児童手当の不公平さ
すでにご存じの人も多いと思いますが、世帯主の年収が1200万円以上の世帯の児童手当を廃止する、改正児童手当関連法が2020年5月21日の参院本会議で賛成多数で可決、成立しました。
その不公平さ、制度のいびつさについては以前もこちらのコラムで書いた通りですが、国会議員ですら「賛成多数」というのに驚きました。
反対した議員より賛成した議員の方が多いというのはマジですか。優秀なはずの官僚は、議員に進言しなかったのでしょうか。
保育料も毎月数万円の差
高所得世帯は子育てうんぬんの前に、すでに「所得税+住民税+社会保険料」を所得に応じて普通の人よりも多く払っています(所得税は累進税率、住民税は一律10.21%、社会保険料は標準報酬月額、つまり月収に連動)。
子育て世帯に重要な保育園料も住民税額に連動しており、0~2歳児の場合、たとえば私が住んでいる自治体では幼児一人あたり最低8500円/月ですが(生活保護・非課税世帯を除く)、高所得世帯では最高7万円/月です。
それだけのものをすでに支払っているわけです。
高校の授業料無償化にも所得制限
なのに子育て関連の補助・助成のほとんどに所得制限がかかっています。
たとえば高校の授業料無償化も所得制限があり、世帯で約910万円の収入がある場合は除外です(なお、世帯収入目安は子の数によって変わり、私立の場合は収入に応じて段階的に支給が減額・停止されます)。
また、子の大学の学費を奨学金で賄おうにも、日本学生支援機構の奨学金受給要件にもやはり所得制限があり、こちらも子の数によって変わるものの、世帯年収750万円以上でほぼ対象外となります。
つまり高所得世帯は奨学金が借りられないわけで、親が期日までに学費全額を用意しなければなりません。もし同時期に進学する子が複数いれば、その経済的負担は相当のものになります。
将来の財源を失うことになる
たとえば低所得で「子どもが1人」の世帯に比べ、高所得だけれども「子どもが3人」の世帯とを比べた場合、後者の方が余裕があるはずだ、などとは言えないでしょう。
一般的には高所得者ほど子の教育には熱心ですが、経済問題で高等教育を断念せざるを得ないとしたら、将来の高所得者候補(つまり財源)を失うことになりかねません。
世帯における「子の数」を考慮しないのは、日本の政府に少子化対策は眼中にないのでしょう。
ちなみに筆者の長男は発達障害なので、療育(児童発達支援施設での通所支援)を受けていましたが、一般世帯の月額負担上限は4600円/月なのに対し、わが家では上限が月3万7200円に跳ね上がります。
さらに、特別児童扶養手当(いわゆる障害者扶養手当)の対象でもありますが、やはり所得制限にひっかかり、もう何年も支給停止されたままです。
高額の税金、保育料を払った揚げ句、無い無い尽くし
つまり高所得世帯は、税金も保育園料も高い金額を払った揚げ句、児童手当ナシ、高校無償化ナシ、奨学金ナシ、障害児支援も負担増なのです。
ダブルパンチ、トリプルパンチどころではなく、クアドラプルパンチ、クインティプルパンチなわけで、いったいどれだけ罰ゲームが続くのか……といった感じです。
もちろん、子育て環境や諸制度は、筆者の親世代の頃とは見違えるほど改善されているとはいえ、この時代においても冒頭の法案が賛成多数で可決するとは、この国の政治家の状況認識能力は大丈夫か、というのが正直な感想です。
ハンガリーのすごい子育て支援
そこでイヤミとして、少子化対策で成果を上げているハンガリーの事例を紹介したいと思います。
子が4人で定年まで所得税ゼロ
4人目の子を産んだ女性は定年まで所得税がかかりません。おそらく「あなたは国にしっかり貢献してくれたので所得税は免除します」というわけなのでしょう。
有給育児休暇
育児休暇は日本では原則、子が1歳になるまですが、ハンガリーは3歳になるまで認められます。その間の育児休業手当は子が生まれる前の給与総額の7割です。
さらに3人以上の子を持つ母親は、最年少の子が8歳に達するまで子育て支援手当が支給されます。大卒以上の女性が出産した場合は、2年間の保育料が給付されます。これなら子育てに関わる経済的な不安は払拭できるでしょう。
結婚奨励金
新婚カップルはどちらか一方が初婚であることを条件に、結婚後2年間、毎月15ユーロ(約2000円)の税額控除を受けられます。さらに妊娠すると、妊娠91日目から給付金が出ます。結婚すれば子を持つ家庭が多いので、まずは結婚を促そうということなのでしょう。
無利子ローン
妻が18歳から40歳までの夫婦は3万ユーロ(約400万円)の無利子ローンを受けられます。
ただし、最初の5年間に1人の子が生まれた場合、無利子のまま返済が3年間猶予されます。2人目の子が生まれると、さらに3年間返済が猶予され、かつ元本の3割が返済不要になります。3人目の子が生まれれば、残りの借金が全額返済不要となります。
マイホーム補助金
3人以上の子がいる家庭が新築の不動産を購入する場合、3万ユーロ(約400万円)が現金支給され、さらに4万5000ユーロ(約600万円)分の住宅ローンの金利が補助されます。中古物件を買う場合は、子4人以上なら最大で7500ユーロ(約100万円)が補助されます。さらに住宅ローンの減額制度もあり、子が3人以上の家庭は1万2000ユーロ(約160万円)が減額されます。
新車購入補助金
3人以上の子がいる家庭が7人乗り以上の新車を購入すると、7500ユーロ(約100万円)の補助金がもらえます。マイホーム補助金も新車購入補助金も、内需拡大にも一役買います。
学費ローン返済減免
学費ローンを借りていた女性が妊娠した場合、妊娠3カ月目から3年間、返済を停止できます(第2子を妊娠した場合も同様)。
第2子を出産後は学費ローン残額の5割が免除され、第3子出産後は残額全額が免除されます。これは高学歴女性の補助を手厚くし、安心して進学できるようにという意味もあるのでしょう。
体外受精無料化
第1子に対して5回まで、第2子以降は4回までの体外受精費用が全額補助され、関連する医薬品も100%保険適用されます。つまり体外受精はほぼ健康保険内で賄えます。
また、国営の不妊治療専門機関が全国に設置されています。
子を産めば産むほど生活が楽になる
他にもいろいろ制度があるようですが、ハンガリーでは子を産めば産むほど生活が楽になり、子の教育にもお金をかけられるという制度を目指しているようです。
そしてその結果、子を希望するハンガリー人は過去10年で2割増加、2020年の婚姻数は前年比6.7%増と43年ぶりの高水準で、離婚数も60年前の水準まで低下。妊娠中絶数も36%減ったそうです。
難民などの移民を拒否して話題になったハンガリーですが、移民に頼らずとも少子化対策・人口減少対策は(ある程度は)できるのだ、ということを示しています。
一方日本では、現在は体外受精には所得制限はなく、保険適用化は菅政権の目玉政策として検討が進んでいるものの、子だくさんだろうとなかろうと、親の所得で子育て関連のほぼすべてが制限されます。
ハンガリーとは「制度設計の思想が根本的に違う」ということに愕然としないでしょうか。