価値が8分の1以下になった「トルコリラ」に投資
長期間にわたって下落を続ける通貨、トルコリラ。2021年末には「1リラ=6円台前半」という史上最安値(リラ/円相場)をつけ、現在も低迷を続けています。この記事は、そんな「弱含み」通貨であるにもかかわらず、圧倒的な「高金利」につられ、しかもFXという極めて「ハイリスク」な投資法で投資をした顛末です。
トルコリラ/円の相場は1リラ=8円程度で推移していますが(4月上旬現在)、2015年頭には1リラ=50円程度であったことを思えば、リラの価値はすさまじく下がっています。
1国の通貨がここまで暴落することは稀で、これは歴史的な暴落とも言われています。
その要因はさまざま挙げることができますが、一般的にはシリアにおけるクルド人勢力との争いといった地政学リスクが大きく影響していると言われています。今後は、地理的にも近いウクライナ情勢も大きく影響してくるかもしれません。
それでも、非常に金利が高いことから人気通貨で、以前から、多くのFX会社で扱われています。ちなみに、私がはじめてリラに投資したのは2015年頃で、当時のトルコの政策金利は7.5%程度でした。その際、その高金利をさらに増幅させるべく、私が利用したのはFXという投資法です。
トルコリラのFX投資で利息生活を夢見たが……
FXとは外国為替証拠金取引のことで、わずかな証拠金で多額の金額の取引ができます。たとえば1リラ=50円なら、通常、1万リラを取引するには50万円必要ですが、FXでは数万円程度の証拠金があれば取引できるのです(※)。
ただ、その数万円はあくまでも証拠金であって、実際の取引額は1万リラ(50万円相当)なので、リラを買った場合には、その取引額に対して利息(FXではスワップ金利と言う)がつきます。
当時、1万リラにつき1日100円程度(※)の利息だったので、年間3.6万円ほど。仮に証拠金が5万円程度であれば、これは年利70~80%ものすさまじい高金利となるのでした。
そんな資金効率の良さがFXの大きな魅力、そして武器なのです。
私はそんな武器を使い、2015年に入ってリラが下がり始めたタイミングで、1リラ=40~50円程度で買い進め、最終的に5万リラを保有していました。
これで1日500円程度ではありますが、何もせずとも入金される不労所得を得たことに嬉しく思い、この調子でリラを買い増していけば、リラの利息だけで食べていけるのでは……と浮かれていたことを覚えています。
なぜ100万円を失うことになったのか
ただ、少額の証拠金で取引可能なFXは、ついつい取引額が大きくなりがちで、大きなリスクを抱えてしまいがちなのです。いま振り返れば、私もそうでした。仮に1リラ=50円が49円になれば1円の為替差損ですが、これが5万リラの取引だと、5万円もの損失です。
FX会社に預けた証拠金が少額の場合は、証拠金が吹っ飛び、それ以上の損失にもなりかねません。
ですからFXには、「ロスカット」と呼ばれる仕組みがあります。損失が膨らみ、証拠金額が一定水準まで減ると強制決済されるのです。ロスカットになるとゲームオーバー、夢の利息生活は潰えてしまいます。
簡単にはロスカットとならないようにと、最低10~20万円程度の証拠金があれば取引できるところを、ゆうに100万円を超える証拠金を入れていたのでした。これは利息生活を夢見て、ゆくゆくはリラの買い増しも視野に入れての戦略でもありました。
この戦略によって、「資金効率の良さ」というFXの利点は多少薄まってはしまいますが、そうやって、リラが買値の半分くらいになってもなんとか耐えられるように(ロスカットにならないように)、十分な備えはしていた……つもりでした。
アメリカの経済制裁で「2018年トルコショック」発生
さて、前述のように1リラ=40~50円程度のタイミングで投資したわけですが、やはりシリア侵攻といった地政学リスクが嫌気され、じりじり下落を続けました。数万円単位で資産が溶けていく日々もあり、かなりしんどい状態でもありましたが、それでも日々発生する利息を心の糧に、じっと我慢を続けました。
というより、途中からはリラの値動きにすっかり目を背けていたことを、ここに告白します。そんなわけで、当初はリラの買い増しも考えていたものの、何もできていない状態だったのです。
そうやってリラの下落に目を背けていた中、2018年夏、アメリカによるトルコへの強烈な経済制裁をきっかけにリラはさらに急落し、想定外の1リラ=20円を割り込みます(図表1参照)。FXの世界では、「2018年トルコショック」と言われた出来事です。ここで私はロスカットとなり、証拠金のほとんどを失うことになりました。
100万円の損失で悟った新興国通貨投資の3つの教訓
