住宅ローンは固定金利と変動金利のどちらが有利か。ファイナンシャルプランナーの藤川太さんは「資産1億円を築くようなお金持ちも多くが変動金利型を利用していますが、その理由は単純に金利の低さだけではありません」という――。
ハイライズのアパートメントと通りの木々の緑
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キャッシュでマイホームを購入できてもあえて住宅ローンを借りる

住宅ローンをこれから借りる人にとって、あるいはすでに借りている人にとっても、変動金利型と固定金利型でどちらが有利かは大きな関心事でしょう。この先、金利が上がらないなら変動金利型を利用したいけれど、上がるなら固定金利型にしたほうがいいかもしれない――。そう考えている人が多いでしょう。

しかし、お金持ちの考え方は違います。今回はお金持ちの住宅ローン活用法について紹介しましょう。

最初にお断りしておかなければならないのですが、お金持ちの中には住宅ローンを利用しない人も多いことです。多くの資産を保有していますから、マイホームをキャッシュで購入する人が少なくありません。

ただ、現在のように金利が低い時期には、あえて住宅ローンを借りて、低金利のメリットを享受するお金持ちも少なからずいます。手持ち資金は運用に回して、低い金利で住宅ローンを利用すれば、得られる運用益と支払う利息の差額が手元に残るからです。

お金持ちが利用する住宅ローンはオーダーメード

では、お金持ちはどんな住宅ローンを利用しているでしょうか。実は私たちが考えているような銀行の住宅ローン商品は利用していません。金融機関にもよりますが、住宅ローンの融資金額は1億円以内に設定されていることも多く、お金持ちがマイホームの購入で必要とする借入金はカバーできないからです。

では、何を利用するのか。銀行と個別交渉してオーダーメードの住宅ローンをつくってもらいます。お金持ちが利用する住宅ローンは、一般の住宅ローンよりも、低い金利で利用できるケースが多くみられます。

お金持ちは金利の差を保険料と考えている

それはさておき、お金持ちも変動金利型を好んで利用します。ただ、その理由は、普通の人とは異なります。

住宅ローンの金利を固定金利型と変動金利型で比較すると、固定金利型のほうが高く設定されています。お金持ちはその差を保険料と考えています。変動金利型は、将来、金利が上昇して返済額が増える可能性があります。そのリスクを回避したければ、保険料を支払う。すると固定金利型が利用できます。

たとえば、現在メガバンクが扱っている住宅ローンの金利は変動金利型で年0.5%程度(優遇金利適用)です。一方で固定金利型は1.5%程度(同)です。

この金利で仮に3000万円の融資を30年返済で受けると、変動金利型の毎月返済額は約9万円、固定金利型は10万4000円です。このケースでは毎月1万4000円の保険料を支払うことで金利上昇リスクを回避できることになります。

安心を得るためにコストがかかります。それが保険です。お金持ちは「保険料コストを支払う必要があるかどうか」を意識して、金利タイプを選択しています。

そもそもお金持ちは多額の資産を保有しているので、仮に金利が上昇して返済額が上がってしまえば、一括で返済することも可能です。であれば、保険料を支払う必要はありません。

金利が上昇する局面では、資産価格が上昇している可能性が高いでしょう。住宅ローン金利が上がっても、手持ちの資産を運用して得られる利益の方が大きくなると考えています。購入した不動産の価格も上がれば、なおよいわけです。

経済成長コンセプトのための矢印に木製のキューブブロック
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高所得者は「金利上昇に対処できるか」を基準に考える

高所得者で資産1億円を築くような人の中にも、同じ考え方をする人は多くいます。マイホームをキャッシュで買えるほどの資産は持ってはいませんが、「金利が上がったときに対処できるかどうか」を考えます。

変動金利型は、金利が上がると毎月の返済額が増えるかもしれません。そのとき、返済できるかどうか。問題がなければ慌てる必要はありません。あるいは一部繰り上げ返済をする資金があるなら、残高を減らして返済額を減らすことも可能です。

金利が上がるかどうかは誰にもわかりません。上がったときに何らかの方法で対処できるなら、低金利を生かせる変動金利型を利用するのが有利だと考えるのです。

逆に少しでも返済額が増えると家計が厳しくなる、一部繰り上げ返済をする資金もない人はコストを払っても固定金利型を利用して保険を掛けた方がよいかもしれません。ところが、家計に余裕がない人ほど変動金利型を利用しているケースが多くみられます。

「金利が上がったら固定に切り替える」のは有利か

そうした人から「変動金利型を借りて、金利が上がったら固定金利に変えられますか」との質問を受けることもあります。答えは「変えられます」ですが、実際には簡単ではありません。

変動金利型は一般的に短期プライムレート、つまり短期金利に連動します。一方で固定金利型は長期金利に連動します。短期金利は、日銀の政策によって変動します。つまり、日銀が動かない限り、金利も上がりません。

一方で長期金利は市場の予測で動きます。市場参加者が「これから金利が上がりそうだ」と思えば、短期金利よりも先に長期金利が上がるのです。つまり、私たちが「これから金利が上がりそうだ」と感じたときには、固定金利型の金利はすでに上がっていることになります。

心理的に固定金利型への切り替えは難しい

変動金利型から固定金利型への変更はできますが、すでに金利が上がってしまった段階で固定金利型へ変更する気になれるかは別問題です。さらに上がることがはっきりしていれば、固定金利型に変更するでしょうが、それはわかりません。

一度低い金利を経験してしまっていると、高い金利に変更する勇気はなかなかもてないものです。実際に変動金利型から固定金利型へ変更した人の話はあまり聞いたことがありません。

2000年代の金利上昇で得したのは変動金利型の利用者

過去をさかのぼると、2000年台に金利上昇局面がありました。そのときには、私自身も雑誌の記事などで「固定金利型に変えましょう」と勧めていました。実際、2007~2008年にかけて変動金利型の金利は上がりましたが、どのくらい上がったでしょうか。0.5%です。2006年には変動金利の基準金利は2.375%でしたが、2007~2008年に2.875%にまで上昇し、、2009年以降は2.475%で推移しています。(※実際の借入金利は基準金利から契約時に約束した幅の金利が差し引かれます)

結果的には変動金利型を利用していた人が正解だったわけです。どちらが正解なのかは、あとになってみなければわかりません。

一般的に資本主義が成熟していくと、金利の水準は徐々に切り下がっていくことが知られています。金利は上がったり下がったりしますが、その変動幅はどんどん狭くなっていくのです。

ただ、2000年代はデフレが続いていたため0.5%の金利上昇ですんだとも考えられます。今後、デフレを完全に脱して政府の目標通りインフレ率が2%になるようなことがあれば、前回よりも上昇する可能性はあります。

金利が上がるかどうかを予測するよりも、上がったときに対処できるか、これを基準にして金利のタイプを選んではどうでしょうか。