お金持ちの中には、子どもにお金持ちであることを気付かれないようにしている人も多い。ファイナンシャルプランナーの藤川太さんは「収入が“中の上”の家庭ほど見栄を張ってお金を浪費してしまいがちですが、本当のお金持ちの多くは質素な暮らしをしています」という――。
テストに回答を書き込んでいる生徒の手元
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徹底的に質素に暮らすお金持ち、その理由は

相続対策として遺言書を書くことが重要だと言われていますが、実際に書く人は限られています。顧問税理士などに勧められて遺言書を書いたとしても、子どもたちには内容を見せていないお金持ちがほとんどです。親がどのくらいの財産を持っているのか、子どもに知られたくないお金持ちが多いからです。

お金持ちの中には、高級車を乗り回したり、豪邸に住んだりする成金主義的な人もいます。しかし、派手にお金を使うこともなく、外見からは決してお金持ちとはわからない人も多いのです。

そんなお金持ちは、日ごろの生活でも、お金を持っていないようにふるまっています。子どもに対しても機会があるたびに「うちはお金がないから」と伝えていますし、教育費などを出費したときにも「あなたにはこれだけお金がかかっている」とお金についてしっかり話をしています。

車にしても高級車などは買わずに、国産車を買って10年以上乗るのも当たり前です。親に莫大な財産があるとわかってしまうと、子どもがそれを当てにしてしまい、教育上よくないと考えているからです。

見栄を張って散財するのは“中の上”の家庭

反対に、世帯年収が1000万円を超えるような“中の上”の家庭は、見栄を張ってしまうことが多いのです。「クルマを手放したら近所からおちぶれたと思われる」「携帯電話は大手キャリアじゃないと」など、妙なプライドが邪魔して、節約ができないことも。そんな親を見て育った子どもは浪費癖がつきやすくなります。

大事なのは、「他人は他人、自分は自分」という揺るぎない価値観を持てるかどうかです。質素倹約してお金を貯められる人は、自分の基準で納得したものにお金を使います。必要のないものにはお金をかけない。それを徹底しています。そんな親の背中を見て育った子どもは、無駄遣いをしない親の価値観を受け継ぐ可能性が高くなるでしょう。それを期待してお金に関して子どもにも厳しく接しているのです。

子どもを思う親心は税務署には通じない

あるお金持ちの家では、「家族で海外旅行に行こう」との話になったときに、お子さんがとても心配したそうです。自分の家にはお金がないと思い込んでいたので、父親がどうやって旅行代金を支払うのか心配になったのでしょう。

これは極端なケースですが、そこまでしても子どもには親の財産を当てにしてほしくないと考えているのです。

相続税の税務調査で名義預金を指摘されることが少なくありません。名義預金とは、名義は子どもになっているものの親の財産としてみなされる相続税の対象とされてしまう預金です。

親が子ども名義の口座に入金しただけで、口座を子ども自身が管理していないケースはよくあります。相続が発生すると、その預金は名義預金として親の財産であると見なされる可能性が高くなります。親にしてみれば、相続税対策として生前贈与をしたいのだけれど、子どもに知られてしまうと健全な金銭感覚が身に付かないので秘密にしているのでしょうが、そんな親心は税法上、認められない可能性が高いのです。

お金には魔力があります。使い方を間違えると人生を誤ってしまう可能性があります。自分の子どもがお金に対してどんな考え方をしているか、それを見極めるまで、子どもにお金の話はしたくないのです。

子どもの金銭教育は古代バビロンの黄金時代から親の悩み

子どもの金銭教育は、いつの時代も親にとって大きな課題でした。それをうかがい知ることができるのが『バビロンの大富豪』(ジョージ・S・クレイソン著)に綴られている「黄金則」です。同書で描かれている富を築くための行動や考え方は、とてもシンプルなものです。

大富豪のアルカドは息子ノマシアに財産を継いでほしいと考えていましたが、単純に相続させるだけでは息子のためにならないと考えました。

そこで「財産を上手に使う能力があることを証明してほしい」とノマシアに伝え、旅をさせます。そのときアルカドは息子に「金貨の詰まった袋」と「富を生む黄金5原則」を授けました。

ノマシアは旅をするうち、詐欺師などにだまされて金貨を失ってしまいます。そのときに父親から「富を生む黄金5原則」を与えられたことを思い出し、一つひとつ実行してきました。そして莫大な資産を築いて父親の元に返ったのです。

