自動車は高い買い物だ。家計への負担をなるべく少なくする方法はないか。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「車は保険や車検、ガソリン代に駐車場代など維持費がかさむ。どうしても購入するなら、月々のローン返済額が手取りの1割以内になるように計画したほうがいい」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

車を運転する人
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ずっと欲しかった車を300万円で購入

のっけから結論を申し上げると、私はファイナンシャルプランナーとして、マイカーでなく、カーシェア・レンタカー推しです。ただ、車なしでは生活ができない地域の方も多くいらっしゃいますし、車を趣味にされている方もいますよね。そこで今回は、自動車ローンの落とし穴をお伝えしつつ、マイカー派の皆さんに注意していただきたいポイントをお話しします。

最近結婚をし、まもなくお子さんが生まれる畠山透さん(仮名/37歳)。趣味は車で、女性とは縁遠い生活をされてきたそうですが、愛車で仲間と遊びに行ったことが縁でゴールインされたとのこと。「ますます車に愛着が湧きました」と語ります。

そもそも畠山さんがマイカーを持ったのは、転職がきっかけでした。都内に暮らしていた畠山さんは、仕事が変わったことで北関東にある営業所の配属に。もともと車好きだったこともあり、マイカー通勤にうってつけだと、ずっと欲しかった外車を中古で購入します。その金額、300万円。私はまったく車に詳しくないのですが、よっぽど素敵な車なんだろうなぁ、と驚きました。

畠山さんが想定外だったのは、銀行のカーローン審査に落ちてしまったこと。そこでディーラーローンをおすすめされたことから、中古車販売会社でローンを組みます。その際、キャンペーン中ということで、普段は10%近い金利が6%となり、車体の割引もあったとのこと。結果、返済期間5年で、月々の返済額は約5万8000円となったのでした。

結婚・妊娠でローンが一気に重荷になった

購入時、畠山さんは独身の一人暮らしで、年収は550万円。ボーナスを含めて月に均すと手取りは35万円ほどだったので、正直、余裕とは言えません。ただ、カツカツながらも、他に散財するようなこともなかったため、問題なく生活はできていました。

そんな時期に冒頭の彼女と出会い、“スピード婚”。そして妻の妊娠が発覚したことから畠山さんの生活不安が募り、私のもとにやってきたのです。なんでも奥さんが妊娠を機に体調を崩してしまったそうで、産後もしばらくは働けないであろう状況の中、畠山さんの片働きで妻と子どもを養い、愛車のローン返済までできるのか――これが、悩みの核心部でした。

ディーラーローンより銀行ローンの方が金利は低い

畠山さんへのアドバイスの前に、まずは、自動車ローンの種類についてご説明したいと思います。自動車ローンには大きく分けて、「銀行ローン」と「ディーラーローン」の2種類があります。「マイカーローン」などと呼ばれる銀行ローンの一番のメリットはずばり、金利が安いこと。メガバンクやネット銀行といった金融機関や借入金額、借入期間によっても違いはありますが、平均して3~4%という低金利でローンが組めることが、その最大の利点です。畠山さんがディーラーローンのキャンペーンでも6%の金利だったことを鑑みると、その差がわかりますよね。一般的に、ディーラーローンは、平均で金利8%ほどといわれています。

また、所有権にも違いがあります。銀行ローンの場合、所有権は購入者にありますが、ディーラーローンの場合は所有権がディーラーにあるため、ローン完済までは売却や譲渡・下取りなどができませんので、注意が必要です。

一方で、審査については、ディーラーローンの方に柔軟性があります。畠山さんは銀行ローンの審査に落ちてしまいましたが、転職直後の場合、銀行ローンは審査が通りにくいと言われています。方や、ディーラーローンは審査のハードルが低く、最短で購入当日、ローン審査まで終了することも。最大1週間ほど審査期間を要する銀行ローンと比べ、ディーラーローンは申し込みに関する事務手続きや期間が大幅に短縮できます。

おもちゃの車と電卓と積み上げたコイン
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「残価設定型クレジット」のメリット・デメリット

さらにディーラーローンの一種として利用者が増えているのが、「残価設定型クレジット」こと、通称「残クレ」です。これは、車のローン返済時における価値をあらかじめ設定し、その分を差し引いた金額分だけローンを組む、という方法です。たとえば200万円の車を残クレで購入する場合、ローン完済となる5年後の価値を50万円とみなし、残りの150万円分でローンを組むということ。つまり、普通のローンに比べて月々の返済額が軽くなるので、購入時のハードルがグッと下がるわけです。

お得に見える残クレにも、注意点があります。先程の例で、5年かけて150万円のローンを完済しても、残価の50万円を一括で支払わなければ、購入者の所有物とはなりません。一括返済できない場合には再クレジットでの分割払いとなり、その際の金利はディーラーローンの金利と同じくらいになることが多いそう。また、残価の支払いをしない場合は、ディーラーに車を返却するか、買い替える必要が。返却の際にも、規定の走行距離をオーバーしてしまったり、傷や凹み、カスタマイズなどがあると、追加料金が発生する可能性も。残クレを利用して「案外使い勝手が良くなかった」という人が一定数いるのは、車を楽しむ際、さまざまな制約がかかるからかもしれません。

完済を目指すなら共働きが現実的な道

このような点を踏まえると、レンタル感覚で新しい車をいろいろと楽しみたいという、買い替え前提の方が、残クレ向きといえるでしょう。

では、話を畠山さんのケースに戻します。返済に重い負担を感じていた畠山さんですが、ディーラーローンを組んでしまったため、途中売却ができません。売却したい場合には、銀行ローンなどに借り換え、所有者を畠山さんに変更する必要があります。しかし、先程の説明通り、銀行ローンは審査が厳しいこともあり、借り換えの際には手数料も発生します。もし借り換えができないとなると、残りの道は、完済しかありません。今まさに、どちらの選択をするのか、銀行に手数料などを確認しているところですが、完済しかないとなった場合には、パートナーの方の体調や子育て状況を見ながら、共働きをしてもらうのがもっとも現実的な道ではないかと、お答えしました。

車の形をした白い紙を渡す女性の手
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自動車ローン金額の目安は「手取りの1割」

では、畠山さんの自動車ローンにおける落とし穴はどこだったのでしょう? もし、銀行ローンの審査が通っていた場合で考えてみると、確かに金利は抑えられますが、金利が6%から3%になったとて、借入期間が5年の場合、月々にすると約4000円ほど下がる程度。私はやはり、購入金額が年収に対して大きすぎたのだと思います。

そもそも車は月々のローンのみならず、保険や車検、ガソリン代に駐車場代など、維持費がかさむもの。家計に占める固定費の割合を大きく跳ね上げる要因となるため、私は、マイカーをおすすめしないタイプなのです。

ただ、生活で絶対に車が欠かせないエリアもあります。その際、自動車ローンを組む目安としては、手取りの1割以内をめどに計画をしていただきたいと思います。そうすると、畠山さんの場合、月々の返済額が3万5000円を超えないローンであれば、許容範囲だったことになります。

賃貸にしろ購入にしろ、家という固定費がある中、さらにそこへ車も加わると、それだけで家計の約4割がなくなる計算です。購入時には、燃費の良さなどを念頭に、車種をしっかりと選ぶことと、ローンを組む際は、面倒でも、とにかく金利が安いものを選ぶことです。おすすめは、やはり組めるなら銀行ローンですね。

マイナス金利が解除されたことで、変動金利で自動車ローンを借りている場合は、今後、金利が上昇するかもしれません。利上げに対処できる余力を作ることも考えながら、上手な車との付き合い方を模索してください。