今絶対にやってはいけないこと
前回の記事では、米国株式市場のこれまでと、ロシアのウクライナ侵攻について、その影響の一部を説明しました。
今回の記事では「絶対にやってはいけないこと」「やらないほうがいいこと」「今やったほうがいいこと」について紹介します。
そもそも、投資において「絶対」というものはそう多くありません。しかしながら、あらゆる投資家にとって今絶対にやってはいけないことを一つ挙げるとしたら、「感情的に投資判断や投資行動をしてはいけない」ということです。
投資の神様といわれるウォーレン・バフェット氏の名言に、「(投資で成功するためには)IQ(知能指数)が高い必要はない。感情をコントロールすることが必要で、自己破壊的な行動をして、リスクを冒さないことだ」があります。また、投資のミスの大部分が感情によって引き起こされるとも言っています。
株価の下落や市場の混乱にのまれて、衝動的で合理的ではない行動をとってはいけません。むしろ、市場や他の投資家が冷静さを欠いている時にこそ、冷静さを維持している投資家には、チャンスが訪れたりもします。日々株価が動くのも、自分のまだ知らないニュースが流れてくるのも当たり前のことです。それに一喜一憂しないことが大切です。また、近視眼的になるあまり、長期的な計画や戦略を見失って、投資をやめてしまわないことが一番重要だと思います。
あまりやらないほうがいい3つのこと
一方で長期投資家、特にS&P500などのインデックスに投資している方が「あまり」やらないほうがいいことは3つあります。
1.今、現金比率を高めること(タイミングを計った投資戦略)
たとえば、初心者が株価の下落や周囲の雰囲気にのまれ、感情、感覚によって現金化する行為は、できればやめたほうがいいと思います。リスクを取りすぎていたと感じる人もできれば今は踏ん張って、平時となり市場が落ち着いてから、また次の危機に備えて資産配分を考え直すのが良いでしょう。
今、現金比率を高めるのは市場がより下がることに賭けるということにもなります。しかしながら、今後どうなるかわかりません。株式比率を下げることで反発後の上昇の恩恵を受けられない可能性があります。
1987年から2018年末までS&P500指数に投資をした場合、リターンは年率11.20%(ドルベース)。最初に1万ドル投資した場合、最終的には20万1704ドルとなりました。
しかし、同期間のS&P500指数が上昇した上位数日を逃した場合の年率と1万ドルはそれぞれ以下のようになってしまいます。
・上位20日を逃した場合年率5.90% 6万2395ドル
・上位30日を逃した場合年率4.30% 4万1073ドル
たった10日間逃しただけで、ほんのわずかの間市場にいなかっただけで、こんなに差がついてしまうのです。タイミングを計って株式市場から出ることは、一見賢明に見えますが、それはうまくいくこともあればいかないこともある戦略です。
タイミングや先行きを予測して市場から出たり入ったりするのではなく、長期間資産を株式市場に配分し続けることが、長期的にS&P500等へ投資をする際の基本となります。
バンガードの調査によると、コロナショックの際、現金化した投資家のほとんどが、下落前の資産配分を維持していたほうが、結局よいリターンを手にすることができたということがわかっています。
株が下落した後安値で株を売り現金比率を高め、値上がりした後で株やリスク資産を買う。これでは安値売りの高値買いを繰り返すばかりで、ただ黙って市場にいた場合に得られるはずだったリターンを自ら押し下げてしまう可能性につながります。
米国ダルバー社の調査によると、2013年末時点から過去30年間のS&P500指数は年率11.11%のリターンだったのに対し、S&P500に連動する投資信託の保有者の平均リターンは3.69%と大きく劣っていたことがわかっています。
この間ただ黙って市場に居続ければ、S&P500に投資をしている投資家は30年間で、資産を約22倍にすることができたのですが、S&P500に連動する投信を保有していた平均的な投資家は、途中で売買を繰り返したため3倍程度にしかすることができませんでした。
2.金を買うこと
こういう時期はブログの読者から「金」について質問をよくいただきます。短期的な視点やトレードは別ですが、長期的にPFに組み込んでリスク分散を図りたいというのであれば、今買うのではなく平時に買うのが良いと思います(投資をしたい方は価格が落ち着いてから適切な比率を組み込むのが良い)。
資金が小さいとコスト負けすることもありますし、ある程度の比率で投資しないと分散効果も言うほど期待できなかったりもしますから、自分の目的や環境もよく考えて投資をしましょう。
3.ショート・CFD・オプション、レバレッジなど
