若い世代の新規証券口座開設が増加
2年前に金融庁所管の金融審議会市場ワーキング・グループがまとめた俗称「年金2000万円問題」報告書が世間をにぎわせて以降、世代を問わず資産形成の必要性への認識は劇的に高まりました。この報告書において「iDeCo」と「つみたてNISA」という投資非課税制度の有効活用が強く勧奨されました。加えて「長期・積立・分散」の投資行動3原則を実践していくことによって資産形成の成果を合理的に獲得でき得ることが示されたことで、金融機関各社も金融行政方針に従うべくこれらの訴求に注力するようになったのです。
そこへ拍車をかけたのが今回のコロナ禍で、将来への社会不安を自覚した若年世代を中心とした現役層のネット証券の新規口座開設が急増。とりわけ「つみたてNISA」では20代の参加者が著しい伸びを見せています。
ここに至って、すぐに値上がりしそうな対象を当てにいって上がったら速やかに売り抜け、一気に儲けるといった発想の「短期・一括・集中」による投機的行為としての「投資」のイメージが、「長期・積立・分散」をベースとした資産形成を成立させるための行動へと、一般認識は適正に変わりつつあることを筆者は実感しています。
「長期で持っていれば大丈夫」という勘違い
しかしながら、まだ長期資産形成においての根本的な誤解も根強く残っています。それは「長期で持っていれば大丈夫」という偏った解釈です。投資信託などを販売している多くの金融機関でも、昨今は壊れたテープレコーダーのごとく「この商品は長期で」と繰り返し説明がなされているため、現状下落している商品でも、とにかく長期で持っていれば期待した結果が得られると思い込んでいる人が少なくないのです。
長期保有していれば何でも一様に報われる、など決してあろうはずがありません。長期投資で合理的な運用成果を得ることへの論拠として最も重要なのは、投資対象が将来において継続的な成長を見いだせるものであることです。ここで重要になるのが「再現性」という点です。投資対象の成長にしたがって長期的に価格が適正水準に向け収れんしていくことは、再現性を想定できます。他方、投資対象の成長がなくても、価格上昇で儲かることがありますが、それは合理的再現性に立脚したとは言えず、たまたまの偶然性と言わざるを得ない。ここに大きな違いがあるわけです。
仮想通貨の積み立てはどうか
さて長期投資を継続させるために有効な行動手段として、少額ずつ定期的な積み立てによって定額で資金投入する手法が前述の報告書でも提唱されて、金融機関も当たり前のように投資信託を積立購入することを勧めるなどで、積立投資は世間に定着し始めています。
積立投資は購入価格を平準化させ、長期保有を促す行動経済学的効能があることが、何よりの有効性と言えましょう。
ところが、今はやりの仮想通貨を対象として積み立てで購入していこうと考える人も出てきているようです。無論高値づかみを抑制する時間分散効果はありますが、仮想通貨をずっと保有していれば価格上昇していくという合理的根拠は、今のところありません。現状ある仮想通貨には実体経済を構築している実物資産の裏付けがなく、価格は短期的のみならず長期的にも買いと売りの総額の差で決まる需給のみで動いています。ビットコインなど、イーロン・マスク氏のコメントだけで乱高下するといった、予測困難なランダムな動きを激しく繰り返すこともあります。これが裏付け資産を持たぬ仮想通貨の特性でもあります。ものによっては、不人気が定着して価格がゼロに向かって下がり続けることさえあり得るでしょう。
奇想天外なことは考えないほうがいい
積立投資が合理的に報われる理由は、対象資産が成長する合理性を前提とする場合のみであり、逆に専ら需給が価格決定要因となる対象資産なら、将来価格が上昇する合理的理由がなく、ゆえに積立投資をしていても偶然性に賭ける投機的行為でしかないのです。仮想通貨だけでなく、たとえば純金などのコモディティも同様で、価格が倍になったとしても地球上のゴールドの量は何ら変わらない。単なる価格の上下にすぎません。純金積み立ても長期的に右肩上がりでの価格上昇期待を合理的に見いだせる対象資産とは言えず、本来的には積立投資に適さないのです。
普通の生活者が長期資産形成を目的とするならば、あまり奇想天外なことは考えずに、株式や債券など新たな富を生み出す一般性資産をポートフォリオに組み入れた投資信託を、毎月コツコツと定額で積み立てていくことが最も合理的で最適な行動手段なのです。政府が普及に向け尽力している「iDeCo」や「つみたてNISA」の制度設計意図も汲み取りながら、将来に向け真面目に取り組んでいきましょう。