右から、味の素AGF(株)人事部 人事グループ グループ長の播磨善晴さん、同グループ グループ長代理の小椋比呂美さん。一方的な制度改定ではなく、社員全員で組織運営に変化を起こせるよう尽力している。
2023年8月に設立50周年を迎えた味の素AGF(株)。この節目の年にスタートした新たな人財マネジメント戦略が「HRコンパス」だ。初年度から一気に12の制度や施策を新設し、社員の多様なキャリアや意欲的なチャレンジを多面的に支援することで、ダイバーシティ&インクルージョンを強力に推進している。企業の人事施策としては大規模かつ大胆なこの取り組みについて、人事部の播磨善晴さんと小椋比呂美さんに話を伺った。

将来の事業を支える“人財”のためにできることを考えた

味の素AGF(株)が2023年度から開始した「HRコンパス」は、同社が「2030年度にありたい姿」を実現するための取り組みだ。価値観の多様化や人生100年時代の到来など、今後予想される激しい環境変化の中で人的パフォーマンスの最大化を目指す。

人事部の播磨さんによれば、そもそもの始まりは将来の事業のあり方を考えるために立ち上げた全社的なプロジェクトだったという。

播磨善晴(はりま・よしはる)
味の素AGF株式会社人事部 人事グループ グループ長
1997年入社。大阪・東北・東京などで営業職を経験後、本社事業部へ。その後営業や営業企画、ECビジネスでマネージャー職を経て現職。

そのプロジェクトを受けて、将来の事業を支える“人財”について人事部内で改めて議論が行われた。キャリアや働き方が多様化する中、社員のライフスタイルやライフイベントに会社がどう関わるべきか。人口減少や雇用の流動化が進む中で、優秀な人財をどう確保するか。組織をまたぐ横のつながりや交流を増やして、互いに学びや刺激を与え合う仕組みが必要ではないか――。

自由な議論の末、味の素AGF(株)が目指す“ありたい姿”は「多様で優秀な人財の確保」「多様なキャリア(観)への対応」「プロジェクト型働き方の推進」「多様な働き方への対応」の4つに集約された。それを具体的な人事組織施策に落とし込んだのが「HRコンパス」だ。「必要人財の充足化/成長化/活性化/安定化」のサイクルを回すため、2023年度から12の施策や制度をスタートした(図参照)。

スタートして分かった、社員からの意外な反応

様々な事情から退職した社員の再就職を可能とする「カムバック制度」や、本人が挑戦したい部署にみずから異動を希望できる「手挙げ異動制度」には導入後さっそく応募があり、人事部も反響の大きさを実感しているという。再雇用終了後も仕事を続けたいという意欲のあるベテラン社員に継続雇用をオファーする動きも始まっており、活躍の場はますます広がりを見せている。また、社員の住環境もより公平になるよう、転勤や社宅など福利厚生の制度を整えている最中とのこと。

そしてこれらの人財マネジメントを支えるのがDX化だ。「タレントマネジメントシステムの導入により、キャリアの見える化を進めています。ロールモデルとなる人物の経歴を参考にできたり、そのために必要な資格が分かるようにしたりと、社員たちのキャリア形成の後押しになればいいなと思っています」と播磨さんは期待を寄せる。

企業が新たな取り組みを始める場合、まずは部分的に着手して様子を見るものだが、これだけの数を同時に稼働させたスピード感とダイナミックさには驚かされる。小椋さんは「社員からの期待の声が取り組みを後押しする力になりました」と話す。

「『HRコンパス』の始動に当たって社内向けの説明会を開いたのですが、社員から『私たちの未来はこうなるのかとワクワクしました』といったポジティブな反応をたくさんもらいました。人事施策を推進するには、主役である社員の皆さんの賛同が必要です。もともと味の素AGF(株)には、“これをやる”と決めたら一気に動き出して物事をやり遂げる組織風土があるので、今回もそれがプラスに働いたと感じています」

今後は施策の規模や適用範囲をさらに拡大するとともに、人事制度の柱となる評価制度や報酬制度などの見直しにまで踏み込み、2030年に向けて「HRコンパス」を発展させていく方針だ。

播磨さんと小椋さんも、未来をつくるためのチャレンジをますます加速させたいと意気込みを見せる。

「どの施策や制度も当社では前例のない思い切った取り組みですが、失敗を恐れず挑戦し、トライ&エラーから学んだことを次へ活かして会社をより良くしていこうという機運が社内でも高まっています。

この取り組みによって味の素AGF(株)で働く社員が元気づけられ、夢や希望を持って楽しく働ける環境をつくっていきたい。それが私たちの想いです」