*本稿は、2023年4月28日発売『プレジデント ウーマン』編著、『商品が変わる、企業が変わる!「女性目線」のマーケティング入門』掲載記事の一部を抜粋・再編集したものです。
女性目線が抜け落ちていた「女性向けマーケット」の問題点
『プレジデント ウーマン』編集部では、創刊以来、多くの働く女性たちとともに、キャリア形成から仕事と家庭の両立、さらにファッションに関する悩みなどについて、さまざまなアンケート調査や意見交換を行ってきた。アンケート協力依頼対象は約8万人。回答者のうち、平均7割以上が管理職という他の調査会社にはない、さまざまな業種・職種に属するキャリア女性たちのデータが収集できるのが特徴だ。特に取材時の雑談などから拾い続けてきた、ファッションや暮らしに関するリアルな悩みについては、男性並みに仕事をこなすキャリア女性だからこその声が多く、編集部とメーカーのコラボでビジネスバッグやスーツなどの商品開発をする際にも参考になる意見が多かった。
けれども、これまでの女性向け商品は、古いマナーや、男性側の目線でつくられていることが大半であり、キャリア女性たちが本当に欲しいのものは市場ではなかなか見つけられないことが多かった。
その原因は何か――。
女性市場の現状は、企業の働き方改革にも左右される?
企業の女性活躍施策に詳しい、ジャーナリストの白河桃子さんは、「男性中心で、しかも昭和の男性OS(=古い働き方、評価など)で動いていると、社内で女性の視点や意見が反映されにくい」と指摘する。
2023年1月に「プレジデント ウーマン」編集部で実施したオンラインアンケート調査(※)の結果によると、女性管理職が多い医療・介護・福祉業界や、比較的専門性が高い業界だけでなく、マスコミ・印刷、金融・保険などの業界でも、女性だから意見が反映されないというようなことは少なくなっているようだ。しかし、まったく逆の傾向が見てとれる業界もある。例えば商社では、女性の意見は「大いに反映されやすい」という回答はゼロ。「あまり反映されない」と「まったく反映されない」を足した合計値も全体の過半数に達している。この値は、製造、建設・不動産の2業界もおよそ35%と高い。
※プレジデントウーマン編集部による「業界別・働く男女1000人調査」(実施期間:2023年1月26~31日 有効回答数:1069)
では、なぜ女性の意見が反映されにくいのだろうか。「あまり反映されない」「まったく反映されない」と答えた人に理由を選択してもらったところ、もっとも多かったのは「男性中心の風土」という回答だった。こうした風土が今も続いている組織について白河さんは、「働き方や評価制度が、昭和の成功体験をもとにした古い男性OSに基づいている組織では、女性はどうしても不利になります。長時間働ける人や休まない人が評価されがちですし、時短の人は出られない時間帯の会議や酒席、喫煙室などで情報共有や意思決定が行われることもしばしば」だという。
また、日本の女性管理職比率がなかなか上がらない理由については、本人が管理職になりたがらないからという意見もある。だが、白河さんは「なぜそうなのか、その原因を考えるべき。女性の意欲を上げたいなら、制度をつくるだけ、励ますだけではだめです。女性活躍は、女性が仕事と家庭を無理なく両立するための働き方改革や、古い男性OSをアンインストールするための風土改革とセットで進める必要があるのです」という。
男性中心企業では、女性向け商品の開発であっても、女性のリアルな声よりも、男性が抱く理想の女性像を取り入れてつくられるモノが多くなる。「女性用はピンク」「女性はスカート」など、「女性はこうだ」というバイアスでつくられてしまうからだ。
働く女性たちが本当に欲しいモノは市場になかった
意外に知られていないが、女性はキャリアを重ねるほど、ビジネスで持ち歩く荷物が多くなる。バッグにデザイン性を求めると小さくなり、高級感を求めれば重くなる。さらには、機能性を求めるとなると男性向けのビジネスバッグしかないというジレンマに陥る。もちろん、価格によっては管理職が持つべきものにはほど遠くなり……。事実、キャリア女性たちの多くは「小さなバッグに憧れる。でも、仕事をしている以上、小さいバッグを選択すれば、必然的にバッグの複数持ちにならざるをえない」(金融)と語る。編集部が、こうした働く女性たちのリアルな声をカタチにして製作した「本革なのに軽くて大容量」のトートバッグは、ファーストロットが20時間で完売するほどたくさんの働く女性たちから支持された。
また、その後のコロナ禍で出退社時にPCを持ち歩く人が格段に増加。女性たちは重い荷物をより快適に持ち運べる“リュックサック(以下リュックという)”を探していることがわかった。
“リュック”は、これまでビジネスマナーの観点から、仕事で持つのはNGという暗黙のルールがあった。ここ10年ほどで男性ビジネスパーソンには浸透したものの、まだまだ男性向けの領域だった。そんな中、編集部は女性向け“ビジネスリュック”の開発に踏み切ったのだが、マナーをはじめ「働く女性はこうあるべきだ」という画一的な視点から反対する声も多くあったのは事実。実際、発売してみると「こんなリュックを待っていた」(メーカー)、「どこにもないので男性用で代用していた」(製薬)という反響の声が寄せられたほどだ。
今後熱いのは可処分所得の多い「キャリア女性」マーケット
現在、女性を対象としたマーケット、市場の拡大に伴い、さまざまな属性に合わせた商品が開発・販売されている。
編集部では、働く女性たちの“リアル”な声をもとに、これまで市場で見過ごされていたニッチな「キャリア女性向け」というマーケットの可能性を見いだした。これからはもっともっと働く女性が増え、キャリアを重ねる女性も増加していく。安定した収入があり、可処分所得も多い彼女たちは、自分で選び取る力も高い。“いい”と思うものには、惜しむことなくお金をかけるといった特徴も持ち合わせている。
働く女性が急増する今、風土改革を進める企業も増え、女性をターゲットにしたさまざまなアイテムに女性自身の意見が取り入れられつつある。女性たちの声には、それまで気付けなかった新たなヒントが隠れているからだ。ファッションに限らず、家具、住居に至るまで彼女たちをターゲットにした市場開発には可能性が満ちあふれている。
人生100年時代の今、定年後も働き続ける女性はさらに増え、属性ごとのニーズの変化・多様化は今以上に加速するだろう。これまでのような単なる「女性」とひとくくりにしたマーケットではないものが求められる。