2020年に「トイレ不倫」が発覚、芸能活動を自粛していたアンジャッシュの渡部建さんが、今年2月にテレビ復帰した。コラムニストの河崎環さんは、妻・佐々木希さんの一連のコメントに違和感を持っているという――。

2020年の裏流行語「多目的トイレ」

「多目的トイレ」。そのワードはあまりにもパワフルすぎて、2020年の裏流行語とも言われたものだ。

「第33回ジュエリーベストドレッサー賞」の30代部門を受賞した佐々木希さん。2022年1月13日、東京都江東区・東京ビッグサイトで
「第33回ジュエリーベストドレッサー賞」の30代部門を受賞した佐々木希さん。2022年1月13日、東京都江東区・東京ビッグサイトで(写真=時事通信フォト)

それは2020年6月、新型コロナウイルスの感染拡大によって日本が初の緊急事態宣言を経験し、首都圏の人々の間ではコロナ自粛が明け始めた頃だった。生活スタイルの変化と情報への渇望から社会生活の急激なデジタル移行が進み、ウェブも新聞もテレビも、あらゆるメディアへ人々の関心が注がれ、どこの媒体もアクセス数や視聴率は最高レベルで振り切っていた。

そんな中で「お笑い芸人のアンジャッシュ渡部が、多目的トイレで複数の相手と不倫」との文春砲が炸裂。「いくらなんでも多目的すぎる」「多目的トイレにそんな使用目的はない」と大騒ぎになり、多目的トイレとは本来どんな人がどんな目的のために使うのかとワイドショーでは図解までして世間の理解が促進された。

半年後の12月には、芸能活動を自粛し謹慎生活をしていた渡部が年末放送予定の特番に参加し、収録が終了していたとの報道が出て、批判が再燃。不倫直後にはなぜか頑なに開かれなかった謝罪会見が急遽行われるに至った。ところがその100分にも及ぶ会見が何の芸もなくただ謝るに終始したものだから火に油を注いでしまう。渡部の芸能界復帰への道は当分の間、断たれてしまったというのが大方の見解だった。

15歳年下の妻・佐々木希が健気にもバラエティ番組やドラマで稼ぐ陰で、禊なのかどうなのか、築地市場でアルバイトを始めたとか辞めたとか、実は続いているんだとかも細々とささやかれていた。

「誰も待っていなかった」テレビ復帰

その渡部がとうとう今年2月、コンビにとって初の冠番組だったという思い入れのある「白黒アンジャッシュ」(千葉テレビ)でカメラの前に復帰。ところがその報道に対して、世間の反応は残酷な「体温の低さ」を見せていた。

一般人も渡部と同じ芸人仲間も、渡部に対してもはや熱く怒る人はほとんどいなかった。お笑い芸人の間では「基準」とされているような大物芸人たちの反応も、まだ早いような気もするけれど、まあもし本人が復帰するのならすればいいんじゃないの、自分はやりづらいからあまり絡みたくないけれど、というもの。

それは、誰も待っていなかった、ということなのだと思われた。

「健気に頑張る年下妻」佐々木希

アンジャ渡部の自主謹慎と復帰の傍らで、妻の佐々木希は幼い子を育てながら仕事を続けていた。だが、この件に関する佐々木希の一連の対応は、一般の感覚では少々違和感の残るものでもある。芸能生命を長らえる演出でもあるのだろうが、「健気に頑張る年下妻」が過剰なのだ。

文春砲炸裂直後、佐々木希への支持は当の文春関係者が予想外だったと語るほどに爆上がりしていた。幼い子を育てていることもあってか、報道直後からまず離婚はしないと明言し、憔悴した15歳年上の夫をつきっきりで支え、インスタグラムで「この度は、主人の無自覚な行動により多くの方々を不快な気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません」と(なぜか妻が)謝罪。

夫のスキャンダル発覚後に表紙を飾ったファッション誌のインタビューでは「私の愛は、結構深いし、そう簡単にはなくならないと思う」と、夫への変わらぬ愛を宣言。その「私の愛で立ち直らせてみせる」と言わんばかりの姿勢一点張りに、世間では「へー、そんなにその夫が好きなの?(なんで?)」という、呆れにも近い思いが広がっていた。

