4月からスタートした東京都の高校無償化。物価高に苦しむ家計にとって、数少ない「よいニュース」のうちの一つかと思われるのだが、何やら「ぬか喜び」の可能性がありそうだ。保育園児、小学生、中学生、あわせて6人の子どもを持つFPの橋本絵美さんは、鵜呑みにすると大変なことになると、警鐘を鳴らす――。
教育のためのお金のイメージ
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“無償化”というワードの落とし穴

少子化対策として、国や地方自治体による“無償化”の制度が施行されています。令和元年10月からスタートした幼保無償化、令和2年4月からスタートした高校無償化と大学無償化。今話題となっているのは多子世帯の大学無償化やこの4月からスタートした東京都の高校無償化です。

“無償”というワードを見ると、費用が一切かからないと思うかもしれませんが、無料で通えると思ったら大間違いです。“無償化”ワードの落とし穴についてお話しします。

遡ると幼保無償化がスタートした頃、我が家には幼稚園に通う4歳児と保育園に通う1歳児がいました。所得制限なしの幼保無償化で保育料が無料になる! と喜んだのですが、実際には保育料が完全に無償になるのではなく、上限があるとのことでした。また、保育料が無償となるだけで、それ以外の費用はかかります。それでも負担が減るのならよかった! と喜んだのも束の間、我が家が通っていた園では、無償化として補助される金額分保育料の値上げがあり、実際の親の負担は変わらないということになってしまいました。

ちなみに、一般的に幼稚園ではこのような費用が必要になります。

・入園料
・制服代
・保育料
・設備費
・給食費
・バス代
・教材費
・行事費
・父母会費
・延長保育料

このうち幼保無償化の対象となるのは保育料のみで、月2万5700円という上限があります。無料で通うことはできないと考えておいた方が良いでしょう。また、預かり保育については利用日数に応じて最大月1万1300円で、保育の必要性の認定を受けておかなければいけないため、該当しない場合は無償の対象外となってしまいます。

我が家は幼稚園で預かり保育をしながら働いていましたが、この一件から保育園に転園することを決めました。認可保育園の場合は自治体で決められた保育料と給食費のみの負担で通わせることができ、3歳児クラス以上であれば保育料は無償化の対象のため、給食費のみの負担で済むからです。

ただし、幼保無償化となるのは3歳になった月からではなく、3歳児クラスの4月から無償となるという点には注意してください。

小中学校の隠れ教育費も忘れないで

小中学校においては義務教育なので私立進学を希望しなければ学費はかからないのではないか? と思うかもしれませんが、制服(標準服)、体操服、カバン(ランドセル)など入学準備には数万円程度はかかります。また、毎月の学校給食費やPTA会費、学用品や校外活動費なども必要です。

最近では学校給食費を無償とする自治体も増えてきました。私の住んでいる自治体でも当初期間限定で無償化の案内が来たため、期限が終了となる3月には、4月以降はどうなるのか? とちょっとドキドキしていました。4月から3人が小学生、2人が中学生となるので、学校給食費が無償かそうでないかで毎月の支出がかなり変わることになります。ひとまず、令和6年度は継続することとなりましたが、対象期間が令和7年3月31日までとなっているので、それ以降どうなるかはわかりません。無償となって助かる面もありますが、また支払いが再開するとなるとやはり家計としても精神的にもダメージを受けるので、継続できる制度として施行していただきたいものです。

子育て支援については自治体によってかなり差があります。自治体の中には保育園の給食費が無償となる自治体もあれば、第3子以降の保育料が無料となる自治体もあります。学童期には学校等で放課後の居場所を無料で提供してくれる自治体もあります。給食無償化も国ではなく、自治体独自の支援です。自治体の子育て支援によって家計の負担額が大きく変わってきます。子育て世帯の住まい選びの際には子育て支援についてもよく調べておいた方がいいと思います。

高校無償化の落とし穴…!

