マンション価格の上昇が続いている。「夢のマイホームを今年こそ……」という人にチャンスはあるか。近刊『60歳からのマンション学』が話題のマンショントレンド評論家の日下部理絵さんは「2023年も新築、中古ともにマンション価格の高値は続く。価格よりも、価格に対する価値を見誤らないようにしたい」という──。

2023年「念願のマイホーム」は正解か

年末年始に家族がそろい、「今年こそマイホームを購入しよう!」と決意を新たにした人も多いのではないか。

しかし、価格の高騰に金利の上昇、いっこうに上がらない年収と、マイホーム購入を取り巻く環境は厳しい。

なぜここまでマンション価格が上がっているのか。今後どうなりそうか。いますぐ購入するのが正解なのか。購入するなら何に気をつけたらいいのか。それらについて見ていこう。

鍵の受け渡し
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マンション価格の高騰は2013年からのトレンド

マンション価格はいつから上昇しているかというと、2013年からである。

実際、不動産経済研究所によると、新築マンションの全国平均価格は、2012年が3824万円だったのに対し、2021年には5115万円にまで上がっている。この間の全国価格の上昇率は33.77%にも及ぶ。まさにバブル期並みである。

【図表】新築マンションの全国平均価格
筆者作成

なお、首都圏では2021年に6260万円と、バブル期であった1990年の6123万円をも上回っている。

いっぽうで平均年収は、2012年は408万円、2021年は445万円と、この間の年収の上昇率は9.1%である。

何がマンション価格を上昇させたのか

つまり、約10年にわたりマンション価格は上昇を続けているというわけだ。

その理由をざっくり見てみると、アベノミクスに端を発した日銀の金融緩和策、東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)決定による建設需要の高まりにもかかわらず、建設業界の人手不足による人件費増や、建築資材・燃料費などの値上がりによって建築費が上昇したこと。

また、インバウンドの増加も、商業施設との用地取得の競合により、地価上昇に拍車をかけた。

さらに、マンションを「つい棲家すみか」とする世帯の増加や、超パワーカップルと呼ばれる共働き世帯の増加、バブル期とは違う低金利による住宅ローン返済の負担減、さらには売り急がないデベロッパーの姿勢もこの動きを後押しした。

こうした地価・建築費の上昇要因、社会情勢の変化という複合要因により、マンション価格は上昇を続けているのだ。

なお、2020年からは新型コロナウイルス感染症の拡大で、若干の調整局面を迎える場面もあったが、2022年の公示地地価は暴落することなく高止まりが続いている。

翻弄され続けた消費者

マイホームは人生で最も高い買い物といわれる。そのため、「住宅を買おう」と検討している人にとって、「いつまで価格が上がるのか」「待っていれば価格は下がるのか」というのはきわめて関心の高い事項であろう。

一方で、マンションの売却や買い替え検討者は、「いつまでに売れば最高値で売ることができ、得できるのか」と様子見している人も多い。

思い出してほしい。「オリパラ後に不動産価格は大暴落する。購入するならそれからがよい」という説がちまたをにぎわせていたことを。実際には、大暴落どころか急騰している。

また近年は、購買判断を迷わせるさまざまな情報が世にあふれている。いわく、「消費税増税前がいい」、あるいは「増税後がいい」「住宅ローン控除の年数などの拡充がある時期がよい」「金利が上昇するから、その前がよい」……。購入希望者にとっては、いったいいつ購入するのがベストなのか、翻弄される時期が続いた。

新築・中古にかかわらず、多くの物件を回遊魚のごとく内見してみたものの、どうも決め手に欠ける気がする。そこで、「価格が高いから」と見送ったところ、価格はさらに高騰し、「あのとき思い切って買っておけばよかったのに……」と後悔している消費者も多いのではないか。

不動産の価格変動周期説は本当か

これまで不動産価格は、15年前後の一定周期で変動を繰り返してきた。そのため、周期的にそろそろ変動する、つまり、「大暴落があるのではないか」と予想している方もいる。

日下部理絵『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)
日下部理絵『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)

