※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
本人 会社員(年収1000万円)
妻 パート(年収40万円)
子供 小学生
住まい マンション(住宅ローン約22万円/月 ※修繕積立金などを含む)
1億円超えのタワマンを購入
リッチでステイタスを感じる「タワマン」暮らしを手に入れたものの、3年後、後悔を口にするようになったご家族。タワマン生活のどこに落とし穴があったのか。資金面と生活面から、タワマン購入について考えてみます。
佐竹純さん(仮名/38歳)は3年前、都市部郊外の人気エリアに新しく建ったタワーマンションを購入しました。マンション内にはコンビニ、フィットネスジム、ティールーム、キッズルームなどが完備され、受付には24時間、コンシェルジュが駐在しています。
仕事で多忙を極める佐竹さんにとって、「マンション内でほとんどの用事を済ませることができる環境は魅力的だった」とのこと。妻と小学2年生のお子さんもホテルのような豪華な設備に圧倒され、家族全員がタワマンでの新生活に胸を膨らませていました。
その物件価格は、1億1000万円。大手メーカー勤務の佐竹さんの年収は1000万円で、妻はパート。世帯年収的には“高嶺の花”でしたが、佐竹さんの両親から4000万円(!)の援助が受けられたことから、そのお金を頭金に、残り7000万円を35年ローンで組みました。ローンの返済額は、月約18万円。心機一転、タワマンでの新生活がスタートするのですが……。
修繕積立金と管理費の負担が重くのしかかる
「タワマンを買ったことを後悔してるんです」
購入から3年後、私の元を訪れた佐竹さんはどんよりとしていました。あれほどタワマンへの引っ越しを嬉しそうに語っていた彼に、一体何があったのでしょうか。
まず、佐竹さんが最も悔やんでいたのが、あの「豪華な設備」です。いつでもジムに通える環境を手に入れたにもかかわらず、激務の部署へと異動になってしまったことから、3年間で数えるほどしか通えていないと言います。また、キッズルームなどは予約制のため、使いたいときに使えないストレスがあったり、ワークスペースで仕事をしようとすれば、ご近所のお母さん・お父さんに遭遇。思うように仕事もはかどらず、結局、会社か自室で仕事をすることになってしまうとのこと。
満足に施設を使えているとは言い難い状況の中、修繕積立金・管理費合わせて月3万8000円もの支払いが発生していることも、頭痛の種になっていました。先程から書き連ねているようなさまざまな共用施設を維持するには当然、お金がかかります。コンシェルジュサービスや夜間警備員、清掃スタッフといった人件費に加え、高層マンションのエレベーター管理や窓拭きには専門の技術が必要とされることから、業者への発注費も普通のマンションに比べて割高になるんだそう。
新築や築浅物件の場合、修繕積立金は低い傾向にありますが、タワマンの場合、管理費が高くつくケースが多く、両方合わせるとそれなりの出費になってしまうのです。
洗濯物にエレベーター、住んで気付いた難点
また、実際に住んでみて、想定外の住みにくさを感じた点もあったそう。そのひとつが、「洗濯物」。洗濯物を外に干すことが禁止されているため、乾燥機を使うことに。電気代もかかります。佐竹さんは「洗濯物の心配をするなんて入居するまで想像もしていなかった」と話します。
加えて、タワマン住民からよく耳にするのが、エレベーター問題。上層階にいけばいくほどエレベーターがなかなか来ないので、「地味に毎回イライラしちゃう」と、タワマン最上階に住む方から聞いたことがあります。また、最上階は地震の揺れ方もかなりのものだそうで、地震対策がしっかりなされた構造であっても、かなりの恐怖を感じるとのことでした。
災害とタワマンといえば、2019年、台風19号の影響で川崎市にあるタワーマンションの電気設備が浸水し、全棟が停電。600世帯以上が停電と断水に見舞われる事態がありました。これを機に、タワーマンションにおける危機管理のあり方も見直されるきっかけになりましたが、購入前にさまざまな可能性を考慮しておかなければいけません。
子供の中学受験も控え、家計は厳しくなる一方
佐竹家の家計の話に戻ると、ローンは月々約18万円でしたが、ここに修繕積立金・管理費を含めると、約22万円になります。年収1000万円の場合、税制的な優遇も受けづらく、ボーナスもならすと、月の手取りは60万円ほどになるので、家のお金を払った残りの生活費は38万円。