高校、大学も無償化されたと思っていたら、また無償化がニュースになっていてどういうことなの? という質問もありました。実は現状の“無償化”は、誰でも無償となるわけではなく、支給上限と所得制限があります。無償化だから安心と思っていたら、対象外というケースが少なくありません。

【図表1】支給額のイメージ
出所=文部科学省HP高等学校等修学支援金制度

高校無償化、私立高校無償化と言われる高等学校就学支援制度では公立高校の場合年11万8800円、私立高校の場合39万6000円を上限として支給されますが、所得制限があり、年収590万円以上になると支給上限が11万8800円となり、年収910万円以上になると支給されません。(※年収は目安であり、扶養やその他控除により異なる)

また、授業料が無償となるだけで、入学時には入学金や制服代、教科書代などで数万円から数十万円の費用がまとめてかかります。

今回話題となっている東京都の高校無償化では高等学校就学支援制度の対象外となってしまう世帯にも同額の助成を行うというものです。所得制限なく、保護者が都内に住んでいれば、都外の高校に通っていても無償化の対象となります。

【図表2】世帯年収区分別 授業料の負担軽減額
出所=私立高等学校等授業料軽減助成金事業 東京都私学財団 (shigaku-tokyo.or.jp)

今まで受けることができなかった助成を受けられるようになったことは家計にとっては大きなプラスです。ですが、授業料が無償になるなら私立に通わせても大丈夫なのね! と安易に考えるのはおすすめできません。授業料が上限額以上の場合、超えた部分は自己負担となりますし、私立の場合は授業料以外の費目で徴収される費用がかなりかかります。

実際に中高一貫校に通うわが子の明細を見ると、以下のような項目が並んでいます。

【図表3】中高一貫校の費用明細例

このうち無償となるのは授業料の部分だけで、その他の費目で結局年間50万円近く支払うことになります。

大学無償化で多子世帯も安泰なのか⁉

実は大学無償化も2020年4月から高等教育の就学支援新制度としてスタートしています。ただし、この高等教育の就学支援新制度では授業料と入学金が助成されますが、支援金額の上限と所得や保有資産の要件があり、対象となる世帯はかなり限られています。

【図表4】世帯収入によって支援を受けられる額が変わるの?
出所=私立高等学校等授業料軽減助成金事業 東京都私学財団 (shigaku-tokyo.or.jp)

そして、2025年からスタートする予定の新しい大学無償化ですが、こちらは所得制限なしで扶養されている子どもが3人以上の場合、1人目から入学金・授業料が無償になると言われています。

子どもが3人いると全員大学が無償になるかのような言い方ですが、子どもが3人いたとしても1人目の子どもが社会人になり、扶養から外れるとその時点で無償化対象ではなくなるので、子ども3人の場合は一番上の子と二番目の子の途中までの学費が無償となるというケースが多いのではないかと思います。子どもの年齢が離れている場合は無償の対象となるのは一番上の子だけということもありえるでしょう。また、こちらも無償化と言いつつ支援金額に上限額が定められています。

3人いても全員分学費が無料になるわけではないということを理解しておいた方がよさそうです。

過去の教訓を生かそう

現在異次元の少子化対策として、児童手当の拡充なども含めた経済的支援の強化が検討されていますが、思えば2009年に発足した民主党政権時にも似たようなことがありました。当初は所得制限なしで一人2万6000円の子ども手当を支給するという話でしたが、財源確保のために年少扶養控除が廃止され、控除がなくなったにもかかわらず、結局一人2万6000円という子ども手当も支給できないということになり、現状の児童手当となってしまいました。この児童手当でさえ所得制限による特例制度が施行され、さらに2022年には所得上限を超える場合は支給停止となっています。

この流れから10月から児童手当を拡充すると言われても、にわかに信じられません。高校や大学の無償化についても新しい制度が施行される頃には対象外の年齢になってしまうという子どもも出てくるでしょう。また、まだ生まれていない子どもたちや小さい子どもたちが高校、大学に進学するころまでこの制度が続くかどうかの保障もありません。やはり子どもの学費は自助努力で確保しておいた方がいいのではないかというのが実際にはしごを外され続けてきた者の意見です。

まとめ

無償化は全然無料じゃないということがご理解いただけましたか? 授業料が無償化されても授業料以外の費目が沢山あります。また、学校に支払う以外の費用も少なくありません。無償となるのは学費全体の一部であるにもかかわらず、全てが無料になるかのような印象を持たせるのは問題であると思います。無償化されるもの以外の費目での値上げも実際にありえるので、結局私たち親の負担はあまり減らないかもしれません。また、このような支援制度は子どもが高校生、大学生になる10年後、20年後まで続かないかもしれません。結局財源確保のためには私たちや子どもたちが負担しなければいけなくなるという可能性もあります。無償化というワードを鵜呑みにして、まったくお金がかからないという幻想を抱かずに、子どもの学費準備は国の援助をあてにしすぎず、自助努力でこつこつ計画的に準備しておくことをおすすめします。