「略式裁判で前科がつく」かもしれない不安
先日、車の運転中に、最近増えている「移動式オービス(速度違反自動取締装置)」に写真を撮られました。
オービスに写真を撮られると、後日、警察署から出頭ハガキが届くのですが、それまでの間、不安で仕方ありませんでした。
免許を取って30年近く、これまでの違反は一時不停止の1回のみの私にとっては、これはまさに非常事態でした。
もし、赤切符(一般道での速度超過30km以上)だと一発免停で、略式裁判のうえ罰金刑となり、前科がつきます。青切符(一般道での速度超過30km未満)であれば、超過速度に応じた減点と反則金で、前科はつきません。
私は30kmも速度超過などしていなかったとは思うものの、絶対の自信はありません。
なので、そのときのことを必死に思い出そうとするも、記憶が定かではなく、たぶんああだった、こうだったと、不毛なシミュレーションを頭の中で繰り返すばかり。
そして、万が一、赤切符だと思うと、たまらなく不安になり、気が付けばただただ、ネットで「赤切符」「オービス」などを検索しまくるという、不毛な日々を過ごすことになりました。
「分からない」ことが大きな不安を呼び込む
さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回のテーマは、「分からないことが、不安のもと」。
冒頭のオービスの件で、なぜ私は、それほどまでに不安だったのか……それは、その処分がまだ「分からない」から。
分からないから、次の行動に移ることができず、頭の中だけでアレコレ考えてしまい、メンタルを消耗し、そして不毛な時間を費やすこととなってしまったわけです。
実際、出頭ハガキが届くまでは、「警察に呼び出されて、厳しく詰められるのだろうか?」「赤切符で、前科がつくと仕事に影響するのだろうか?」など、不安で、何にも身が入らない状況が続きました。
また、オービスが光ったのは見間違いだったのかも……といったわずかな希望もチラつき、最悪の事態に備えての行動(免停や罰金の準備等)もできない状態でした。
なので、私は「出頭ハガキ、早く届いてくれ(ハッキリしてくれ)」と、1日に10回くらい郵便ポストを確認するような日々を過ごすのでした。
お金の不安の根本原因は「分からない」から行動しない
この「分からないことが、不安の元」は、まさに、お金の不安に関しても言えることです。
老後、やっていけるのか、不安。
住宅ローンを返していけるのか、不安。
子どもの学費を準備できるのか、不安。
このように、漠然と、将来のお金の不安を抱えている人は少なくありません。
しかし彼らの多くは、自身の状況が「分からない」がゆえに、とくに何も行動することなく(行動できずに)、世の中に氾濫する情報に振り回され、悶々とした状態のまま、不毛な日々を過ごしているわけです。
ちょっとした臨時収入があったり、昇進・昇給をしたときには、「まぁ、大丈夫だろう」と、根拠もなく楽観的になったりするでしょう。
急な出費が続いたりすれば、「これは本当に、将来、ヤバいのでは」と、急激に不安に襲われるでしょう。
このように、不安な状態では、その時々の状況に一喜一憂し、メンタルを消耗、そして不毛な時間を過ごし続けることとなるわけです。
お金の「分からない」を解決できるツール
では、そんな漠然としたお金の不安をなくし、メンタルの消耗・不毛な時間を避けるには、何をするべきか……それは、「分からない」をハッキリさせることです。
具体的には、キャッシュフロー表を作成することです。
キャッシュフロー表とは、現状の収支、ライフプラン(人生設計・将来の夢)に基づいて、将来の収支・資産残高を予想形式でまとめたもので、言わば、未来家計簿のこと。
たとえば、60歳の自営業夫婦。
貯蓄が2000万円あり、65歳での引退を考えているものの、年金の見込みが夫婦合わせて毎月10万円なので、不安で仕方がない状況だとしましょう。
しかし、何も行動しなければ、不安なままで、何も進展しません。
そこで、キャッシュフロー表を作成することで、将来のお金の状況をハッキリさせるのです。
作成したキャッシュフロー表(図表1)によると、今のままでは、引退後はみるみる貯蓄が減っていき、70歳過ぎには底をつき、75歳には1000万円を超えるマイナスとなるような、厳しい状況が判明しました。
なお、上記のキャッシュフロー表は、非常に簡素なものです。
本来は、物価上昇率や運用益も考慮し、また、支出項目もより細かく設定するものですが、ここでは専門的な知識がなくても作成できるよう、シンプルなものとしました。
しかし、そんなシンプルなキャッシュフロー表でも、将来のお金の状況はハッキリするのです。
現状がハッキリすれば行動できる
さて、そんな厳しい状況であっても、それがハッキリすれば、行動に移すことができます。
たとえば、
・生活費を300万円から250万円に削減する
であれば、それほど難しいことではないかと思います。
では、その2点を踏まえて、対策後のキャッシュフロー表(図表2)を作成しました。
いかがでしょうか?
