相次ぐ米国の銀行破綻はなぜ起きたのか
5月1日に米国のファースト・リパブリック・バンクが経営破綻しました。米国では3月10日にシリコンバレーバンクが、その2日後にはシグネチャーバンクが経営破綻していますから、2カ月もたたない間に3行が破綻する事態となっています。
これは新型コロナウイルスの感染拡大が発端になっています。各国の中央銀行は、経済を下支えするために金融緩和を行いました。つまり、お金がじゃぶじゃぶの状態になったのです。
あふれたお金は、国債の購入や債券への投資に流れ込みました。銀行も多くの債券を購入しました。その後、コロナも落ち着き欧米の中央銀行は金融引き締め(利上げ)に転換しました。金利が上がると、債券の価格は下がりますから、銀行のバランスシート(貸借対照表)上の価値が毀損します。それが経営破綻につながった理由の一つです。
ただし、満期までの保有を目的にしている債券は時価評価しなくてもいいルールになっています。これらの破綻した銀行が保有していた債券の大半は満期保有目的債券でしたから、そのまま保有し続ければ問題は起こらないはずでした。ところが、債券価格の下落によって含み損が巨額になったことで、取り付け騒ぎが発生。満期保有目的債券まで売却することになりました。その結果、含み損が実現損に変わり、経営破綻へと追い込まれてしまいました。
日本では元本1000万円とその利息を保護
日本でも銀行にはお金があふれ、大量の資金が債券へと向けられていますので、同じことが日本でも起こる可能性があります。今回は改めて銀行との付き合い方について考えてみたいと思います。
日本では銀行が経営破綻した場合、預金保険によって元本1000万円とその利息が保護されています。元本1000万円を超える部分は、破綻した銀行の財産状況に応じて払い戻しされますが、一部がカットされる可能性があります。預金の一部がカットされることを「ペイオフ」といいます。
また、外貨預金などは預金保険の保護対象ではないので、銀行が破綻した場合には、預金の一部がカットされる可能性があります。
資産1億円を超えるようなお金持ちは、さまざまな資産に分散していますが、預金だけでも1000万円を超えることが多いので、複数の銀行に分散しているのが普通です。
お金持ちが好む、破綻の心配のない銀行とは
ただ、元本1000万円までのラインを意識しすぎると、1億円で10行、2億円では20行……と数多くの銀行へ分散が必要となり、管理が煩雑になってしまいます。そこで、複数の銀行には分散する一方で、破綻しにくい銀行に預金を集中させています。
2003年にりそな銀行が経営危機に陥り公的資金が注入されましたが、この際に「大きすぎて潰せない(Too big to fail)」問題が注目されました。大きな銀行ほど破綻の影響が大きく潰しにくい、という問題です。潰れなければ預けているお金も大丈夫なわけで、預金者としては重要な視点です。
その後、日本の銀行は三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3大メガバンク体制に移ったわけですが、いずれも、「大きすぎて潰しにくい」はずです。
そこで、お金持ちはメガバンク3行に預金を集中させつつあります。さらに、メガバングでも安心できないという場合は、利息のつかない普通預金や個人向け国債も利用して万全な体制を取ろうとします。利息のつかない決済用預金(普通預金や当座預金)は預金保険の全額保護の対象ですし、個人向け国債は元利金を全額国が保証します。
付加価値の高いサービスを提供する銀行が生き残る
もちろん、メガバンクも安泰ではありません。今後は、銀行の役割も変わっていくでしょう。銀行の基本的な収益源は、これまで預金者から集めたお金を企業などに融資して利ざやを稼ぐことでした。しかし、低金利が続く中で利ざやビジネスは収益になりにくくなっています。
それをカバーするために、保険や投資信託を販売して販売手数料を得るビジネスに力を入れてきました。しかし、金融商品を販売して手数料を稼ぐ商売は、あまりスキルを必要としません。銀行にとっては差別化が難しくなります。