夫のエグい不貞が明らかになり、自分がかなり強烈な形で裏切られていたにもかかわらず一般の感覚では理解しがたいほど寛容に水に流し、夫の代わりに気丈に世間に謝って、キャリアの危機にさらされるアラフィフの夫を献身的に支える、15歳年下の美人妻。そんなキャラクター演出、タレントとしての戦略でもあったのだろう。30代半ばという彼女の年代を考えればひどく自己犠牲的で、根本にどうも男尊女卑のにおいがプンプンして違和感しかない。

でも、本人がそう言うならそれでいいんじゃない、まずは子どもも小さいし、彼女もキャリア継続しなきゃならないんだしと、ある意味「過剰に古風な佐々木希問題」は宙ぶらりんで放置された。

自分の配偶者を何と呼ぶか

その後の活動も、どこかに腫れ物扱いを感じさせながらもバラエティに出演したり、夫の不倫の件を彷彿とさせるセックス依存症の女性役に挑むなど、キャリアとしては順調だ。

しかしここにきて、渡部の復帰報道に対して彼女が寄せたコメントに、「その過剰に夫を立てる姿勢、もういい加減にしたら?」と苛立ちを隠せない人々、中でも働く大人の女性は少なくない。

「本日より主人が仕事復帰することとなりました。これからはゼロから頑張る主人の姿を見守ることに決め、今まで以上に感謝の気持ちを持ち、家族と共に前に進んでいこうと思っています。」(佐々木希インスタグラムより)

日本でも共働き夫婦の世帯数が専業主婦世帯数を越える現代、女は当たり前のように仕事をし、働き続ける。職業人として活動する現場で、自分の配偶者を何と呼ぶか。女たちは先輩から学習したり周囲を見たり、プロフェッショナルとしての意識があるほど、公式の場では「夫」とニュートラルに呼ぶのが暗黙の了解だ。

コーヒーカップを手に話し合いをする男女
写真=iStock.com/AntonioGuillem
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SNSにあふれる若い女性の「主人大好き」

若い女性は、新婚だと特に「主人」を品の良い呼び方だと誤解するのだろうか。

佐々木希に限らず、20~30代の芸能人や読者モデル出身のタレント、インスタグラマーなどの対外的な発信の中に、自己反省の欠如した流行なのか「主人」があふれかえっている。「主人大好き」。他人の視線の前で幸せオーラを漏れ出させながら、そう呼ぶ自分のキラキラとした笑顔も好きそうだ。

だが仕事場で自分の夫を「主人」と呼ぶのなら、「あなたは自分の夫に仕えているのか」「あなたのボス(上司)は夫なのか」と問われても仕方ない。そういう女がプロフェッショナルとして尊重されるだろうか? 立派に芸能人として人気を確立し、さまざまな需要に応えている仕事人のあなたは誰なのか。「夫」という配偶者のいる「妻」なのか。「主人」の「家来」なのか。

不倫報道の時から、公の場に向けて「主人」を連呼する佐々木希のコメントは、だから大人の女たちを辟易させた。「あんまり深く考えない子なのかな」「タレントイメージの演出なのだろうけれど、こういう不倫報道のあとに主人という言葉が多用されること自体がストレス」。すると、共感は逃げてゆく。頭のいい女を好む男たちもまた、「佐々木希はねえ……」という感想を持つようになる。

渡部叩きの反作用としての「佐々木希支持」

大人たちの間では、佐々木希の周りの大人は何をやっているんだ、という余計な心配も広がる。夫の不倫報道直後の「佐々木希支持」で世間に肯定されたと思ったのか、それとも本人が周りの言うことを聞かないほど強固な信条の持ち主だというのか?

だが不倫報道直後の「佐々木希、立派」という論調は、あくまでも渡部建がボコボコに叩かれていることへの反作用であったことを見逃してはならない。「こんな渡部建に比べて、妻の佐々木希は頑張っているよなぁ」という同情を、額面通りに受け取ってはいけないのである。

過剰な「古風で健気」路線。そこまで徹する姿勢をなかなかやるなと評価し、支持に回った向きも、あるにはある。ただ大人の目から見ると、夫の側にも妻の側にも現時点では共感できる材料の少ない夫婦であることは否定できない。今後の彼ら2人が、夫婦として成長する中で変わっていくのを願っている。