2022年10月、厚生年金の適用拡大が行われる。夫が会社員でパートで働く女性は、第3号被保険者のままでいたほうがいいのか、それとも稼ぎを増やして厚生年金に加入したほうがトクなのか。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「自身の収入から年金保険料が天引きされるため、『手取りが減るのは嫌』と思うかもしれませんが、厚生年金のほうが有利です。その理由は4つあります」という――。
日本の公的年金制度
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厚生年金に加入できる人が増える

2022年10月に行われるのが、厚生年金の適用拡大です。

会社員は第2号被保険者として厚生年金に加入しており、将来は国民年金に厚生年金を上乗せした年金が受け取れます。しかし自営業の人やフリーランスの人は第1号被保険者として国民年金のみに加入しており、将来受け取れる年金も少なくなります。満額でも、年金額は約77万7800円(2022年度価格。月額約6万4816円)です。

夫が会社員の専業主婦は第3号被保険者で、保険料を負担することなく、将来、国民年金が受け取れます。ただし、パートなどで働く場合は、働き方などによって年金も変化し、収入が一定未満であれば第3号被保険者のままですが、一定の条件を満たせば厚生年金の対象になります。

現在は、①1週間の労働時間が20時間以上、②月額賃金8万8000円以上(年収換算106万円以上)、③勤務期間1年以上見込み、④学生以外、⑤従業員501人以上の企業等、という5つの要件を満たすと、厚生年金に加入することになります。

また500人以下の企業であっても、①~④を満たす場合には、労使の合意があれば厚生年金への加入が適用(国や地方公共団体では①~④を満たせば適用)となっています。

これが2022年10月からは以下のようになり、厚生年金に加入する人が拡大されます。

①1週間に20時間以上、同じ会社で働いている
②月額賃金が8万8000円以上(年収換算106万円以上)
③2カ月以上雇用の見込みがある
④学生ではない
⑤勤め先が従業員数101人以上の会社(2024年10月からは従業員数51人以上の会社)

年収120万円、20年加入で年金は1万円増える

会社員の夫がいる専業主婦なら年金保険料を払う必要がありませんが、厚生年金に加入すると、自身の収入から年金保険料が天引きされます。「手取りが減るのは嫌」と思うかもしれませんが、将来受け取る年金が増えるのは大きなメリットです。

例えば会社員の夫がいて、自身はパートとして働くAさんの年金について試算すると、図表1のようになります。

パートで働くAさんの年金シミュレーション

もしものときの保障も充実

私が厚生年金加入を有利と考える理由は4つあります。

まず1つは、公的年金は一生涯受け取ることができる終身型であり、受け取れる年金額を増やすことは老後資金づくりにおいて、とても重要だからです。長生きするほど、支払った保険料に比して受け取れる年金額の合計が多くなります。

2つ目の理由は、前述の保険料は自身が負担する分で、企業もそれと同じ額を負担してくれることです。必要な保険料の半分での負担で、将来の年金を増やすことができるのです。

安心感が増すのは老後だけではなく、老後を迎える前にも、多くの保障が得られる、というのが3つ目の理由です。

公的年金には、重い障害を負った場合には「障害年金」、死亡した場合は遺族に給付される「遺族年金」があります。いずれも、厚生年金に加入している人の方が保障は手厚く、給付額が多くなるのです。

年金手帳を両手で持つ女性
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厚生年金加入なら、健康保険にも加入

4つ目の理由は、厚生年金に加入すると、健康保険にも加入することになるからです。

健康保険に加入すると、病気やケガで働けなくなった場合、最長1年6カ月間、給与の一部が支給される「傷病手当金」の給付が受けられます。給与の3分の2に相当する額ですが、非課税のため、実質的には給与の7割程度とみていいでしょう。

傷病手当金
◇年収120万円の人が180日間休業した場合/39万9600円
◇年収150万円の人が180日間休業した場合/50万400円

保険料がかかって手取りが減るのは嫌、と思うより、勤務時間を増やすなど、保険料が天引きされても今より手取りが減らないくらい働く。老後資金を考えれば、それが理想的といえるでしょう。

