黒木メイサ、安達祐実、MEGUMIなど、有名人の離婚発表が相次いだ2023年の年末。離婚した女性は、結婚前までのキャリアを取り戻せるのか。婚活・結婚カウンセラーの川崎貴子さんは「女優なら主演級のスターになる、一般人なら管理職や社長を目指すという場合、結婚や出産で10年ものブランクが空くと、そこからのキャリアアップは難しいのが現実」という――。
離婚届を挟んで相対して座るカップルの1人が、結婚指輪を外している
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芸能人の離婚が相次ぎ、結婚10年なら頑張ったという印象に

有名人カップルの誕生よりも離婚報道に注目が集まった2023年。それもそのはず、篠田麻里子、島袋寛子、宇賀なつみ、田中美佐子、広末涼子、羽生結弦と、誰でも知っている有名人の離婚が続いたため、昨年、われわれはすっかり「芸能人=離婚する」みたいな偏見に満ちた耐性を備えてしまったように思う。よって、12月の「黒木メイサ&赤西仁が離婚報告」の頃には「結婚10年? ずいぶん頑張りましたね」と、驚きよりも労いの気持ちで第一報を受け留め、おのおのクリスマスや大掃除や納会等の年末行事をこなした感がある。

かつて黒木メイサが授かり婚して芸能界の第一線から姿を消したときは、おめでたい報道にもかかわらず「もったいない!」と、思わず口にしてしまった私。芸能事務所の社長じゃあるまいし大きなお世話この上ないが、それほどに当時の黒木メイサは他の追随を許さない特殊な美しさがあり、これからが楽しみな女優さんだった。だから、出産後、もっと早く復帰するのでは? と期待していたのだった。

それというのも、日本の主演級女優は「大人の女」が圧倒的に少ない。年齢的には大人なのだが、「大人の女然」とした女優が少ないという意味で。

黒木メイサは「大人の女」を演じられる貴重な人材だった

私が子どもの頃は岩下志麻ねえさんや梶芽衣子、加賀まりこや浅野温子みたいな、妖艶でカッコよくて、絶対に身近にいないような美女たちが主演女優を張っていたものだ。今見ても「え? この当時でまだ20代?」と驚くほどに、今の女優さんたちとは逆に、実年齢より年上に見えた彼女たちは、演技力はもちろんのこと圧倒的な存在感を放っていた。

かっこいい主演級女優は現代にもいるにはいるが、天海祐希も米倉涼子も「うまくて」「かっこいい」担当である。「強い女」だけじゃなく、情念を表現したり、色香を漂わせたりする往年の大女優たちや海外で言うとアンジェリーナ・ジョリーとかシャロン・ストーンとかシャーリーズ・セロンに匹敵する女優はここ30年近く日本で見つけられず、私も私のゲイの友人(共に映画『吉原炎上』が大好物)はずっと欲求不満だった。そこに彗星すいせいのごとく現れたのが、モデル出身でしなやかな肢体を持ち、怖いぐらいに整った顔と大人っぽい雰囲気を持った黒木メイサだったのだ。

「なんか、黒ヒョウみたいな女優さんがいるわよ」と教えてくれたのはその友人で、後に黒木メイサがKATEのCMで黒ヒョウと共に登場したときには彼の審美眼におののいたものだが、当時で20代半ばとは思えない威圧的な美しさを携えた彼女がこのまま順調にキャリアを積めば、「志麻姐さんに化けるのでは?」なんて、私たちは彼女の将来を勝手に楽しみにしていた。

入れ替わりの激しい芸能界で10年間のブランクがあると…

ただ、そんな暑苦しい期待感があったことを私が思い出したのは「黒木メイサ離婚報道」のずっと後。「そういえば昔、もったいないなーと思った気がする」と、今年に入って正月行事を全て終えたころだ。黒木メイサはずっと海外で子育て&結婚生活を送っていたらしいので、本来ならば離婚報道を聞いた途端、「すわ! 解禁か!」と、彼女のこれからの活躍にわくわくしたって良かったはず。

あれだけ肩入れしていたというのに、10年以上のブランクというのはそれほどまでに長いらしい。そして、人に忘れられたり、培ったスキルを失ったり、何より芸能人特有のオーラみたいな光をなくすのは思うよりずっと早いものなのかもしれない。

しかし、この記事を書くにあたり黒木メイサのInstagramを見たところ、彼女は相変わらず美しくスタイルもキープしており、離婚しようとブランクがあろうと生活の心配もなさそうで安心した。それどころか、「海外暮らし、元がついたけどイケメン夫の子を育て、きれいで素敵なママライフ」は若い女性たちのあこがれであり、今後はもっとモデルもできるだろうし、何かのアンバサダーとか、化粧品やアクセサリーなんかの開発案件など、ごまんとオファーが来るはずだから、どちらかと言えば順風満帆な印象である。

女優の黒木メイサさんが2014年8月6日、東京都内で行われたオートバイメーカーの発表会に登場。映画「ルパン三世」で演じた峰不二子について「演じること自体が大変。男性も女性も憧れる女性なので全力でやらせていただきました」。
写真=時事通信フォト
女優の黒木メイサさんが2014年8月6日、東京都内で行われたオートバイメーカーの発表会に登場。映画『ルパン三世』で演じた峰不二子について「演じること自体が大変。男性も女性も憧れる女性なので全力でやらせていただきました」。