日ごろからやり慣れている人ならまだわかります。しかし、初心者の方が損失を取り戻そうと普段やり慣れないことに急に手を出しても簡単に勝てるとは思えません。
生兵法は大けがのもとと言いますが、元々慣れた方でも難しいのに、わざわざこの難しい時期と相場環境でデビューする必要があるのかとも思います運よくうまくいくこともありますが、下手を打てばあなたの資産状況はより悪くなりますし、市場には、プロも含む、あなたよりも知識や経験やスキルや良い環境にいる「相手」がいるということを忘れないようにしましょう。
今やったほうがいいこと
では、最後に、今何をやったほうがいいのか。私の考えを書いていきたいと思います。今、最も個人投資家がやったほうがいいことは、自分が「確実に」できることに力をいれること、集中することです。先ほど投資において「絶対」ということは、ほとんどないと述べましたが、自分自身で確実にコントロールできることもいくつかあります。
例えば、毎月の入金額、拠出額を増やすように努めることです。シンプルですが、これが最も確実に資産を増やす手段だということを忘れてはいけません。毎月2万円積立×20年で480万円。これを5%で複利運用した場合、820万円になります。毎月4万円を20年間貯金すると、金利0%でも960万円になります。
投資は元手が大きければ大きいほど有利に働きます(投資に限らず世の中ほとんどのことがそうでしょう)。早くお金持ちになりたい方や確実に資産形成をしたい方はこの事実から目を背けてはいけません。
利回りを上げるより投資額を増やすのが有効
株式投資の利回りは市場次第で、自身でコントロールすることはできませんが、投資の元手を増やすことは自分自身の努力次第である程度達成することが可能です。多くのアクティブファンドのマネージャーやプロの投資家が、長期的にはコスト控除後のリターンで、株価指数をほんの1%超えることすら達成できていません。
才能やスキルや運のある一部の方は別ですが、大多数の普通の個人投資家の方や初心者の方であれば、利回りを1%上げる努力をするよりも、毎月の投資に回すお金を増やすことにその労力や時間を使ったほうが確実ですし、効率的です。自分自身の人的資本や収入を増やすことは、資産を形成する上で攻めにも守りにも有効です。毎月の安定した収入は株価の下落から、金銭的にも精神的にもあなたを守ってくれます。また、健康や寝不足、体調などにも気をつけましょう。あなた自身の体が何よりも重要な資産です。株価だけが人生ではありません。株価の一時的な下落くらいで体調を崩したり、精神的に参ってしまっては人生もったいないと思います。
家計の見直しで投資額を増やす
また、毎月の拠出額を増やすという意味では、家計全体の見直しも大切です。コロナウイルスによるサプライチェーンの問題やウクライナ侵攻の煽りを受け、日本でも食料品や燃料費、ガソリン代などが値上がりしています。無理のない範囲で日常の生活や投資を続けるためにも、支出をコントロールし、生活費や投資に回すお金のバランス、今の幸せと将来の幸せに対する投資とのバランスを保つことが重要です。
いつもは面倒くさがって腰が重たい人も、例えば、この機会にメルカリ等でいらないものを処分し、できたお金でいつもより1万円多く投資信託を買うというのも悪くないと思います。①収入を増やす、②支出をコントロールする。この基本がとても重要です。これをしっかりと実行した上で投資を実践していきましょう。
まず、つみたてNISAやiDeCoで毎月投資をしている方は、いつもどおりの計画を維持しましょう。平時に決めた自身の計画や資産配分を維持することが基本です。これまで分散投資を実践してきた人はそれを変える必要はありませんし、維持することが大切です。
株価の下落に対して苦しい、投資を投げ出したいと感じている投資家の方もいるかと思います。そういう方は元々リスクを取りすぎていた可能性があります。でも逆に考えると、最近投資を始めた方であれば、資産形成初期にそれに気づけたことはとても大きな財産だとも思います。
人は自分自身のこともなかなか正確にはわからないものです。初心者は今のような下落と上昇相場、その両方を経験して、自分にとってちょうどよい資産配分を見つけることが大切です。
最も大事なのは途中で投資をやめないこと
当たるかどうかわからない未来予測の精度を上げようとするよりも、まずは確実にできることからしっかりと改善していくことが重要だと思います。
私自身は米国株式がいまなお優れた資産、優れた投資対象の一つだと思っています。ただ、それを過信し過ぎることなく、現金や他の国々の株式、必要であれば他の資産などに適切に分散投資をし、自身のとれるリスクの範囲内で投資をすることが、長期投資を成功させるうえで大切だと思います。
資産形成で最も重要なのは、途中でやめないこと、あきらめないことです。私は今月もいつもどおり投資を続けていきたいと思います。