企業の正社員として第一線で働きながら、複業にも真剣に取り組む女性たちが増えています。彼女たちはどんな経緯で複業にチャレンジしたのか。本業との両立や、収入は? それぞれのストーリーを聞いてみました。

自己実現のために“複業”。法人化して事業拡大へ

サントリーホールディングスで茶葉調達の業務を通じたお茶農家との交流をきっかけに、2019年に複業で「一坪茶園」を個人事業主として立ち上げたのが、脇奈津子さんだ。

脇 奈津子さん●つくる人と飲む人の思いをつなぎ日本茶の未来を創りたい
脇 奈津子さん「つくる人と飲む人の思いをつなぎ日本茶の未来を創りたい」

「私のやっているのは複数の働き方をする“複業”。お茶を飲むだけでなく、つくったり、売ったり、産地を訪れたり……。いろいろなお茶の楽しみ方をサービスとして提案し、それをお茶農家にも還元していきたい」と脇さん。

商品のオンライン販売はもちろん、スノーピークやザ・リッツ・カールトンホテルなど大手企業と手を組み、海外を中心に展開すべく事業拡大、21年7月には法人化を果たした。

脇さんは、サントリーの複業社員1号である。「当時、会社には明確なルールがありませんでした。自分がどうして複業をしたいのか、なぜ自分がやらないといけないのかをリポートにして人事部に提出し、人事部から『がんばってください』と認めてもらいました。今では正式に、社員の複業が認められています」

現在、本業のサントリーでは、新規事業開発に従事。複業で培った人脈が本業に活かせるなど、Win−Winの状況が生まれている。

「一坪茶園は自己実現のためにスタートしたもの。お金のために始めたわけではないし、実際、今の複業の収入は経費が利益を上回っているのが実態です。とはいえ、もちろん一坪茶園の活動への評価として、しっかり対価も追求していきたいと思っています」

今は完全リモートワークで、時間の使い方の効率も飛躍的にアップ。

「就業時間はサントリー、それ以外の時間で一坪茶園のメンバーとオンラインで打ち合わせしたり、取引先と会議をしたり。今は本業も複業も充実していて全力投球ですが、3年後、5年後は、また違う働き方が見えてくるような気がしています」

脇 奈津子(わき・なつこ)
【本業】サントリーホールディングス 未来事業開発部
【複業】一坪茶園 代表
1978年生まれ。サントリーホールディングスに新卒で入社し、営業でトップセールスを記録。茶葉調達、マーケティングなどを経て、新ビジネスモデル創造業務に従事。2019年、一坪茶園を立ち上げ、21年7月に法人化。

将来もずっと働き続けるために自分の価値を高める

2012年から副業を解禁したサイボウズ。現在40代の丸茂久美子さんは社外のデータ分析勉強会の人脈が縁で、データ活用のコンサルティングや分析を行う会社で19年から複業をスタートした。

丸茂久美子さん 「データ分析」という仕事で人を幸せにしていきたい
丸茂久美子さん「『データ分析』という仕事で人を幸せにしていきたい」

「昼休みなどの空き時間や有給休暇を使って複業をしています。本業も複業もデータ分析に関する仕事ですが、求められる役割は違います。複業で他企業の課題や視点を深く知ることで、経験値を相互に還元できるのがメリットです。複業は自分にとって、キャリアの幅を広げる大きな学びになっています」

サイボウズの収入は社員のグレードによって上限があるが、複業であれば、自分のやり方次第でいくらでも収入増につなげられる。

「お金になる複業はほかにもありますが、目先の現金よりも、長期的なキャリアのための複業ですね。50代、60代になっても稼げる自分でいるために、経験値を増やして可能性を広げ、データ分析で人を幸せにしたいですね。データからわかる事実は人の判断を助け、人がやりたいことを支援してくれます」

複業で得た収入は次のキャリアへの投資や長期運用に回すことで、将来の糧にしているという。

丸茂久美子(まるも・くみこ)
【本業】サイボウズ 経営企画室アシスタントマネージャー
【複業】DATUM STUDIO 技術顧問
2005年、サイボウズ入社。営業部、マーケティング部を経て、現職。データアナリストとして、顧客分析や新サービスの技術開発に従事。19年より複業でDATUM STUDIOの技術顧問に。
 

自分の興味ある分野で定年後も稼ぐ道を模索

コロナ禍以前の新井智子さんは、ほぼ毎日残業という仕事中心の生活。コロナ禍で仕事は完全リモートワークとなり、あらためてこれからの人生を考えるようになったという。

新井智子さん 日本の文化や生活を守るべく、リモートで地方創世に貢献する
新井智子さん「日本の文化や生活を守るべく、リモートで地方創世に貢献する」

「以前から、新しいことをやってみたい、地方創生に協力したいという思いがありました。リモートワークで今までの働き方を見直し、住まいも都心から東京郊外へ転居。売り上げ至上主義ではなく、人々の生活を守り、農業や日本の文化を守ることに貢献できないか、と。転職も考えましたが、収入が大幅ダウンするのがネックでした。それなら、本業の収入をキープしたまま、複業で何かやってみようと考えたんです」

そこでオンラインで地方企業の副業・兼業に特化した人材シェアリングサービスのJOINSに登録しマッチング。2社で複業をしている。

「まだ複業を始めたばかりですが、月に10〜15時間ほどを費やしています。複業の実績を増やすことで、定年後もやりがいと収入を確保できるようになれるのが理想。将来は、東京に拠点を置きながらも、地方と行き来できるような生活ができたらいいかなと思っています」

新井智子(あらい・さとこ)
【本業】外資系メーカー 商品企画部門管理職
【複業】飲食店(島根) メニュー企画・市場調査 農園経営(静岡) 市場調査
1972年生まれ。食品会社を経て、外資系メーカー入社。現在、管理職として営業統括とマーケティングを担当。完全リモート化をきっかけに、2021年3月より複業で地方中小企業のマーケティングを担当。