なお、この改正によって厚生年金適用になることが予想されるのは、会社員などの妻である第3号被保険者が約27%、自営業者やその妻などの第1号被保険者が約45%、60歳以上などの国民年金非加入が約28%です(厚生労働省資料による)。第1号被保険者(自営業者の妻やフリーランスなど)の場合は国民年金保険料を払いますが、月収18万円までなら、国民年金よりも厚生年金に加入する方が保険料は安くなります。

企業型DCは70歳まで、iDeCoは65歳まで加入可能に

公的年金に上乗せする年金制度に、企業型DC(企業型確定拠出年金)や、iDeCo(個人型確定拠出年金)があります。企業型DCは勤務先に制度がある人、iDeCoは原則、すべての人が加入できる制度で、一定の額を拠出して自身が選んだ投資信託などで運用し、将来、年金や一時金として受け取ります。

これまで、企業型DCに加入できるのは65歳未満まででしたが、これが70歳未満に、iDeCoは60歳未満から65歳未満に、それぞれ5年、拡大されます。加入期間、すなわち、積み立てられる期間が長くなれば、それだけ元本が多くなり、将来の受取額を増やすことが可能となります。

ただし、60歳以降にiDeCoに加入できるのは、おもに、60歳以降も会社員(第2号被保険者)として働く人。あるいは、過去に国民年金に加入していなかった時期があるなど、国民年金の加入期間が40年に満たず、60歳以降に任意加入する間だけです(40年間加入済みの人は不可)。

iDeCoの受け取り開始期間が75歳まで選択可能

iDeCoは60歳~70歳の間に受け取りを開始する必要がありますが、2022年4月以降は受取開始時期を75歳まで延ばすことができるようになります。iDeCoには、掛け金を運用することで得た利益が非課税になるメリットがあります。受取期間を先延ばしすれば、より長い期間、非課税で運用できることになります(ただし掛け金の拠出はできない)。

また企業型DCに加入する会社員がiDeCoに加入するには労使合意などが条件となっており、実際には加入が困難なケースがあります。2022年10月からはそうした条件が撤廃され、企業型DC加入者も本人の意思でiDeCoに加入できるようになります。

iDeCoは掛け金が全額所得から控除され、所得税や住民税が軽減される節税効果を得ながら老後資金の準備ができます。制度改正を受けて、ぜひ検討してみましょう。

65歳以上、2カ所以上で働く人も雇用保険に入れる

65歳まで働くのは当たり前、もっと長く働こうと考える人も増えています。働き方も多様になると考えられ、複数の職場を掛け持ちする人もいるでしょう。そんな人に嬉しいのが、2022年1月にスタートした「雇用保険マルチジョブホルダー制度」です。

従来の雇用保険制度では、主たる事業所での1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みなどがあった場合に適用されます。対してマルチジョブホルダー制度では、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、一定の要件を満たす場合、本人からハローワークに申出を行うことで、雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができます。

条件は、以下のとおりです。

◇複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者
◇2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上
◇2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上

失業時には給付が受けられる

マルチ高年齢被保険者になった場合、失業した際、一定の要件を満たせば、「高年齢求職者給付金」を一時金で受給できます(離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あることなどが要件)。

給付額は、原則として、離職前の賃金日額の5~8割程度となる「基本手当日額」の30日分または50日分です。

2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも給付金を受給できます(2つの事業所以外でも就労をしている場合など、例外あり)。1つの事業所のみを離職した場合は、離職していない事業所の賃金は含めません。

そのほか、資格取得やスキルアップのための受講費用などの一部が給付される「教育訓練給付」なども対象になります。

厚生年金の適用拡大、企業型DCやiDeCoの加入年齢や受け取り開始時期の拡大は年金額を増やすための改正、マルチジョブホルダーは長く働く人を支援するための改正、といえます。年金を増やす必要があるし、長く働いた方がいい、という国からのメッセージでもあるでしょう。