しかし、残念ながら、エリア格差は出そうなものの、少なくても数年程度はマンション価格の高値が続きそうというのが、多くの専門家の共通見解である。

まず新築物件だ。これから売りに出されるマンションは、現在の高値で仕入れた土地や建築資材で造るため、当然なから販売価格も高くなる。そのため、落ち着くのは早くても数年先になりそうなのだ。

既存(中古)マンションも、新築マンションの価格に引っ張られる傾向があり、一定期間はこのまま高値が続きそうである。

いまは新型コロナの影響以外にも、ロシアのウクライナ侵攻、物価高、金利の上昇もあり、市場はさらに読みづらく、判断が難しい。

「価格」よりも大事な「価格に対する価値」

このような局面において、「安価だから」とか、「自分の年収や貯蓄で買えるから」といったことを購入の決め手にすると、価格に対して価値がない物件を割高で購入してしまいかねない。

つまり、物件の価値をしっかり見極めないと、「ダメ物件」を高値づかみしやすい時期が「いま」なのである。

逆にいえば、高くてもそれ相応の価値がある物件ならば、購入後に売ったり、貸したりしやすいし、住み替えや相続などにも対応できる。

相場価格を知るには【ミクロ視点】

高値づかみは、相場価格や過去の成約価格を知ることで回避できる。

SUUMOLIFULL HOME'Sなどの物件情報サイトで、一定期間同じ条件で検索するだけでも見えてくる。

サイトによっては、希望条件を設定すると、新掲載されたら通知が来たりする。簡易的なものではあるが、過去の成約価格が掲載されているサイトもある。

相場観をつかんだら、気になる物件は時間が許す限り内見していただきたい。実際の部屋を直に見ることで、写真や図面だけではわからないことが見えてくる。たとえば、天井の高さ、コンセントの位置、部屋の臭い、景観などである。複数の物件を内見することで、自分が部屋に求める条件もわかってくる。

気に入った物件が予算に合わない場合も、周辺相場や類似物件の価格がわかれば、有利に価格交渉できる可能性がある。

また、問い合わせや内見時のやりとりで、信頼できる担当者や不動産会社だと感じられるかどうかも大事だ。信頼できる担当者の助言やおすすめ物件、未公開物件の情報も参考になる。

不動産の価格変動を知るには【マクロ視点】

不動産取引の価格変動は、都心3区(あるいは一都三県)からおおよそ3カ月~半年前後で、札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡などの地方都市にも波及するとされる。地方都市や地方マンションエリアでの購入を検討している場合は、まずは都心3区の不動産取引の価格変動を見るとよい。

その際に参考になるのが「レインズ(REINS)」のデータライブラリーだ。

レインズは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営する、不動産物件情報交換のためのコンピューターネットワークシステムのことで、データライブラリーにアクセスすれば、「成約価格」や「成約件数」「在庫件数」の過去データから、マーケットレポートまで詳細な情報が得られる。

このサイトで定点観測を続ければ、不動産マーケットの大きなトレンドがつかめてくるはずだ。

①新築より中古マンションが売れている

以下、物件の検討の際に注意したいポイントをいくつか紹介したい。まずはマンション市場の動向だ。

首都圏では新築マンションの供給が減る一方で、2016年に中古マンションの成約件数が初めて新築分譲マンションの発売戸数を上回り、その後も5年連続して中古マンションの成約件数が上回り続けている。

