コロナ禍で混乱する中、遺言、贈与、相続の法制度が次々施行に
みなさんは、コロナ禍で遺言、贈与、相続の法制度が次々と施行されていることをご存じでしょうか。いずれもお金の損得に直結する条文です。新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、コロナ以外の情報は埋もれがちです。
そこで今回は、数ある制度変更のなかで教育資金の贈与非課税制度を取り上げたいと思います。具体的には「祖父母が孫へ教育資金を贈与する場合、1500万円までは贈与税がかからない」制度です。
厳密にいえば全く新しい制度ではなく、2013年4月から開始しています。そして2021年3月をもって終了する予定でした。しかし、実際には終了せず、期間が「2021年4月から23年3月へ」延長されました。
私は行政書士・ファイナンシャルプランナーとしてコロナで経済的に苦しむ人の救済を行っています。この制度が延長されるどうか……私はコロナ2年目に振り回された人のケースを見てきました。結果的に延長されて窮地を脱したのですが、この制度をどのように使えば良いのでしょうか。
私が受けた相談実例から紹介しましょう。
元妻:八雲好江(48歳。パートタイマー)/相談者
長男:八雲誠也(22歳。大学4年生)
元夫:鎌田辰夫(52歳。職業不明)
元夫の父:鎌田辰則(74歳。内科クリニック院長)
母子家庭で育った苦学生の息子を待っていた悲劇
「息子に奨学金を背負わせたくないんです!」
八雲好江さん(48歳。保険外交員。年収400万円)は苦しい胸のうちを明かします。酒に女、賭博に借金。悪行三昧の元夫と離婚したのは10年前。夫婦の間には12歳(離婚時)の息子さんがいました。元夫は「離婚したら俺の子じゃない!」と言い張るので、息子さんの親権は好江さんが持つことに。
そして元夫は養育費として毎月9万円を22歳まで支払うことを約束しました。それから一度も滞りなく振り込まれたのですが……女手一つで育てるのはやはり大変。日々の生活に余裕はなく貯金はゼロの状態で息子さんは大学に合格。
コロナで銀行の融資担当の態度が一変。教育ローンが否決に
22歳(相談時)の息子さんは大学4年生。大学受験時には80万円(予備校の月謝、模試、受験料等)、入学から現在まで250万円(大学の入学金、授業料等)を銀行から借入せざるを得ない状況でした。コロナ前、融資担当者は次の50万円(4年後期の授業料)も大丈夫と太鼓判を押していました。しかし、コロナ後に態度が一変。「うちもコロナで苦しい」と融資の審査を落とされたのです。好江さんは他に方法もなく、途方にくれました。そんななか、私の事務所を訪れたのは2021年6月でした。
人でなしの元夫ではなく、義父に教育費を負担してもらう方法
人でなしの元夫が毎月、振り込むとは……私はにわかに信じられませんでした。そこで元夫の実家の様子を尋ねると、好江さんは「お父さんは駅前の内科クリニックの院長先生です」と答えます。養育費の出所は元夫の父親(以下、義父)なのでしょう。そこで私は「それなら授業料も義父に直接、頼みましょう」と提案しました。
本来、祖父が孫を援助すると贈与税がかかります。一般的に相続税より贈与税の方が重い。例えば、1000万円を渡す場合、贈与税なら275万円(税率40%。控除125万円)、相続税なら100万円(税率10%)です。
なるべく贈与税がかからないように生前贈与をしなければなりません。一例を挙げると暦年贈与。これは年110万円までは非課税という制度です。しかし、今回の場合、毎月の養育費(9万円×12カ月=108万円)に加え、授業料の50万円を加算すると110万円の枠を超えます。どうしたらいいのでしょうか?
教育費の贈与が1500万円まで無税になる制度を活用
そこで役立つのが今回の制度。祖父母から孫へ教育資金を贈与する場合、1500万円まで非課税。つまり、授業料の50万円も無税で贈与できるのです。
しかし、好江さんは「でも息子は成人しています」と弱気。当時の成人は20歳以上だったからです。2022年4月から18歳以上に変わりますが、私は「大丈夫」と勇気付けました。なぜなら、贈与を受ける側の年齢制限は0~29歳だからです。
好江さんが義父に宛てて手紙をしたためたのは2021年8月。「最後の授業料を援助してください」と。大学の納付書と一緒に送ったのですが、義父は「節税の枠を超えるから」と拒否。特例が2021年3月で終了したと思っていた様子。私は「2023年3月まで延長されました」と助言しました。
好江さんがそのことを伝えると義父は「外孫だって俺の孫だ。かわいいよ」と言い、郵便局へ納付書を持ち込み、50万円を納めてくれたそうです。今回の制度は名前の通り、その使途が教育資金に限られます。どこにいくら納めるのか。具体的な名称(教育機関等)と金額が明らかでなければなりません。いくら節税効果があるからといって使途不明なお金を贈与した場合、非課税が適用されないので注意してください。
問題は祖父が亡くなる前に使い切ること
この制度の場合、贈与する側は年配の方です。好江さんの場合、大学4年の授業料でしたが、大学1年時に4年分をまとめて贈与するケースもあります。もし卒業するまでに祖父が亡くなったら、どうなるのでしょうか?
制度が延長された2021年4月以降、祖父が亡くなった時点で残った分は課税されるようになりました。これは相続税の対象です。しかも、祖父から孫への相続税は、祖父から子に比べ、相続税の税額は2割増しです。まだ大学に納めていない分は課税対象になるので気を付けましょう。
高卒の好江さんは「息子が大学を卒業する姿。それを見るのが夢でした」と私に礼を言いました。晴れて2022年3月、好江さんは息子さんの卒業式を見届けたのです。
この特例は両親が結婚している場合だけでなく、すでに離婚している場合も適用されます。そのことが好江さん親子を救ったのです。
親ガチャが無理なら祖父ガチャを使う
2021年の流行語大賞のトップ10に選出された「親ガチャ」。実家の貧富によって子どもの教育、結婚、就職などが左右されますが、残念ながら、子どもはどの親のもとに産まれてくるのかを選ぶことはできません。
玩具やゲームの「ガチャガチャ」のように本人の努力より運の要素の方が強いという意味です。息子さんが引き当てたのは親ガチャではなく祖父ガチャ。今回の制度はガチャの確率(祖父の説得率)を上げるのに有効です。
さらに追い風であるのは遺産の不動産から現金への流れです。国税庁によると10年間で不動産と現金の割合は逆転。具体的にいうと平成21年は不動産が55%。現預金や有価証券が34%でしたが、平成30年には不動産が40%。現預金や有価証券が48%です。
祖父に対して「実家を売って大学の授業料を払って」とは、さすがに頼みにくいですが、一般的に年配の方の財産は不動産から現金へ切り替わっています。すぐに現金化できる財産なら祖父も承諾しやすいです。その財産は祖父から子、そして孫と受け継がれます。遅かれ早かれ孫に渡るなら今すぐ欲しいと説得しましょう。
コロナ前の2019年に離婚した夫婦は20万8000組。一方、コロナ後の2020年は約19万3000組とほぼ横ばい(厚生労働省の人口動態統計)。コロナ禍で金銭的に厳しい母子家庭は多いです。祖父の資力を想像し、今回の方法を使えそうなら、参考にしてみてください。