こうして私は、はじめてのリラ投資で100万円以上も失ったわけですが、身をもって、新興国通貨投資における3つの教訓を得ることができました。
①「値ごろ感」で投資しない
私はリラを40~50円程度のタイミングで買ったわけですが、実はこのとき、「すごく安く買えた!」と内心ほくそ笑んでいました。というのは、過去の相場を調べてみると、2007年頃にはなんと1リラ=100円近い水準だったからです。実際、「数年前の半額バーゲンセールですよ」と煽る業者もいました。
ただ、通貨の価値は、(かつての金本位制と違って)明確な資産に裏付けされたものではなく、その国の情勢に応じて、「市場が判断」します。ですから、情勢が目まぐるしく変化する新興国通貨を過去の相場と比べ、“値ごろ感”で取引すると痛い目に遭うわけです。
②高金利に吊られない
基本的に、新興国の金利は高いです。ただ、金利が高いということは、一般には、その国はインフレ状態ということです。金融政策のセオリーとして、インフレ状態(景気過熱)には金利を引き上げるからです。
インフレ状態とは、継続的に物価が上昇している状態のことで、相対的に通貨価値が下落していくことを意味します。すなわち、長期的に見れば、高金利の国の通貨価値は、下落していく可能性が高いことになります。
南アフリカランドやブラジルレアルなども高金利通貨として有名ですが、長期的視点で見れば、これら通貨も綺麗な下降トレンドを描いています。
③新興国では、何が起こるか分からない
新興国の政治・経済は非常に不安定で、日本では考えられないようなことも普通に起こり得ます。たとえば、トルコでの2016年の大統領暗殺未遂クーデターなどは、まさにそれです。
そのクーデター容疑がかけられたアメリカ人牧師の拘束をきっかけに、アメリカから強烈な経済制裁が行われ、前述の2018年トルコショック(リラ大暴落)となったわけです。
リラ投資においては、それなりに政治的リスクも認識していたつもりでしたが、一般的な日本人である私にとって、独裁政権の世の中はイメージできず、そしてクーデターまでは想定できず、そのリスク認識は全然十分ではなかったようでした。
20%近くまで上昇した金利を見て投資熱が再燃
そんな教訓を身につけたわけですが、やはり100万円以上の損失のダメージは大きく、しばらくはリラからは離れていました。そしてトルコショックから3年が経過しました。
ふとリラ相場を確認すると、1リラ=20円はおろか15円をも大きく割り込む水準になっており、政策金利はなんと20%近くにまで上がっていたのでした。これには投資熱が再燃し、昨年、私は1リラ=12~13円のタイミングで、再びFXで5万リラを購入しました。
かつて1リラ=20円の頃にロスカットを喰らっていた私は、1リラ=12~13円には「安い!」と喜び、また圧倒的な高金利に目を奪われたのでした。前述の教訓①②は何だったのでしょうか。恥ずかしい限りです。
そして参戦直後に教訓③の洗礼を再び受けることとなります。それは、猛烈なインフレが進む中で利下げをするという、経済セオリー無視、通常は考えられない、独裁大統領のまさかの経済政策です。
これにはマーケットも大ブーイング、リラは急落、冒頭のように史上最安値を更新し、またもや買値の半額程度までとなり、大きな含み損を抱えてしまったのでした。
どんなに下がっても絶対に退場しない「FXレバレッジ1倍法」
教訓をまったく活かせていないガッカリな行為ではありましたが、頭では分かっていても、実際にはなかなか実践できないという、投資のリアルさを感じていただければ幸いです。
ただ、1つ成長があったとすれば、それは2回目のリラ投資では、「リラは絶対に手放さない(何が何でもロスカットは喰わない)」と、完全に腹を括ることができたことです。
はじめてのリラ投資では、証拠金を多めに入れてはいたものの、想定外のリラ暴落でロスカットになりました。それを受けて今回は、実際の取引額(12~13円×5万リラ=60万円強)と同額の証拠金を入れることで、リラがどれだけ下がっても、絶対にロスカットを喰わないようにしたのです。
ちなみにこれは「FXレバレッジ1倍法」と言われるもので、FXの資金効率の良さはなくなってしまいますが、FXの安い為替手数料や高い金利水準を享受することができる効果的な手法です。
今後、ウクライナ情勢に絡み、リラ相場は大きく変動するかもしれません。NATOに加入しながらも、ロシアと独自の外交を展開するトルコにも、何が起こるか分からない怖さもあります。ルーブルのように大暴落、取引停止も決してあり得ない話ではないでしょう。
しかし腹を括った以上、そんな情勢も含め、目を背けずに、今後のリラ相場をしっかり見守っていきたいと思っています。
[脚注]
※必要証拠金額やスワップ金利は業者により異なる。