ロシアがウクライナに侵攻を開始し、世界の株式市場は大きく揺れている。経済コラムニストの大江英樹さんは「今後の情勢次第では、一時的な下落幅は想定以上に大きくなる可能性がある」という。不安定な市場が続くときに、絶対やってはいけない投資行動と狙い目の銘柄とは――。
2022年2月24日、東京でマーケットボードの前を歩く人。日経平均株価は478.79ポイント(1.81%)下落し、2020年11月以来の安値となる2万5970円82銭で取引を終えた。
写真=EPA/時事通信フォト
2022年2月24日、東京でマーケットボードの前を歩く人。日経平均株価は478.79ポイント(1.81%)下落し、2020年11月以来の安値となる2万5970円82銭で取引を終えた。

各国が協調してロシアに経済制裁を発動

2月24日、ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始しました。多くの市民に犠牲が出ているようで、実に悲しい事態となっています。誰もが一日も早い戦争の終結を望んでいますが、先行きについてはまだ非常に不透明です。

一方、ロシア軍の侵攻に対して、欧米諸国はウクライナへの武器や資金の援助はするものの、直接軍事介入はしない模様です。これは大々的な武力衝突となることで両陣営に破滅的な影響が生じないようにするということでしょう。主にロシアに対しては経済制裁を発動すべく、各国が協調してさまざまな措置を講じています。その中でも話題になっているのはSWIFT(国際銀行間金融通信協会)からロシアの銀行を排除するということです。SWIFT自体は通信インフラなので、すぐに打撃を与えるということにはならないでしょうが、言わば兵糧攻めのようなものなので、ジワジワと効いてくることになると思います。

マーケットは当面不安定な状況が続く

一方、アメリカとカナダそしてEUの共同声明では、これとは別にロシア中央銀行への制裁も打ち出されています。具体的にはアメリカの銀行などがロシア中央銀行と取引するのを禁止するという措置です。これはかなり即効性もあり、インパクトは大きいでしょう。何しろロシア中銀は外貨準備として持っているドルを使えなくなるので、ロシア通貨ルーブルの下落に対しても買い支えができなくなってしまうからです。

ただ、一方では対ロシアの経済制裁とはいえ、国際的な貿易と金融は常に片方だけに不利益が生じるとは限りません。制裁を通じてロシアに大きな打撃を与える半面、ロシアとの貿易相手国にも不利益は生じますし、通貨市場の混乱は先進国にとっても不安要素となります。何より石油をはじめとする資源価格の高騰は悪質なインフレを招く恐れもあるため、世界経済にとって大きな不安材料であることは間違いないでしょう。したがって、当面マーケットは不安定な動きが続くことが考えられます。そんな状況の中で投資をやっている人はこの事態にどう対処すればいいのでしょう。

アメリカの利上げがどうなるかの方が、インパクトが大きい

結論から言えば、“何もしない”方が良いのです。特に資産形成を目的として長期投資のスタンスで考えている人は“何もしない”というのが一番正解だろうと思います。それは一体どうしてなのかについてお話します。

株式市場の長い歴史を振り返ってみると、過去にも今回のような戦争は何度もありました。時には先行きの不安感から大きく下げたこともあります。しかしながら仮に下落してもその後は比較的短い期間で回復しているケースも多いのです。株価というのは戦争という現象自体ではなく、それが起きた時の経済状況の良しあしの方が大きな影響を与えます。したがって、今回もウクライナ侵攻よりもむしろ3月15~16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)でアメリカの利上げがどうなるかの方が市場に与えるインパクトは大きいと思います。

「連れ安」した業績好調銘柄が狙い目

ただ、前述したように今回の場合は世界的に物価が上昇気味であるところへ、戦争が起こると原油や天然ガスをはじめとした資源価格に大きな影響を与えることが懸念されますから、今後のウクライナ情勢次第では、一時的な下落幅が想定以上に大きいかもしれません。