今後は付加価値の高いサービスに力を入れなければ、収益性は確保できないでしょう。その一つがウェルスマネジメントです。ウェルスマネジメントは、個人が保有する財産を適切に運用・管理するサービスであり、コンサルティングが付加価値の源泉となるサービスです。すでに欧米では富裕層向けのサービスとして定着しています。
すでにメガバンクにはお金が集まる流れができています。つまり、他の銀行よりも有利なポジションにいます。その顧客に付加価値の高いサービスを提供できるかが、今後の銀行の収益性を左右するでしょう。
現在、メガバンク3行にあまり差はありませんが、今後、収益性に差が出てくる可能性がありますので、その場合には、より収益性の高い銀行と付き合うのが安心です。
土地持ち資産家が信用金庫を利用する理由
一方で土地持ちの資産家には、信用金庫、郵便貯金、JA(農協)などを利用している人も多くいます。これは“お付き合い”の意味合いが大きいでしょう。
不動産賃貸業や農業などを営んでいる場合には、地元との関係が重要になります。また、地元の金融機関は集金に来てくれるなどのメリットもあります。あるいは預金者を集めた旅行なども開催しているので、人間関係をつくりやすいのです。
信託銀行は「お金持ちのための銀行」というイメージがあります。
信託銀行では一般の銀行にはない「信託商品」を扱っています。たとえば、「遺言信託」は遺言の作成から保管、執行までをサポートするサービスです。信託協会のデータによると、信託銀行の遺言保管件数は2022年9月末時点で約17万7000件です。2012年には約8万1000件でしたから、10年間で2倍以上に増えた計算です。
資産数十億円規模のお金持ちが利用する銀行とは
資産が数億円規模以上のお金持ちは信託銀行を思ったほど使っていません。一つの理由は、顧問税理士がついているケースが多いからです。信託銀行を利用しなくても、顧問税理士に相談すれば、遺言や家族信託を使った相続対策などを提案するので、信託商品とはライバル関係なのです。
金融資産が数億円規模になると、海外資産を持っている人も多く、UBSなどの外国銀行を使っている人も目立ちます。UBSはスイスに本部を置く銀行グループで、最近では経営不安に陥ったクレディ・スイス・グループを買収したことで話題になりました。資産規模の大きいお金持ちには、こうした海外の銀行から個別の営業があり、融資金利や為替手数料など非常に有利な条件を提示されることがあるようです。
たとえば、多くのお金持ちがドル資産を保有していますが、通常の銀行でドル預金をしようと考えると、円をドルに交換するときに1ドルごとに1円、ドルを円に戻すときにも1ドルごとに1円で往復2円の為替手数料がかかります。お金持ちに対しては、相対で条件が提示され数銭の為替手数料で済むこともあります。
銀行選びには比較検討が欠かせない
お金持ちは安全性やコストなどを吟味して、金融機関や金融商品を選んでいるわけですが、一般の人には比較検討しない人が少なくありません。
以前、お金の貯まらない人に住み着く貧乏神について紹介したことがあります。その一つが「比較検討をしない」貧乏神でした。牛乳やトイレットペーパーなど日用品は複数の店の価格を比較して買う人が少なくありません。ところが金融機関や金融商品となると比較検討をしない人が目につくのです。
生命保険は典型的です。生命保険に加入すると、生涯に支払う総保険料は1000万円を超える人も多くいます。そんなに高額な買い物であるにもかかわらず、比較検討せずに加入してしまいます。「難しいから」「面倒だから」という人が多いのですが、貧乏神はそんな人が大好きです。
前述のように1000万円以下の預金であれば、預金保険の対象ですから銀行の安全性についてあまり意識する必要ないかもしれません。ただ、金利や手数料、サービス、利便性など比較検討できるポイントはたくさんあります。ぜひ、自分にあった銀行を選んで付き合いましょう。