つまり、いま売れているのは、中古マンションなのだ。

②中古マンションを買うなら、管理状況をよく知ること

「マンションは管理を買え」といわれるようになって久しいが、とりわけ中古マンションこそ、管理状況に気をつけたい。

たとえば、フルリノベーション物件などを、安価できれいだと思って購入したところ、マンションの管理状況が悪く、住み心地が悪かったとしたら最悪だ。

内見時に、検討している部屋とその部屋が所在する階、共用施設だけ見る方が多いが、目に見えない住民トラブルの有無を見抜くには、掲示板などを確認することが大事だ。

内見するカップルを連れた不動産業の女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです

③内見時に確認したいチェックポイント

ほかにも、内見時にぜひとも確認したいポイントは多い。

□ エントランスドアなどが壊れている
□ 蛍光灯などがチラついている
□ 掲示板が、注意文だらけ
□ 郵便受けにチラシがあふれている
□ ガムテープなどでふさがれている郵便受けが多い
□ 要修理や開かずの宅配ボックスがある
□ エレベーターが臭う、溝が汚い
□ 蜘蛛の巣が張っていたり、綿埃がたまっているなど清掃状況が悪い
□ ゴミ置場が汚い、粗大ゴミが放置されている
□ 廊下、バルコニー(外から見る)が物だらけ
□ 自転車置場が未整頓でガチャガチャ
□ 機械式駐車場に空きが多い

以上の点にチェックが入るようなら、要注意だ。

たとえば、掲示板を見て注意文だらけなら、そこに書かれている内容の住民トラブルが実際に物件で起きているということだ。掲示板はそのマンションの情報の宝庫である。郵便受けがチラシであふれていたり、ガムテープなどで塞がれているなら、住みづらい物件である可能性がある。

また、ゴミ置場が汚い場合は、マナーが悪い住民が多く、賃借人の比率が高いケースもある。そもそも管理員や清掃員の勤務時間が短すぎる可能性もある。

さらに廊下、バルコニーに物だらけ、自転車置場が未整頓でガチャガチャなマンションは、マナー違反の住民が多いだけでなく、避難通路を塞いで事故につながる危険性もある。

書類もよく見よう

不動産会社経由で入手可能な管理組合の総会議案書や長期修繕計画、管理規約、重要事項説明書などもよく見るべきである。

新築マンションなら、予備認定を受けているかも確認したい。これは、分譲時点での管理規約案や長期修繕計画案などが基準を満たしていると、公益財団法人マンション管理センターから認定を得ることができる仕組みで、マンションの管理や資産価値などに影響を与える可能性がある。

もし、じっくり見るのは面倒、あるいは見てもよくわからないというのなら、最低限次の点は確認しよう。

騒音などのトラブルはないか。長期懸案事項はないか。管理費や修繕積立金が近々上がる予定はないか。

駐車場の有無と使用料の収支も聞くべきだ。駐車場は、車の所有にかかわらず所有者に影響することが多い。ペット飼育、リフォームのルールなど、生活するうえで必要になる項目も把握しておきたい。

トラブルは、その原因が管理組合運営にあるケースと、住人たる所有者にあるケースとがある。いずれにしても、少しでもほころびがあると悪い要素がジワリジワリと積み重なっていくのがマンション管理というものだ。管理状況をよく把握してから購入したい。

急増する中古マンションの在庫戸数

先述の通り、数年程度はマンション価格の高値が続きそうである。ただし、徐々に価格は落ち着いていくだろうとの見解が強い。きわめて端的にいうと、需要と供給バランスが崩れるタイミングがやってくる

空き家率の上昇や少子高齢化は今後も進む。とくに、団塊世代の持ち家の所有率は80%を超えるといわれるが、相続により既存(中古)マンションが市場に大量放出されるようになるだろう。

すでに中古マンション在庫戸数は急増している。とくに東京都下や神奈川県、千葉県では、前年同月比3割以上の成約件数の減少も見られる。

いままでは、新築マンション価格に牽引されるように中古マンション価格も変動していたが、中古マンション価格に新築マンション価格が引っ張られる状況になっていくと思われる。

中古マンション狙いなら、数年程度の様子見もあり

個人的には、中古マンション狙いなら、数年程度の様子見もありかと思う。

もし、気に入った物件を見つけたが、やや高くて、「値引きを……」と言い出しにくいというのなら、「とても気に入りました。少し予算オーバーなので歩み寄りをお願いできませんか」と言ってみるのもいい。

また、新築マンションなら売れ残り物件、中古マンションなら売り急ぎ物件などを狙うのも手だ。

どんな情勢でも、人はどこか住む場所が必要である。最も優先すべきは自分と家族のライフステージに合った住まいを選ぶこと。価格ばかり見て、安物買いの銭失いにだけはならないようにくれぐれも注意したい。