住宅ローン減税とふるさと納税は併用すると損?
住宅ローン減税(住宅ローン控除)とふるさと納税。どちらも、所得税や住民税を控除できる(差し引くことができる)制度としておなじみです。しかし、住宅ローン減税とふるさと納税を併用すると損をすると言われることがあります。それは本当なのでしょうか。
今回は、住宅ローン減税とふるさと納税のしくみと、併用した場合の控除額について、解説します。
住宅ローン減税は年間で支払う所得税・住民税の範囲が上限
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)は、ひとことで言えば住宅ローンを借りると支払った所得税や住民税が戻ってくる(控除できる)制度です。
控除できる金額は、入居時期などによって異なります。
2021年12月末までに入居した場合、住宅ローンの年末残高の1%にあたる金額を10年間にわたって所得税から控除できます。また、所得税から控除しきれない分は住民税からも控除できます(前年度の課税所得×7%[最高13万6500円]が上限)。
また、2019年の消費税増税や2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う特例が適用できる場合は、住宅ローン減税を13年にわたって受けることができます。
2022年に改正された住宅ローン減税では、新築の場合13年、中古の場合は10年にわたって控除が受けられます。しかし、所得税からの控除率が「住宅ローンの年末残高の0.7%」に縮小。最大控除額も少なくなりました。また、住民税からの控除も減少(前年度の課税所得×5%[最高9万7500円]が上限)しています。
ただし、税金が戻ってくるのは1年間に支払う所得税・住民税の範囲まで。支払う以上の金額が戻ってくることはありません。そのため、「最大控除額」まで控除を受けられない方も多くいます。
また、住宅ローン減税を受けるには、初年度のみ確定申告が必要です。2年目以降は年末調整でも手続きができます。
ふるさと納税は年収や家族構成で寄附上限額が異なる
ふるさと「納税」という名前ですが、ふるさと納税は「寄附」の制度です。自分が選んだ自治体に寄附をすることで、2000円を超える金額を所得税や住民税から控除できます。さらに、寄附をすることで寄附先の自治体からお礼の品(返礼品)を受け取れます。
ふるさと納税の自己負担の上限額は、年収や家族構成で異なります。
たとえば、年収400万円で共働き+高校生の子1人の場合には、3万3000円までが自己負担2000円で済むふるさと納税の上限額となります。なお、ふるさと納税はこの上限以上にすることもできますが、上限額を超えた分は所得税や住民税の控除が受けられません。ですから、自分の上限額がいくらかを確認してふるさと納税を行うのがスマートです。
ふるさと納税のポータルサイトでは上限額のシミュレーションができるので、ふるさと納税を利用する前に確認しておきましょう。
住宅ローン減税はどう適用されるのか
住宅ローン減税では、次のような流れで住宅ローンが安くなります。以下、2020年に住宅ローンを借り入れたものとして紹介します。
まず、毎年の給与収入から会社員のみなし経費にあたる「給与所得控除」を控除して、給与所得を計算します。給与所得控除の金額は、数式で決まっています。
次に、給与所得から「所得控除」を控除して、課税所得を計算します。所得控除の金額は、人により異なります。
そして、課税所得の額に応じて5%〜45%の税率をかけることで、所得税が計算されます。また、住民税は一律10%となっています。
住宅ローン減税は所得税や住民税を直接控除できる「税額控除」。大きな節税効果が得られます。まず所得税から控除し、所得税で控除しきれない金額は、住民税からも控除されます。なお、住民税の控除には「前年度の課税所得×7%[最高13万6500円]」という上限があります。
住宅ローン減税とふるさと納税は併用の仕方に注意
ふるさと納税の寄附による控除(寄附金控除)の申請方法には、確定申告とワンストップ特例の2つの方法があります。住宅ローン減税とふるさと納税を併用した場合の流れをみてみましょう。
ふるさと納税の寄附金控除を確定申告で行うと、所得税が還付され、翌年の住民税が安くなります。
所得控除にふるさと納税の寄附金控除が含まれるため、課税所得が減り、そのぶん所得税も減ります。住宅ローン減税では、まず所得税から控除し、控除しきれない金額は住民税から控除します。住宅ローン減税の住民税の控除額上限は前年度の課税所得×7%(最高13万6500円)です。よって、住宅ローン減税によって住民税がゼロになることはありません。ふるさと納税の住民税控除分は残りの住民税で全額控除することができます。
住宅ローン減税を活用し、所得税だけで控除しきれない金額がある場合において、ふるさと納税&確定申告を行うと、ふるさと納税の寄附金控除の分だけ、所得税から住宅ローン減税で節税できる金額が減ってしまうというわけです。
確定申告よりワンストップ特例の利用がおすすめ
ワンストップ特例は、確定申告しなくても寄附金控除を受けられる制度です。寄附先の自治体が1年間で5自治体以内・確定申告をしないなどの条件を満たせば利用可能。確定申告の手間を省けます。
ワンストップ特例の場合、ふるさと納税の寄附金控除は全額が住民税から控除されます。所得控除にはふるさと納税の寄附金控除が含まれません。したがって、課税所得は減りませんし、所得税も減りません。所得税が減らないので、住宅ローン減税で税額控除できる所得税の金額も、ふるさと納税の有無では変わりません。
住宅ローン減税で所得税を控除し、控除しきれない金額は住民税から前年度の課税所得×7%(最高13万6500円)まで控除できます。
ふるさと納税の住民税控除分は残りの住民税で全額控除することができます。
以上より、住宅ローン減税とふるさと納税を併用する場合、ワンストップ特例であればいいのですが、確定申告をすると節税できる金額が減る(損する)ことがわかります。
確定申告だといくら損してしまうのか
住宅ローン減税とふるさと納税を併用し、確定申告した場合、いくら損してしまうのでしょうか。
たとえば、2020年に住宅ローンを借り入れた、年収600万円・独身の場合(※他の所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみ)の場合、ふるさと納税の寄附上限額は7万7000円です。2020年に借り入れているので、住宅ローン減税の計算は、住宅ローンの年末残高の1%(40万円上限)となります。
仮に、この人の住宅ローンの年末残高の1%が「40万円」の場合
・ふるさと納税後の住宅ローン控除額:32万8200円
となります。差額は7700円です。
ふるさと納税を行い、確定申告をすることで、ふるさと納税の寄附金控除の分だけ、所得税から住宅ローン控除が差し引けないこととなり、損してしまうのです。
確定申告の場合でもふるさと納税を併用するメリット大
年収600万円の人の場合、所得税率は10%なので、ふるさと納税の寄附上限額7万7000円×10%分が住宅ローン減税で節税できず、損になってしまうというわけです。
住宅ローン減税とふるさと納税を併用するメリットのほうが大きいので、多少損したとしてもふるさと納税を併用したほうがいいでしょう。確定申告をすると、数千円は損する可能性がありますので、確定申告が不要なら、ワンストップ特例制度を利用するようにしましょう。
また、毎年、確定申告する場合でも、住宅ローン減税とふるさと納税を併用するメリットのほうが大きいので、ぜひ併用していきましょう。