アフガン難民にパキスタンやイランは大迷惑
アメリカ軍がアフガニスタンから撤退したことで今、周辺にはとんでもない数の難民があふれています。たとえばパキスタンに流れている難民の数は、約150万人。神戸市や川崎市と同じ人数です。そしてイランには、高知県や山梨県の人口と同じ約80万人が流入しています。
さらにイランの先にあるトルコは、難民が必ず行きたがるヨーロッパへのゲートウエイですが、ここはすでに2015年ごろから発生しているシリア難民400万人を受け入れています。400万人というとなんと横浜市と同じぐらいです。
こうした難民問題に対して、各国の対応はさまざまです。EUは、とりあえず「人道的に受け入れなくてはいけない」と言いつつ、具体的にどうするかというと「まずは周辺国でなんとかおさめていただく」という。
周辺国というと、先述したパキスタンやイラン。これらの国は、実は「絶対に入れない」と言っていますが、現実的には入ってきてしまうので、受け入れざるを得ない。
イギリスやカナダは、表向きには「受け入れますよ」と言っていますが、イギリスは本音ではまったく入れたくない。カナダも入って来ては困ると思っているけれども、多民族主義だからと、ある程度は受け入れる方向が予想されます。
アメリカは当然、自分たちが関与していたので、協力してくれた家族などは受け入れようとするでしょう。しかしトランプ政権時代から増えてきた、本音トークをする共和党の支持者から「イスラム系はイヤだ」という声が出てくる可能性もあります。
中国は「安定してほしい」と言いながら、「ウイグルのほうに強制収容所があるからな」とにおわせることで、ひとつの抑止力になっています。
とにかくアフガニスタンの難民問題は、これからさらにフォーカスされていくでしょうね。現状は、周辺国がとんでもない負担を背負っているわけです。
各国が難民受け入れに難色を示す原因とは
こうした各国の動きからもわかるように、どこの国も基本的には難民を受け入れたくない。なぜかというと、生活習慣の違う難民が増えると、治安の問題もありますし、差別問題が移民元からそのまま移植される危険性もあるからです。
たとえば、ドイツでは「ユダヤ人差別はしない」ことが法律で決められているにも関わらず、ドイツに入ってきたイスラム系の人たちが、大っぴらにユダヤ批判をすることが現実的にあります。
そういった移民元から起こる社会問題は負の一面ではありますが、一方で難民がその国の経済を下支えしているという面もあり、結果的にそう悪いものではないというのが、今のところの研究者たちの一様の見解です。
国よりも麻薬王の持っている軍隊のほうが強い
難民問題は中東やヨーロッパだけではありません。中南米の国の人たちも続々とアメリカをめざしています。
2016年にトランプ大統領が当選した、ひとつのきっかけが、このアメリカの南の国境から流れてくる大量の難民でした。アメリカ人たちは、アメリカに地続きで入ってくるこの移民たちに、仕事は奪われるし、麻薬の問題は持ち込まれるし、で難民に対する恐怖というのが実態としてあったのです。
もちろん難民が労働力として入ってくるのはいい。でも、それに見合うだけの税金が取れるのか、社会的な保障やサービスを提供できるのか、そう考えると、なかなか大きな問題です。これがアメリカにとって大きな負担になっていることは間違いありません。
難民が発生するいちばんの原因は、やはり紛争や貧困で国が不安定化していることですね。そもそもそういう国は、国の制度が壊れているというか、国が国としての体を成していない。国よりも麻薬王の持っている軍隊のほうが大きくて、それって国としてどうなのかという国ばかり。そういうところから逃げ出したり、チャンスがあるからと出ていったりするのが難民なのです。
現在、世界の総人口は78億人といわれますが、その中でふつうに食べられない人は約8億人。10分の1の人が飢えているんです。実は世界には、満足に食べられる人がいなくて、政治も機能していない国がある。