それでも必要以上に気にしすぎることはないと思います。むしろ業績が好調であるにもかかわらず、市場の下落に連れて株価が下がった個別企業は買うチャンスと考えても良いでしょう。もちろん買った後にさらに下がることはあり得るでしょうが、底値で買うということはなかなか難しいので、業績は悪くないにもかかわらず、市場の下落に連れ安した銘柄であれば、それは買っても良いと思います。

それでもなかなか買う決断ができないというのなら、別に買わなくてもかまいません。機関投資家と違って個人投資家の場合はどんな場合でも投資をしなければならないということはありません。今回買わなくてもまた次のチャンスに備えればいいだけです。

スマートフォンで株価チャートを確認する男性の手元
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです

個人投資家が絶対やってはいけないこと

むしろ個人投資家がやってはいけないのは、大きく下がった時に売ってしまうことです。

特に最近ではiDeCoやつみたてNISA等の制度を使って少しずつ長期に積立投資をしている投資家が増えてきています。彼らの多くはリーマンショック以降に投資を始めた人なので、このような下落局面に直面すると不安な気持ちになります。実際、リーマンショック時にも下落に恐れをなして売却し、そのまま預金で放置してしまった人もたくさんいます。

また、最近では一昨年、新型コロナウィルスの感染拡大によって短期間に3割以上下落したことで、慌てて売った人も多かったようです。人は誰でも行動経済学でいう「損失回避」の心理が強いので、そういう行動を取りがちですが、そこで売ってしまったことで、その後の戻り局面で利益を得ることができず、以後ずっと損失を取り戻せないまま、投資から去って行った人も多いのです。したがって、長期で積み立てをしている投資家にとっては、たとえ下落した局面があってもやめずに続けることが大事なのです。

市場は着実に拡大・上昇を続ける

なぜなら、戦争以外でも過去に幾多の暴落はありましたが、長期的な視点で見れば、それを乗り越えて市場は着実に拡大・上昇を続けているからです。これは資本主義の本質が自己増殖するシステムであるからに他なりません。

「資本主義が自己増殖する」というのは一体どういうことかを簡単に言うと、企業が事業活動で得た利益を金利や配当を支払った後に、新たな事業に再投資し、資本が拡大していくことを指します。これはまさに、投資における複利の考え方と同じです。

こうやって事業は拡大していきます。これが「資本主義が本質的には自己増殖するシステム」という意味なのです。したがって、利益を求める人類の経済活動が続く限り、市場は成長し、投資を続けていけば報われることになるのです。

買い増しが無理なら「何もしない」が最良の策

積立投資というのはこのメカニズムの恩恵を長期にわたって取りに行くことであり、暴落したからといってそれをやめてしまうということでは、その恩恵を受けることができなくなってしまいます。なぜなら一定金額で購入を続けていくことによって、下落した局面では自動的に数量を多く買うことができるにもかかわらず、やめてしまうことでそのメリットを受けられなくなってしまうからです。したがって株式であれ、投資信託であれ、下がったところで買い増しをするというのが無理なら「何もしない」というのが最良の策になるといって良いでしょう。

ただし、「何もしないのが良い」と言いましたが、これは資産形成を目的として長期投資をしている人の話です。短期で売買して利ざやを稼ごうという人は情報を判断して機敏に動く、あるいは当面リスクオフになりそうなら、いったん全部売却して次の上昇トレンドを待つということもありかもしれません。ただ、これは非常に難しいことで、いくら考えても推理しても当たるかどうかは全くわかりません。

「ひらめき」と「勘」、そして「運」に頼るしかありませんから、それでもやろうという人はどうぞお好きになさってくださいということです。もちろん運良くうまく立ち回ることができれば大きな利益を得ることもできるでしょうが、失敗すると大きな損失が生じることにもなりかねませんので注意が必要です。やはりわれわれ普通の投資家にとっては「何もしない」というのが最善の策と言えるでしょう。