結婚・出産でキャリアが止まってしまうのは一般人も同じ

ただ、これから、かつて私たちが期待していたような「大女優」を目指すというのはなかなか厳しいのではないだろうか? と思ってしまう。

同年代の、キャリアを積んできた女優さんたちが他にわんさかいるし、そもそもこれと言って代表作のなかった彼女が、今から勉強し直したり、端役を引き受けたりしながらでも目指すだろうかと思うと「黒木メイサ、スター女優への道」が私には見えない。

残念である。残念だがこの既視感はなんだろうと思っていたら、われわれ一般人の世界でも全く同じ「もったいない」を私はずっと感じ続けてきたことに気づく。

私は長いこと人材コンサルを生業としていたので、多くの会社の社長や人事部と直接取引をしていた。そして、毎年彼ら彼女らからよく聞いたものだ。「今年、とても優秀な新卒女性が入ったんですよ」と。そういったコメントを全て合わせると、今では相当数の女性管理職が生まれているはずなのだが、実際にはその新卒女性たちは早々に結婚退職したり、もっとラクな仕事へとキャリアダウンしていった。

20~30代で仕事を辞めてしまうのは圧倒的に不利という現実

景気が良ければそれでもいいのだが、今の社会では共働きはマストであるがゆえ、私はそのつど、「不利になるから辞める前に考えようー!」と、相談に来る女性たちに話していたものだ。

これは企業の問題、働き方の問題があるので今回は深堀りしないが、黒木メイサのブランクからの復帰は、簡単ではないだろう。

しかし、黒木メイサはデビューして8年後、ようやくドラマ主演もできるようになった段階で授かり婚したわけで、一般人女性も第1子を産む平均年齢は31歳(※1)であり、大卒なら社会人8年目に当たるので、結婚に踏み切ったタイミングとしては変わらない。

【図表】第1子出生時の母の平均年齢
出典=厚生労働省「令和4年(2022)人口動態

「ならば、女性はいつが結婚しどきで、産みどきなのか?」という、芸能人だけじゃない、働く女性全般に言える普遍的な悩みを突き付けてくる。

女性はどのタイミングで結婚し出産すればいいのか?

いくつものプロジェクトをこなし、「自分のキャリアを確立してから」と決めて結婚や妊娠を後回しにした結果、タイムリミットを過ぎてしまったと泣く女性たちも見てきたし、キャリアを積む前に専業主婦になり、離婚や夫のリストラによって再び社会に出るも、アルバイト以外に職が見つからないという切実な相談もたくさん受けてきた。

今はユーチューバーになったり、SNSで稼いだりもできるが、よっぽどのセルフプロデュース能力がないと難しいし、継続的な収入を得るには起業するのと何ら変わりはない難易度だと思う。

よって一番安全なのは、仕事を継続しながら欲しいプライベートを手に入れるという曲芸師みたいなスキルなのだが、多くの企業が「働き方改革」を掲げるも、人生設計はしょせん個人に委ねられているわけで、女性たちのキャリア実現と幸せなプライベートの両立はいまだ最適解がない。これは少子化にもつながる社会問題だと言える。

ただ、あくまでも現状をサバイブする上で大切なのは、「できる限りブランクを空けないこと」と、「キャリアは意地でも手放さないこと」だと私は思っている。

大女優が、プロの監督、プロの演出家、プロの脚本家やプロのメイクさん以外にもたくさんのプロに手をかけられて作られていくように、我々一般の仕事人も多くの人の手や仕組みによってスキルを与えられ、提供された場で切磋琢磨せっさたくますることによってキャリアを積んでいく。それを結婚や出産で手放す前に、一度ロングスパンで将来を見据えてみること。それが、生きるバリエーションを増やすことになるのは間違いない。残念ながら、現在のところは。

フォロワーも多い有名人なら10年ぶりの復帰もアリだが…

女優でそんな現実を分かっているなと思わせるキャリアの築き方をしているのは、出産を経ながらTVドラマに出続けている松嶋菜々子、菅野美穂、松たか子、安藤サクラなど、だろうか。

しかし、しつこいようだが、黒木メイサが離婚によって行き詰まるとか、過去を後悔しているはずだと言いたいわけでは決してない。類いまれな美貌を持ち、フォロワーが何十万人もいる女性は企業も事務所も放っておかないから、これからの生き方にたくさんのバリエーションがあるはずである。元ジャニーズで、女性ファンも多い赤西仁が養育費を払わないなんてこともないだろう。

しかし、われわれ一般人はそのまねはなかなかできない。離婚による貧困も、養育費未払いも少なくないこの国では、ブランクありの仕事先探しも困難を極め、人生、離婚と同時に途端に“詰む”こともあるからだ。

長々と書いてしまったが、私はただただ個人的に「日本が世界に誇る大女優・黒木メイサ」を見てみたかっただけである。

そしてそれ以上に、結婚しても出産してもキャリアをあきらめないで済む、離婚でダメージを受けない女性たちが闊歩かっぽする日本を、この目で見届けたいと思っている。

乳幼児を抱き上げ、鼻をつけて思い切りかわいがっている母親
写真=iStock.com/kohei_hara
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※1)厚生労働省「令和4年・第1子出生時の母の平均年齢」は30.9歳