そう考えると、日本は奇跡的にうまくやっている国であることがわかります。国を安定させられる国というのはごく一部。そうした国が先進国になるのです。
先進国になる条件は「歴史的背景」と「国民の意識」
では、なぜ先進国は、そんなにうまくできるのでしょうか。その要因は「歴史的背景」と「国民の意識」の二つにあると考えられます。
歴史的に見ると、現在の先進国といわれる国は、かつて帝国主義で国をうまく運営し、お金を稼ぐために、どんどん外に出て植民地をつくっています。国の安定には、やはり経済力という土台がある。
ただ、いくら経済力があっても、その経済をすりつぶす国もあります。たとえばノルウェーのような産油国は「これは公共のものだから」と、国がしっかりファンドなどに入れて運営していますが、アフリカの産油国は一族で富を所有して、やりたい放題になってしまうところも。この違いは何かというと、やはり国民の意識でしょう。国民一人ひとりが「国はひとつのコミュニティ」という意識を持っているのかどうかというのが大きい。つまり一つの「物語」を共有できているかということなのです。
そう考えると、日本は明治のころに国の仕組みを大きく変えて、国としてまとまってきた歴史をある程度持っています。アフガニスタンは、いまだに戦国時代ですから。
われわれ日本人は、そんな日本という国に飽き飽きしている部分もありますが、世界から見ると、これほど南北に広がっている国がひとつにまとまっているというのは、やはり奇跡的なことなのです。
難民問題解決には、強いリーダーの存在が不可欠
難民問題を解決するには、それぞれの国が自立して、うまくやっていくのが理想ですが、現実的にはうまくいかないことのほうが圧倒的に多いでしょう。
たとえば、西洋側が「うまくやってくれ」と介入しようとすると、現地の人たちは「また植民地支配をしようとするのか」と反発します。「じゃあ抜けますよ」といって抜けると、内部抗争を始めて難民がわっと出てくる。そこで「君たち、やめなさい」とまた西洋側が入っていくと「また植民地支配するのか」と……。学級崩壊と同じですね。学級崩壊しているクラスに新しく先生が入ってきても、そもそもその先生が偉いのかとなって、やっぱりまとまらない。
難民問題はなかなか難しいですが、必要なのは、やはり国をがっちりまとめられる強力なリーダーの存在でしょう。
それでいくと意外な成功例が、シンガポールと北朝鮮です。シンガポールは実は報道の自由がなくて、「明るい北朝鮮」といわれている国。ビジネスはオープンにやっていいけれど、政治は絶対に触らせない。シンガポールがうまくいっている要因は、そういった強権的なところですが、それが変な方向にいくと北朝鮮になってしまうということです。アジアでも、こういう実例があるわけです。
極東の国は何となく行きづらい……
日本が幸か不幸か難民問題に悩まされずにすむのは、やはり地理的な影響が大きいでしょう。ヨーロッパにしろ、アメリカにしろ、地続きであれば、どこかの国が受け入れざるを得ませんが、日本は海を渡らなければたどり着けない国ですから。
日本はそのように紛争地から地理的に離れているうえ、紛争地そのものにそれほど関与しているわけではないことも、難民を受け入れずともなんとなく許されている理由になっています。
たとえばイギリスは、インドやパキスタンなどに対しては植民地の歴史がありますから、そういった国の人たちを受け入れざるを得ない。アフガニスタン難民にしても、そもそも日本は関与しているわけではなく、最終的にヨーロッパが受け入れることで、日本は受け入れなくてもいい状況になっているのです。
ただ日本も世界の状況に甘えてばかりいるわけにはいきません。現実に国際社会からは、難民を受け入れる条件が厳しすぎるといった批判もあります。
この夏、日本政府は、東京オリンピックに出場したミャンマーのサッカー選手を政治難民として受け入れましたが、それでも他国に比べると数が圧倒的に少ない。
今後、難民問題は日本にとっても逃れることのできない課題になってくるでしょう。