、これらは毎月の給与から天引きされていますよね。

実はこれは「仮の税額」。たとえば、賞与は5カ月分、給与は1年間を通して変動がないものとして、計算されています。しかし、実際には残業時間などで月毎に給与は異なります。ボーナスも会社の業績によって変わるでしょう。

また、仮で天引きした税額には「配偶者控除」や「生命保険料控除」といった控除が反映されていません。

そこで、年末に、実際の給与や賞与、各種の控除を反映させ、本来の税額を算出します。そして、天引きした分との差額を「還付」または「徴収」します。これが年末調整です。

先日行われた自民党総裁選では「年末調整をなくす」という話題が出ていました。

今のところ実現する可能性は低いですが、年末調整を会社側が行わない場合、従業員が給与や経費、控除などを税務署に確定申告し、税や社会保険料を納めることになります。企業側の負担は減る一方で、従業員と税務署の負担が増えるということですね。

年末調整で控除申請が可能な所得控除は12種類

さて、話を戻しますと、年末調整で従業員が行うことは、自分が該当する控除を申請すること。勤め先は、従業員の家族の構成や保険加入の有無といった情報を知り得ませんので、年末調整の書類に記入して提出するのですね(給与や賞与に関する計算は、企業が行います)。

つまり、年末調整で控除を申請し忘れると、本来受け取るべき税の還付を受けられないことになります。申告漏れがないよう、自分が該当する控除をチェックしておきましょう。

年末調整では、15種類ある所得控除のうち12種類を申請することができます。

【図表1】年末調整で受けられる12の控除一覧(給与所得者の場合)
図表=筆者作成

確定申告でしか受けられない3つの控除

残りの3つの控除は、年末調整での控除計算が認められておらず、確定申告が必要です。

「確定申告だけすればよい」のではなく、年末調整をしたうえで、確定申告をする必要がありますので注意してください。

【図表2】確定申告でしか受けられない控除
図表=筆者作成

見落としやすい控除は…

これらの控除で、見落としやすい控除を3つご紹介しましょう。

1.「所得金額調整控除」:共働き+子どもの世帯は要確認

まず1つめは、「所得金額調整控除」。この控除は、2020年分から導入されたこともあり、見落としている人が多いかもしれません。

所得金額調整控除の対象となるのは、①給与が年850万円超で、23歳未満の子どもなど扶養親族がいる人(※)、②公的年金や企業年金を受給しながら給与所得もある人です。②のケースは確定申告でのみ申告が可能ですので、ここでは割愛します。

①の控除額は「(給与収入-850万円)×10%」で計算され、上限は15万円です。仮に所得税率が20%、住民税が10%とすると、所得税で3万円、住民税で1万5000円、計4万5000円の税負担減となります。

注意したいのは、要件を満たせば、両親ともにこの控除が使えるということ。夫婦どちらか一方しか使えない扶養控除のイメージから、どちらかしか申告できないと思い込んでいる人がいるかもしれません。所得金額調整控除は、夫・妻どちらも使うことができますので、共働きの世帯は申告漏れのないよう注意してください。

具体的には、「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」の所得金額調整控除欄(図表3参照)への記載をおすすめします。

(※)「23歳未満の扶養親族がいる」の他に、「本人・同一生計の配偶者・扶養親族に特別障害者(身体障害手帳1・2級などの障害が重い人)がいる」場合も対象となります。

【図表3】ここの欄への記載がないと「所得金額調整控除」の適用漏れに

家族の社会保険料を支払っている場合、控除対象になる

2.「社会保険料控除」:転職した人、家族の社会保険料を払っている人は要確認

2つめは「社会保険料控除」です。

社会保険料控除は、自分自身の保険料はもちろん、生計を一にする配偶者、そのほかの扶養親族の国民年金や健康保険料を支払った場合も対象となります。

この「生計を一にする」は、同居している必要はありません。生活費を共有していれば、離れて暮らしていてもOK。たとえば、別居中の仕送りをしている子や親も対象となります。家族の社会保険料を支払っている人は、見落としのないようにしたいところです。