小学5年生になったお子さんは中学受験を見据えて進学塾に通っており、これから本格的に教育費がかかってきます。昨今の物価上昇に加えて、ご近所との交際費もばかにならず、今後は修繕積立金もじわりじわりと増えていき、変動金利も上がりそうな中、まったく余裕はありません。
しかし、そんな経済的不安要素がさまざまある一方、豪華な設備が使えなくとも、一度手にした“タワマン住民”というステイタスや教育環境は手放し難く、佐竹さんは売却する勇気もなかったのです。
「売らない」なら妻の稼ぎを増やすしかない
実は今年1月、相続税を低く抑える効果のあった「タワマン節税」が改正されたこともあり、タワマン購入時のメリットが低くなってきている現状があります。加えて、都市部にタワマンが乱立されたことで相対的に価値が落ち、高値で売ることが難しくなってきている話も聞きます。そもそも佐竹さんは新築のため、不動産会社の宣伝費などが加味された「新築プレミアム」代が上乗せされた価格で購入しています。これにより、市場価格の約2割増しとなる新築物件は、売却時に利益を得ることが難しくなるとされています。
そんな状況もあり、佐竹さんに「売る」という選択肢がない以上、物件は維持するしかありません。そのためにすべきは、生活をダウンサイジングして支出を減らすか、収入を増やすかの二択。その中で私が一番におすすめしたのは、「妻の稼ぎを増やすこと」です。
収入アップを考える場合、佐竹さんの転職の可能性や資産運用を見直すといった選択肢もありますが、佐竹さんの妻は年間40万円程度のパートのみなので、まだまだ働ける余地がありそう、というのがもっとも大きな理由です。会社員である佐竹さんの賃金をすぐに上げることは難しくとも、妻のパートの回数を増やすことはすぐにコントロールできる範囲ではないか、ということですね。
佐竹さん自身、昔から妻にもっと働いてもらいたい思いはあったそうで、ファイナンシャルプランナーという専門家の立場から後押ししてほしい部分もあったようです(そのようなご依頼も珍しいことではありません)。御本人は専業主婦希望だそうですが、タワマンに住みたいという家族の意思があるなら、世帯年収を上げるベストな方法を夫婦で話し合っていただきたいと思います。
30歳で「自分の年収分」の貯金があるのが理想
また、佐竹さんの現在の貯金額は200万円なのですが、38歳という年齢と現在の年収を考えると、本当なら、1000万円はあってほしいところです。
通常のファイナンシャルプランニングとしては、30歳で自分の年収分の貯金があるのが理想とされています。たとえば毎月の手取りの2割を貯め続けると、5年間で自分の年収分が貯まりますよね。給料1年分が手元にあれば、なにかで仕事を辞めたり、病気や怪我、また臨時の出費があった際にも最低限やりくりができるので、年収分の貯金をまずは目指して、家計管理も頑張ってほしいなと思います。加えて資産運用も強化し、来る金利上昇・修繕積立金の値上げにも耐えられる体制を整える必要があるでしょう。
タワマンは「賃貸」で試してみるといい
不動産会社の方とお話ししてわかったのですが、佐竹さんのように、タワマンを買って後悔している方は少なくないそうです。そういった例を目の当たりにしていたこともあり、不動産会社の方は、まず賃貸でタワマンに住んでみることをおすすめされているとのこと。
洗濯物やエレベーターの例のように、住んでみて気づくことは多々あります。地域の利便性、家の使い勝手、周辺の教育環境などなど、生活を通してタワマンを見ることで、高額なお金をはたいて買うに値するマイホームかどうか考えてみるのは、非常にいい方法だと思いました。
家の購入には慎重にも慎重を重ねて、と思うのは、私が今、家の売却ができずに困っているケースをお聞きしているから、というのもあります。この方はコロナ禍でリモートワークがスタンダードになった際、家に広さを求め、神奈川県の郊外に一軒家を買われた方でした。
最寄り駅から徒歩30分の中古の一軒家で、かなり傷みも激しかったものの、メンテナンスをして快適に暮らしていました。しかし、平常運転となった今、やはり都心での暮らしが懐かしくなったことで買い替えを希望しているものの、一向に買い手がつかないのです。
タワマンもリモートワークも、社会的な潮流の中で生まれたライフスタイルともいえます。その中で、自分軸を持って、長期的な目線に立てるかどうか。マイホーム選びの極意を学んだご相談でした。