<富を生む黄金5原則>

1 黄金は「堅実な者」を好む
資産を築くため、少なくとも収入の1割を貯めようとする者のもとに、黄金は進んで集まり増えていく。

2 黄金は「賢明な者」を好む
もっと儲かる仕事を黄金にあてがってやると、黄金は獣の群れのように繁殖していく。

3 黄金は「慎重な者」を好む
黄金の扱いに長けた人間の助言に従う、注意深い持ち主から黄金は離れようとしない。

4 黄金は「軽率な者」を嫌う
持ち主がよく知らない、事業や商売、あるいは蓄財に長けた者がよしとしない商売からは、黄金は逃げてしまう。

5 黄金は「強欲な者」を嫌う
無理を強いる、ありえないような儲け話に乗る者からは、黄金は逃げてしまう。

「堅実」「賢明」「慎重」な人がお金持ちに近づく

5つの原則からわかるのは、「堅実」「賢明」「慎重」な人がお金持ちに近づくということです。反対に「軽率」「強欲」な人はお金持ちから遠のいてしまいます。

いずれも特別なことはではなく、誰にでもできるシンプルな心構えです。父親のアルカドは、もともと役所で働く貧しい一市民にすぎませんでしたが、当たり前に思えることを実行し続けてきたからこそ、バビロン一の大富豪となりました。

これは、どんな時代でも通用する「普遍的な知恵」です。だからこそ、同書が世界的に支持され続けているのでしょう。

子どもに財産を残すことを考えたとき、日本のお金持ちもアルカドと同じ心配を抱きます。子どもに財産を受け止めるだけの器があるかどうかを見極めなければ、安心して贈与することも相続させることもできません。

契約書の署名位置をペンで指し示している人の手元
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親が子どもに残す財産に差をつける理由

自分の子どもが浪費することなく、受け継いだ資産を生かして増やしていけると判断できれば、喜んで託すことができるでしょう。しかし、複数の子どもがいる場合、すべての子どもが同じように金銭感覚を身に付けるわけではありません。

基本的にお金持ちは、子どもは平等であると考えていないケースが多いです。子どもであっても好き嫌いはありますし、どれだけ信頼できるかも違います。また、しっかりしている子どもは安心ですが、子どもが無職であったりすると、自分亡き後の子どもの生活のことを心配している親もいます。それぞれの子どもに対する感情には違いがあるのです。

典型的なのはオーナー企業の経営者です。子どもが複数いる場合には、誰に継いでもらうか、判断は難しいところです。後継者に選んだ子どもが経営に失敗すれば、従業員を路頭に迷わせることになりますし、取引先にも迷惑をかけてしまいます。

長男には浪費癖があり、次男はお金に対して堅実な性格であれば、次男に事業を継いでもらう方がベターと考えるのが妥当でしょう。

経営を安定させるためには、会社の資産や株式を次男に集中させる必要があります。オーナー経営者の場合、資産の多くは事業に関するものであるケースが多いので、公平な相続は難しくなります。

家族関係を壊さないために遺言執行者を選任する

そんなときに「どうすればいいか」と、経営者から相談を受けることがあります。遺言書を残せば、特定の子どもに優先的に残すことができます。ただし、遺留分を侵害することはできません。

遺留分とは相続人に最低限保証された相続分で、遺言でも侵すことができない権利です。たとえば、相続人が子ども2人だけの場合、民法で定められた法定相続分は、それぞれ2分の1です。この場合の遺留分は法定相続分の2分の1ですから、4分の1です。それを侵害しないように遺言書を残せば法律的には問題ありません。

とはいえ、長男は納得できない面もあるでしょうから、生前に父親から説明をしたり、遺言書の付言事項に遺産分割の理由を書き添えたりします。

遺言の内容に不満を持つ相続人がいる可能性があるときには、遺言執行者を選任することも多くあります。弊社も遺言執行者を引き受けることがあります。遺言書があったとしても相続人全員が素直に従ってくれるとは限りません。その結果、「この手続きは誰がするのか」と押し付け合いになってしまい、家族関係がこじれてしまうことあります。

遺言執行者が手続きを進めることで遺産分割をスムーズに進めることができます。

子どもに財産をどう残すかは、お金持ちにとって悩みの種です。それを解決するための方法の一つが「貧乏に見せる」ことですが、アルカドが息子に「富を生む黄金5原則」を授けたように、積極的な金銭教育ができれば理想かもしれません。