たとえば親が子供の国民年金保険料を1年間支払った場合には、20万3769円(1万6980円×12カ月)を所得から差し引きできます。仮に所得税率が20%、住民税が10%とすると、所得税で約4万円、住民税で約2万円、計約6万円の税負担減となります。

年の途中で転職した人も注意が必要です。

転職の期間中に、会社員でない期間(第1号被保険者となった期間)が生じた場合は、自分で社会保険料を納めているはず。この自分で納めた社会保険料も所得控除の対象となります。

自分で支払った社会保険料を「給与所得者の保険料控除申告書」に記載して、転職後の会社に提出します。

会社員でない期間が生じなかった場合は、転職前の会社から発行された源泉徴収票を、転職後の会社に提出するだけでOKです。

iDeCoの圧着ハガキを捨ててはいけない

3.「小規模企業共済等掛金控除」:iDeCoに加入している人は要確認

3つめは「小規模企業共済等掛金控除」です。

長い名称ですが、これは確定拠出年金(以下DC)への掛金が対象となる控除です。個人型DCである「iDeCo」に加入している人は、この控除が該当します。

iDeCoの加入者には、10月頃に国民年金基金連合会から「小規模企業共済等掛金払込証明書」が自宅に送られます。記載されている1年分の掛金を「給与所得者の保険料控除申告書」に記入しましょう。なお、この「小規模企業共済等掛金払込証明書」もあわせて会社に提出します。

企業年金のない会社員の上限額である毎月2万3000円をiDeCo掛金として支払った場合は、年間で27万6000円が所得から差し引かれます。仮に所得税率が20%、住民税が10%とすると、所得税で5万5200円、住民税で2万7600円、計8万2800円の税負担減となります。

企業型DCの掛金は企業側が行いますので、従業員が申請する必要はありません(マッチング拠出で掛金を上乗せしている場合も同様に勤め先が手続きします)。

確定申告をする必要がある会社員は?

先述しましたが、年末調整で処理できない所得控除に「雑損控除」「医療費控除」「寄附金控除」があります。これら3つの控除に該当する人は、会社員であっても自分で翌年の3月までに確定申告する必要があります。

また、住宅ローン控除を申告する1年目の人(2年目以降は年末調整で申告できます)、12月末までに会社を辞める人、年間の給与総額が2000万円を超える人は、年末調整の対象外となり、自分で確定申告をする必要があります。

加えて注意したいのが、副業や投資など「本業以外の所得」が20万円を超えると、確定申告をする必要があるということ。

最近投資を始める人が増えていますが、「NISA」や「特定口座(源泉徴収あり)」以外の口座で取引した株式や投資信託の利益が20万円を超えると、確定申告が必要になります。

ちなみに、ここでいう所得とは、収入金額から経費を差し引いた利益に相当する部分のこと。物品販売であれば売上げから仕入れにかかった費用や、送料などを差し引いた金額が所得となります。投資における所得も、取引のために購入したパソコン、本、セミナーなどを経費として差し引くことができます。

申請し忘れた控除は「確定申告」で申告可能

最後に、年末調整で申請し忘れた控除があった場合をみておきましょう。

もちろんその控除はもう使えない……というわけではなく、①1月末までに会社に申し出て再年末調整処理する、もしくは②自分で確定申告することで申請できます。

①の場合、年末調整のやり直しができるのは、源泉徴収票が従業員に配布される翌年1月末日まで。ただ、各種の事務処理がやり直しになるため、勤務先からは歓迎されない可能性があります。

②の場合は、勤務先にやり直しを申請せず、1月末に源泉徴収票を受け取ったうえで、その源泉徴収票に反映されていない所得控除を自分で確定申告書に追記します。

2025年の確定申告の期限は3月17日(月)までです。いずれにせよ、控除の適用漏れは一手間かかってしまいますので、年末調整で確実に控除を申請しておくと良いでしょう。