子どもに年収を聞かれたら答えるべきか
「親ガチャ」というような言葉が出てくるように、最近の子どもは親への評価がなかなか辛辣です。自分が「親ガチャ」に成功しているのかを知るために、親の年収を知りたがることも少なくないようです。
子どもは親の年収なんて知る必要がない、と言いたくなる気持ちもわかりますが、お金に関心を持ったことを、むしろお金の学びになるように答えるのが良いでしょう。
ただ、共働きの場合、パパとママそれぞれに収入があります。そのとき、どう答えると深い学びにつながるでしょうか。事例を基にお話ししていきましょう。
「年収が高い職業なら、ママは…」
私自身も、息子から年収を聞かれたことがあります。なぜ息子は年収を尋ねたのかというと、友達同士で親の年収を話したことがきっかけだったようです。
弁護士をやっているママ友のAさんからも「娘から弁護士って年収高いって聞いたけど、ママの年収っていくらなの?」と直球で質問されて困った、その時はごまかしてしまったけど、どうやって答えたらよかったのかと相談されたこともありました。
実際、ママ友のAさんは、高年収なのですが、高年収だからこそ、子どもが友達に自慢してしまうのではないかなどと考えてしまい、答えづらいと思ってしまったところもあったようです。
おすすめの答え方は「平均年収」
年収を聞かれても、親は子どもに自分の年収を正確に伝える必要はないでしょう。子どもは、「自分の親はどれくらいのお金を稼いでいるのだろう」と漠然と思っているだけです。
そこで、まずは日本人の会社員の平均年収を伝えてみましょう。国税庁の「民間給与実態統計調査」(2021年)によると、会社員の平均年収は443万円です。1カ月当たりに換算すると、「443万円÷12カ月=36万9166円」となり、約37万円です。「大人は1カ月に約37万円の収入がある」と子どもは理解します。
男女の平均年収には差があることも伝えよう
これはあくまでも全体の平均です。男女別に見ると、男性の平均給与は545万円、女性は302万円となっています。
たとえば1000万円の収入を持っているママの場合、男性の平均と比べてもかなり高収入ということがわかります。
子どもには、平均を伝えた上で、自分の年収は平均よりも高いのか低いのかを伝えることでも良いと思います。
また、男性と女性でも収入に差があることに気付くことから、なぜそうなっているのかという点に思いを巡らせるかもしれません。
正しい税金の使い道を話すのも◎
さて、年収はそのまますべて手元に残るわけではないことも子どもに伝えたいポイントです。
年収からは、税金や社会保険料が差し引かれます。これを平均年収で計算すると、年収の約20%程度の税金、社会保険料を差し引いて353万4000円が年間の手取り収入となります。
税金は、医療、年金、介護などの社会保障や道路、住宅を整備する公共事業、教育や学校、病院、警察、図書館などの建設などにも使われています。
ニュースなどでは、政治家が税金を無駄遣いしているなど、ネガティブに報道されるので、給与から税金が差し引かれると、つい、嫌な気持ちを抱いてしまいがちです。
実際には、私たちが社会生活を営む上で欠かせない事業などに使われているケースが多いもの。子どもに伝えるときには、身近な例を交えながら正しい税金の使い道について話すと良いでしょう。
それでも年収を聞かれたら
子どもによっては、平均年収を聞いただけでは引き下がらず、親の年収を知りたがることもあるかもしれません。
その場合は、ご自身が働いている業界や職種の平均年収を伝えるのもよいでしょう。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、職種別の年収なども公表しています。また、転職サイトを一緒に見て、職種別の年収相場を体感してみるということもできると思います。
先ほど見たとおり、男女で平均年収は243万円も差がありました。職業でも大きく収入の開きがあります。
職業や働き方によって、収入には差があることに興味を持つこともあるでしょう。そのとき、母親の立場から収入と人間の価値は必ずしもリンクしないことを合わせて伝える必要があると思います。
年収だけでは、仕事の価値観を測ることはできない、収入以外にもやりがいや適正など、複合的な要素があることなどを伝えることも必要です。
「パパより稼いでる」はNG
一般的に家庭内ではパパのほうが稼ぎ手で、ママは家事をやる人だというイメージが社会的に浸透しているため、「ママは一家の大黒柱ではない」というイメージを子どもが持っていることもあります。
読者の場合、二馬力で夫と同等またはそれ以上の収入を得ているケースも多いでしょう。その場合、「ママはパパより稼いでいるのよ!」と言えば、子どもは「パパはママよりも身分が下」と思ってしまいます。
こうしたとき、子どもに伝えたいのは収入の多い、少ないだけで仕事や人間の価値は決まらないということです。
仮にママの方がたくさん稼いでいたとしても、ママは家事が苦手かもしれません。その分、パパが家事をカバーして家庭生活が円滑になっているかもしれません。
人間は、得意なこと、不得意なことがあります。収入が高い場合は特にここを意識しないと、子どもが職業を選択する際に、収入だけを意識して選んでしまうことになったり、収入で人間の価値を測ってしまったりすることになるので注意が必要です。
「ママ、1000万円稼いでる?」と聞かれたら
分かりやすい数字だからか、「親の年収は1000万円を超えているかいないか」を知りたがる子どももいます。具体的な数字を聞かれてはいなくとも、実際に超えている場合や近い数字の場合、そのまま答えていいものかは悩みどころです。
というのも、「年収1000万円」というのは子どもにとってはある種の「お金持ち」のボーダーラインだからです。「年収1000万円世帯だから自分はお金持ちだ」と認識してしまうと、他人を見下したり、浪費などの良くない行動を招いてしまうかもしれません。
実際のところ、子どものいる年収1000万円世帯は、「お金持ち」と言えるかは微妙です。特に都心部では、日常生活にかかるお金全般が高いことに加えて、住宅費、教育費にもお金がかかるので、実際のところ家計に余裕がないというご家庭は少なくありません。
そこで、子どもに、年収が高くてもその分、生活コストが高いので、そんなに余裕があるわけではないといったことを話してみるのも良いでしょう。都心部であれば、塾に行っている子どもも多いと思うので、塾代などの例から話してみると、子どもも実感できるかもしれません。
大事なのは「年収にフォーカスしないこと」
子どもに年収を聞かれた場合、親としてはとても答えづらいものですね。ただし、平均年収を伝える、業界や職種による年収を親子で一緒に調べてみるだけでも、大人がどれくらい稼いでいるのかという知識を得たり、あるいは将来職業選択を考える上で参考になるなどの学びにつながるでしょう。
また、特に年収が高い場合には、年収だけにフォーカスして話をすると、子どもが仕事や人間の価値を誤って判断してしまう可能性が高くなります。
いろんな仕事を調べてみて、年収と共に、それぞれの仕事の役割についても話してみると、より効果的でしょう。
日本では、家族の間でも、お金のことを話すのは気が引ける、はしたないという意識が強いように思います。けれど、子どもは好奇心旺盛。日々の生活の中で、さまざまなお金の話を見聞きしては、たくさんの疑問を持っています。
そこで、「食べ放題のお店はなぜ潰れないの?」「お金持ちになるにはどうしたらいいの?」など、25個のトピックを本にまとめました。
FP夫婦と息子の3人家族の会話形式でまとめています。子どもと一緒にお金について学びたいという方、ぜひ、お手にとっていただけるとうれしいです。