資産1億円を貯めた普通の会社員は、節約を徹底しています。「そこまでしてお金を貯めて幸せなのか」と考える人も多いでしょう。その疑問にファイナンシャルプランナーの藤川太さんが答えてくれました――。
電卓とお金
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節約生活は幸せなのか

年収が800万円程度のごく普通の会社員でありながら、節約を徹底し資産1億円を達成した女性や夫婦を何度か紹介してきましたが、読者から数多くの反響をいただいています。その中には「ここまで節約してこの人たちは幸せなの?」「何のためにお金を貯めているの?」「お金は使ってこそ価値があるんじゃない?」など、疑問の声もありました。

たしかに私の知っているお金持ちの中には、「コンビニには近寄らない人」や「自動販売機で飲み物を買わない人」など、極端な節約生活をしている人が少なくありません。そんな生活が楽しいのか――。読者のみなさんがそう感じるのは、自然なことだと思います。

我慢しているという意識がない

しかし、彼らにとっては節約の習慣が染み付いていて、当たり前になっているので、我慢をしている意識はありません。それどころか、「自分たちはお金を使いすぎているのではないか」「もっと家計を改善する余地があるのではないか」と思い、家計相談にやってくる人もいるほどです。

家計相談の際に「このまま貯め続けると、こんな額になりますが、何に使うのですか?」と素朴な疑問を投げかけることもあります。しかし、彼らにはお金を使う目的がないのです。いい車を買いたいわけでもなければ、子どもに残したいわけでもありません。

足るを知れば、自然と資産1億円が貯まる

「足るを知る者は富む」という言葉があります。仏教の教えを説いた老子の「道徳教」が由来と言われますが、満足することを知っている人は、たとえ貧しくても心が豊かであることを意味しています。

彼らは、まさに「足るを知る」状態なのです。「いまの状態で十分幸せなのに、これ以上何が必要なのか」と感じているのです。一方で収入が足りないと考えている人は、実際に年収がアップしたとしてもそれに応じて生活の水準を上げてしまうので、常に「お金が足りない」と感じています。どこまでいっても満足できません。

理想の年収は「現在の2倍」が一般的

ある調査によると、「あなたの理想の年収は?」と聞かれて、答える金額は現在の年収の2倍が一般的だといいます(出典:『お金への考え方を変えよう』デビッド・クルーガー著)。年収300万円の人であれば600万円、年収1000万円の人であれば2000万円、年収5000万円の人であれば1億円というのです。

国内では、年収と満足度の関係についての調査結果があります(図表1)。

内閣府の「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書(2019年5月)によると、年収2000万円以上3000万円未満までは年収が上がると満足度も徐々に上がっていきますが、3000万円以上になると満足度が逆に下がっていくようです。結果、年収1億円以上の人の満足度は、年収700万円未満の人とほぼ変わりません。

お金を使って満足をする文化が染みついてしまい、どんなに年収が上がってもさらに上を見て豊かさを感じることができなくなっているのではないでしょうか。それではきりがありません。

「知らないうちに貯金が1億円を超える人」は珍しくない

「足るを知る」節約家は、収入が上がっても、あまり出費を増やしません。収入が上がった分はほとんど貯蓄に回るので、資産の増え方がスピードアップしていきます。ですから、ごく普通の会社員でも「知らない間に1億円を超えていた」人が珍しくないのです。スタートは同じでもマインドの違いによって退職するころには大きな差になっているでしょう。

お得な割引
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先日家計相談に訪れた方は50代男性で資産1億円を突破していました。勤務先で早期退職を募集しているので応募しようと思うが、「これからの生活は大丈夫か」との相談でした。

コロナ禍の業績不振でリストラを実行する企業も増えていますが、50代はそのターゲットになりやすい年代です。応募しないと嫌がらせを受けるケースもあるようです。それでもしがみつく意味があるのか、と疑問を持つ人も少なくないでしょう。

嫌な仕事にしがみつかなくてもよくなる

自分に嘘をつきながら仕事をつづけるのはストレスにつながります。経済的に心配がないのであれば、会社を辞めるのも一つの選択肢になります。そのときにまとまった貯蓄があれば、選択肢が広がります。

相談に来た方は、共働きで妻も会社員を辞めて自分で事業を始めた経験があったため、会社を辞めることに理解がありました。夫婦仲がよく、プライベートは幸せそのもの。教育費は別途貯めているので心配はありません。仕事だけがストレスと言うのです。

そんなとき、年収1000万円でも浪費家でほとんど貯蓄がなければ、会社にしがみつくしかありません。生活が堅実で金融資産が1億円をこえていて割り増し退職金がもらえるとなれば、辞めて、別の仕事をする選択肢が増えるのです。

日本には創業から400年、500年続いている企業が数多くあります。途中にはさまざまな危機があったはずです。それを乗り越えながら存続してこられた理由の一つは、「調子がいいときでも無駄遣いをしなかった」ことです。経済環境や収入のアップダウンに関わらず、同じ生活が続けられることこそ、長く繁栄を続ける秘訣なのです。これは会社も個人も変わりません。

資産1億円でも格安バスツアーが落ち着く

節約家のお金持ちは海外旅行にいくときにはエコノミークラスを使います。国内旅行では格安バスツアーを好んで利用します。豪華なツアーなどに参加すると落ち着つかないのです。彼らにとっては倹約しているほうが心は安定します。だから続けられているのです。

「彼らが幸せかどうか」という問いへの答えは、幸せということになるでしょう。仕事を選ぶ自由があり、倹約していることが心の安定につながっているからです。

もし彼らから学べることがあるとしたら、それは節約を仕組み化することです。通信費などの固定費は一度、プランを見直して料金を下げると、その効果は継続します。一方で食費など変動費を節約しようとすると、常に我慢しなければ出費を減らすことができません。それではストレスが溜まってしまいます。

すでに資産1億円を達成した人も、最初は貯めようと意識していたはずですが、仕組み化ができて習慣化しているので知らない間にどんどん貯まっているのです。目標額や使う目的があるわけではありませんが、お金はあったほうがいいので続けているだけなのです。

意識しているかはどうか別にして、貯め上手な人はストレスがたまりにくい方法を実践しています。その点は真似すべきではないでしょうか。