引退時期の延長と、生活費の削減を心がけるだけで、かなり改善しますよね(不安もかなり解消される)。
それでも、80歳、90歳までを考えると、まだ不安は残るかもしれません。
また、「65歳以降の稼ぎ方」や「生活費の減らし方」が分からないという場合もあるでしょう。
その場合は、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家の力を借りるなどして、より詳細なキャッシュフロー表を作成し、年金・税金・保険・資産運用など、より専門的かつ包括的な視点から、さまざまな対策を考えたいものです。ちなみに、そのような「ライフプラン実現のための総合的な資金計画」をファイナンシャル・プランニングと言います。
もっとも、必ずしも100%満足する形で、ライフプランが実現するとは限りませんが(状況によっては、妥協する必要もある)、少なくとも、漠然と「将来のお金の不安」におびえることはなくなり、前に進むことができるわけです。
お金の不安はホラー映画の不安とは根本的に違う
ちなみに、ホラー映画でも、不安のピークは、ゾンビやエイリアンなどが、いつ、どこから、どんなヤツが出てくるか分からないときです。
分からないからこそ、いろいろと想像を巡らせ、不安になるわけです。
もっとも、映画では、その不安感はドキドキ感でもあり、楽しいのですが……。
そして、いざ、ゾンビやエイリアンが出てくれば、映画はその後の展開(逃げる、戦う、など)へと進んでいき、不安という要素はなくなるのです。
すなわち、「分からない」ことがハッキリすれば、やるべきこと(やらざるを得ないこと)が見えてくるのです。そして、たとえそれが相当マズい状況でも、分からないことがハッキリした時点で、少なくとも、漠然とした不安は消えるわけです。
冒頭のオービスの例では、何もしなくても、いずれ出頭ハガキが届き、その処分がハッキリします。
ホラー映画でも、映画を観ていれば、いずれゾンビやエイリアンが出てきて、その状況がハッキリします。
しかし、お金の不安におけるキャッシュフロー表の作成は、自分で作成するにせよ、ファイナンシャル・プランナーに依頼するにせよ、いずれにせよ、自らの行動が必要となります。
それは面倒なことかもしれませんが、分からないことがハッキリすれば、前に進むことができて(次の展開に進むことができて)、少なくとも、漠然とした不安は消えるわけですから、ぜひ、行動すべきでしょう。
健康不安もお金の不安も根本は同じ
このことを、「お金」以外で実感してもらうとすれば、それは「健康」でしょう。
たとえば、原因不明の体調不調が続くと、これは不安ですよね
なぜ不安か……それはやはり「分からない」からであって、何か悪い病気では……などと思い始めると、気が気ではありません。
しかし、その原因が分からなければ行動(適切な治療等)もできず、体調不良のまま、不安なままです。
そして、ちまたに氾濫する情報に振り回され、体調の変化に一喜一憂し、不毛な時間を過ごし続けることとなるわけです。
この場合、病院でしっかり診てもらうことをお勧めします。
これはお金の不安で言うところの、「キャッシュフロー表作成」にあたります。
とはいえ、実際には、忙しかったり、何か病気が見つかったら嫌だ、であったり、そのうち回復するだろうとの希望があったりして、なかなか病院には行かない(行けない)のが現実でもあります。
そう、分からないものをハッキリさせるための行動には、相当なエネルギーが必要なのです。
しかし、不安を消したければ、行動しなければいけません。
それで、もしも何らかの大きな病気が判明しても、それによって治療等の行動に移せる、すなわち前に進めることで、少なくとも、漠然とした不安はなくなるわけですから。
「分からない」をハッキリさせないことには、ずっと不安なままで、いつまでもメンタルを消耗し続け、不毛な時間を過ごすことになってしまうのです。
結局、赤切符だったのか、青切符だったのか
それでは最後に、冒頭のオービスの顚末を。
結果は、青切符でした。
それが分かった途端に、「考えてみれば、赤切符になるほど、スピードを出していたわけがないよな」と、急に、自信満々に思えてくるのでした。
そして、「こんなことで、何を悶々と、不安がっていたんだ」と思うわけですが、それは、処分がハッキリしたからであることは、言うまでもありません。
その後は、警察へ行って、粛々と手続きを済ませるのみ。
ちなみに、担当の警察官はビックリするくらいに腰が低く、丁寧に対応いただきました。
もう不安は一切なく、それまでの悶々とした気持ちが、ウソのように晴れ渡りました。そして何より、次の展開に進めることが、うれしくて仕方ありませんでした。
反則金1万5000円は痛い出費でしたが、それは「分からないことが、不安のもと」を、身をもって体験した授業料と思っています。
そして、その実感を込めて、今回の原稿を書かせていただいた次第です。