高収入の人が必ずしも資産家ではない
資産形成やお金を増やすための方法として、多くの人は収入を上げることだけを一生懸命考えようとする傾向があります。確かに収入が増えることはとても喜ばしいことですが、実はそれ以上に重要なのは支出を見直して無駄をなくすことです。
今から20年ぐらい前にアメリカで出版された『となりの億万長者』という本に非常に印象的な言葉が載っています。それは「高収入の人が必ずしも資産家ではない」ということです。確かにいくら収入が多くてもそれ以上に支出が多ければお金は残りませんから、収入を増やすこと以上に支出をコントロールすることが重要なのは当然です。
節約ではなく“無駄な支出”をなくそう
ただ、支出をコントロールするというと、すぐに「節約」という発想が出てきますが、私は必ずしも節約をすることが良いとは思いません。なぜなら節約というのは自分の好きなことをしたり、欲しいものを買ったりすることも我慢するということになるからです。人生は楽しむためにあるのですから、やたら節約して自分のやりたいことを我慢するというのはストレスがたまります。したがって節約ではなく、“無駄な支出”を無くすことの方が大事なのです。
無駄な支出とは何か? 例えば入会した当時はよく行っていたけど今はさっぱり行かなくなったフィットネスクラブに会費を延々と払い続けていませんか? あるいは自分が独身で養うべき家族がいないのに生命保険に入っていたり、会社の健保組合で付加給付があるのに医療保険に入っていたりとか。さらにはサブスクリプションでのサービスを申し込んだもののあまり使っていなくて、定額料金だけは引き落とされているとか。そういった自分で気づいていない固定費というのは結構あるものです。
1億円貯めた人は誰も「節約をしていない」という事実
私は今、新しい本を書いています。内容は主にサラリーマンで1億円以上の資産をこしらえた人の思考や行動習慣を取材し、論考している本です。実際に私が取材した人たちは誰もが50代までに1億円以上の資産をつくった人たちで、そのやり方はさまざまですが共通することは、誰も「節約をしていない」ということです。彼らは自分のやりたいことにはお金を惜しみませんが、必要ないことについては1円たりともお金を払いません。何が自分にとって必要で何が無駄なのかということをしっかりと見極めているのです。つまり「なんとなく消費」や自分にとってそれほど意味のない支出は厳しくチェックし、自分の好きなことにはお金を惜しまないというスタンスを貫いているのです。
ところが、そういった無駄な支出というのは無意識のうちに行われているため、自分ではなかなか気づかないものです。だから今までずるずると続けているわけです。そこでそういう無駄な支出を無くすにはどうすればいいのでしょうか。
家計簿をつけている家庭は1割
一番良い方法は家計簿を付けることです。それによって支出の中身が“見える化”されるからです。家計簿をつけるというのは「記録する」ということでもあります。ダイエットでも毎日体重を記録し続けることで成功するという例があるように、記録をつけることには一定の効果があることは間違いありません。
私自身、定年後の生活の不安を無くすために定年の2年前から自分で家計簿をつけるようにしました。当時は今のような家計簿アプリはなかったので毎日、外でお金を使うともらったレシートは捨てずにすべてポケットに入れ、夜帰宅したらそれを全部出してエクセルに入力する、という言わば力仕事をしていたのです。でもそのおかげで支出の内容が“見える化”され、そのことで安心して会社を退職して起業することができました。
ただ、実際に家計簿をつけるというのはかなりハードルが高いものです。現代では、家計簿をつけている家庭は1割ぐらいしかないと言われています。そこで、簡単にできるようなノウハウや続けられる家計簿のつけ方みたいな記事もいたるところで出ています。そういうものを参考にしてもいいのですが、私は家計簿アプリを使うのが最も簡単で有効なのではないかと思います。私自身も今は家計簿アプリを使って収支のチェックおよび資産管理をしています。
家計簿アプリのメリット3点
家計簿アプリの良いところはいろいろありますが、私は次の3点だと思います。
(2)項目の自動分類
(3)結果の一覧性
家計簿アプリを使っている人はわかると思いますが、決済手段と連携されるのはとても便利です。銀行口座をはじめ、クレジットカード、電子マネー、そしてQRコード決済などの各種キャッシュレス決済のほとんどがアカウントアグリゲーションで集約されますから、何もしなくても自動的に記載されます。これなら現金の管理だけすればいいのです。しかも最近はキャッシュレスが進んでいることで私自身もほとんど現金を使うことがなくなりました。それに現金でもレシートを撮影するというひと手間さえかければ自動で入力されますから、それほど面倒というわけではありません。これはとても便利です。
コンビニでの無駄づかいがズラーっと表示される
ふたつめは項目が自動的に分類されることです。これによって自分の支出の傾向が見えてきますから、どこに無駄があるのかがわかりやすくなります。さらに効果が高いのが(3)の「結果の一覧性」です。実際に使った内容が一覧となって出てくるので、例えば毎日会社の帰りにコンビニによってペットボトルのお茶とかスイーツを買っていると、それが毎日ズラーっと出てくるわけです。これは結構インパクトがあります。“毎日、何となく使っていた件数がこんなに多かったのか!”、ということが一目瞭然となるからです。
先日、テレビに出演した際、番組の取材で、ある企業に勤めるサラリーマンの人が家計簿アプリを使い始めて、支出が毎月2万~3万円減ったと話していました。この理由は「結果の一覧性」によって毎日、100円とか150円というコンビニでの支出が延々と続くことが可視化できたためで、その結果ついコンビニに立ち寄るという習慣をやめたことで支出が減ったからだそうです。もちろんコンビニでの買い物だけではなく、それ以外にも気づいていなかった無駄な支出があったことは言うまでもないでしょう。
月3万円の無駄づかいを積立投資に回せば985万円に
仮にそうやって減った3万円を例えばつみたてNISAのような積立投資に回すと年3%で運用できた場合、10年間で約420万円、利用できる期間である20年間積み立てを続けると約985万円になります。40歳で始めても定年の60歳時点では1000万円近い金額ですから、家計簿アプリで無駄なコンビニでの買い物をやめることで、ちょっとした退職金ぐらいの金額になってしまうのです。
入ってくる収入が決まっている会社勤めのビジネスパーソンにとっては、支出を可視化して適正化することこそが重要なのではないでしょうか。