副業、不動産を売却…確定申告をしないといけない会社員
年が明けて、まもなく確定申告のシーズンがやってきますが、多くの会社勤めの人にとっては、あまり縁がないと思って興味を持っている人は少ないと思います。なぜなら会社員の場合、毎年の税金の過不足は「年末調整」で会社が処理してくれますし、その場合もほとんどは税金が還付となり、金額の大小はともかく戻ってくることが多いので、ほとんどの人はそれで一件落着と感じているからです。
ところが会社勤めでも①確定申告をしなければならない、あるいは②確定申告をしないと損をする、という場合があります。①の確定申告をしなければならない人は給与が2000万円以上の人や副業による給料以外の収入が20万円以上あった人、さらには複数のところから給与をもらったり、不動産を売却したりなどというケースです。最近では副業をやる人は増えてきているでしょうが、このような①確定申告をしなければならない人の数はそれほど多くないと思います。
意外と多い「確定申告をしないと損をする」会社員
ところが「②確定申告をしないと損をする人」は案外多いのです。この中で比較的よく知られているのは医療費控除や住宅ローン控除です。病気やけがなどによってかかった前年の医療費が10万円を超えた場合は、医療費控除を受けられる可能性がありますし、住宅ローンを組んで家を購入した人は、一定の基準を満たせば住宅借入金特別控除によって税負担を軽減することができるのです。実際に皆さんのまわりにもこの「医療費控除」や「住宅ローン控除」を受けている人はいるでしょうし、この時期になるといろいろなメディアで取り上げられることも多いので、自分がそれに該当するのではないかと気付く人も多いでしょう。
また、これはそれほど多くはないでしょうが、配偶者と離婚・死別した人も寡婦、ひとり親控除を受けられる場合がありますし、台風や火災などで被害を受けた方なども申告をすることで控除が受けられる場合もあります。いずれの場合も該当すると思われる方は、住居地の税務署へ聞いてみられたら良いと思います。
今回は、そんな中から、あまりよく知られていないか、あるいは忘れがちになってしまっているけれど、意外に大切な3つの項目について考えてみたいと思います。
医薬品のレシートはとっておくこと
まずは、「セルフメディケーション税制」です。この制度は、医者の処方箋がなくても薬局などで購入できる医薬品(OTC医薬品)の購入金額が一定額を超えた場合、一定の条件を満たせば医療費控除の特例として所得控除を受けることができる制度です。
ここで言う『一定の条件』とは、①会社の健康診断や人間ドックなどを受診していた場合、そして②対象となる医薬品を1年間で1万2000円以上購入した場合です(世帯で合算可能)。
この制度の目的は、厚生労働省のホームページによれば、「健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるものです」とあります。
したがって日頃から定期的に自分で検診を受けている人は、一定の予防への取り組みを行っているとみなされ、自身で市販の医薬品を利用した人に対しては、この税制が適用されるということになるわけです。対象となる医薬品は風邪薬や胃腸薬といった日常的に使用するものが多いので、お薬を購入するときにはチェックすると同時にレシートも保管しておくほうが良いと思います。
月4000円の医薬品を購入すると1万800円減税
では、具体的にどれぐらい税金が得になるのでしょう。仮に月平均して4000円ぐらいの医薬品を購入したとすると、1年間では4万8000円です。所得税率20%で住民税率10%の人の場合だと、
・翌年の住民税の負担軽減分=(48000円-12000円)×住民税率10%=3600円
ですので、合計すると1万800円が減税されることになります。このセルフメディケーション税制は2017年1月から5年間の特例として始まったものですが、2022年1月から5年間延長されることになりましたので、今後も積極的に利用すべきでしょう。
複数の証券会社に口座を持っている場合
次に、分野は全く異なりますが株式取引にかかわる損益通算です。株式取引において利益が生じた場合、原則は「申告分離課税」で、売買益に対して年率20.315%の税金がかかります。これは他の所得とは合算せず、確定申告をして税金を払うことになっていますが、証券会社に「特定口座」を開設することで、上記の税率が源泉徴収され、自分で確定申告をしなくてもよくなります。これは納税に関する投資家の負担を軽減するためにできた制度で、非常に便利なため多くの人が利用しています。
ところが複数の証券会社で口座を開いて取引している人の場合、確定申告をしたほうが良い場合が出てきます。それは損失が生じた場合です。例えばAという証券会社での年間の売買益が50万円あり、もう1つのBという証券会社では損失が30万円あったとします。
この場合、A証券会社で源泉徴収される税額は50万円×20.315%ですから約10万円で、B証券会社では損失ですので税金はゼロです。ところがAとBを合算すれば利益は20万円に減りますので、税額も4万円ほどになり、かなり金額は少なくなります。ただし、この場合は証券会社が異なりますので通算するためには自分で確定申告をしなければなりません。もしこれを忘れてしまうと払わなくてもいい税金を払うことになりますので注意が必要です。
繰越控除にも確定申告が必要
またその年の利益よりも損失の方が多かった場合は、その分を向こう3年間はそれぞれの年の利益と相殺できる「繰越控除」という制度もあります。この場合も毎年確定申告が必要となります。言うまでもないですが、損益通算は通常の口座の場合です。NISAの場合は利益も損失も考慮しませんので、損益通算はできません。今年は年初からマーケットが下落基調に入っているため、損失が発生する場合も少なからずあるかもしれません。これは忘れないようにしておきたいですね。
年末調整でiDeCoの手続きが間に合わなかった場合
最後にiDeCoの確定申告についてです。以前にもこのコラムで年末調整の際に「小規模企業共済等掛金控除証明書」を提出するのを忘れないようにと書きました。ところが、この種類が送られてくるのは10月ごろです。仮に昨年の後半、10月以降にiDeCoに加入し、12月中に掛金の引き落としがあった人にはこの書類が送られてくるのは1月に入って以降になりますので、年末調整では間に合わず、確定申告をしなければなりません。
また、書類は10月に送られてきたものの、年末調整の際に提出を忘れた人も同じです。もし確定申告をしなければ、その分の掛金が所得控除の対象となりませんので税の恩典を受けられなくなってしまいます。払込みの回数が昨年末の1~2カ月ぐらいなら金額もそれほど大きくはありませんが、前回のコラムで書いたように仮に年収500万円の人で毎月2万円ずつ積み立てた人であれば1年分の累計24万円が全て所得控除されますので、税金分で得になるのは約4万8000円になります。
このように税というのは知っているか知らないかで案外大きな差になってきます。確定申告なんて自分には縁がないとか、面倒だと思い込んでしまうのではなく、一度チェックをしてみた方がいいのではないでしょうか。