状況的に“バブル”が発生しないわけがない
今回の高級品の値上がりは、去年私たちを苦しめたマスクや消毒薬の価格高騰とは、わけが違いそうです。絵画や別荘、高級時計など並ぶ商品に必需品がなく、いかにもカネ余り時に売れそうなぜいたく品ばかりですから。これらの商品から浮かんでくるイメージは、成金か投機(=短期的な利ザヤ狙いの投資)。そう、どうやらこれは「バブル」のようです。
確かに考えてみると、今はバブルが発生する条件が整っています。バブルは「カネ余り」や「投機に向いた商品」があるときに発生しやすく、実は現在、その両方が揃っているのです。
今の日本には、政府が気前よく振る舞う「コロナ緩和マネー」(特別定額給付金や持続化給付金、飲食店への休業補償金など)があふれる一方、日銀が大量の「ETF(上場投資信託)買い」を行い、不況にあえぐ企業の株価を押し上げ、景気を下支えしています(詳しい説明は省略しますが、ETF買いにはそういう効果があります)。
ということは、カネがダブついた国民の前に、日銀の吊り上げ政策で、まだまだおいしく育ちそうな株式市場が転がっているわけですから、これは確かにバブルになります。
80年代のバブルとコロナバブルの相違点
「なぜみんな貯金じゃなくて株なんだ? コロナ禍で先行き不透明な時代なのに」。そう思われる方もいらっしゃるでしょう。でもこの場合、貯金よりも株に資金が流れるほうが自然です。なぜなら世の中にお金があふれると、お金の価値が下がり、金利も下がります。そうすると、貯金のようにお金のままで財産を持っていると、財産価値が目減りします。それを防ぐには“お金以外のもの”で財産を持とうという心理が働き、その結果、株式や不動産、金、ブランド品、アートなどを買う人が増えて、それらの価値が上がり、そこからバブルに火がついてゆくのです。
ただ、現在の株高の背景に日銀のETF買いがあるとするならば、少し気がかりな点があります。もし、これが日銀主導の官製バブルなら、日銀がETF買いを止めたとたんにはじけてしまうのではないかという懸念です。これはどうなのでしょう。
結論から言うと、恐らくそうはならないと思います。今のバブルは、いつまでとは断言できませんが、もうしばらくは続きそうです。なぜなら現在のコロナバブルは、1980年代のそれとは違い「ワールドワイド」なものだからです。
考えてみれば、いま破格の金融・財政緩和を行っているのは、日本だけではありません。世界の主要国すべてです。どの国もコロナ禍を耐え忍ぶために、必死で世の中にカネを垂れ流しています。しかも今の株式市場は、昔と違って世界とつながっています。つまり今は「世界中の緩和マネーが、世界の投資家たちによって、世界中の株式市場をグローバルに飛び回っている」状況なのです。
これに対し、かつて私たちが経験した80年代のバブルは、ローカルな「日本限定バブル」でした。つまり、あの時は「日本の不況対策用の緩和マネーが、当時グローバル化が進んでいなかった日本の株式市場で、日本人投資家だけの手によって動いたもの」だったのです。ということは、どうやら今回のコロナバブルは、主要国すべての通貨当局が同時に急ブレーキを踏まない限り、いっぺんにはじけることはなさそうです。これは80年代の日本バブルが、通貨当局の急ブレーキで一気にマネーの流れが止まり、はじけてしまったのと、大きく違う点です。
株価は景気のバロメーターではない
とはいっても、やはり今回のコロナバブルには違和感があります。それは「実体経済との乖離」です。つまりコロナ禍で、ここまで実体経済が冷え込んでいるのに、本当に株価だけ上がり続けたりするものなのかという点です。これはどう考えればよいのでしょう。
これも結論から言うと、上がり続けても不思議はないと思います。なぜなら実体経済と株価は、ほとんど連動しないからです。これは、昔のバブル崩壊のデータを見ればわかります。かつて日本は、90年代初頭にバブルが崩壊し、日経平均株価が4万円手前から1万円を切るところまで下落したことがあります。でも驚くべきことに、その間GDPは、ほとんど変わっていませんでした。
結局、バブルを引き起こす主要因は、景気の動向よりも「カネ余り」や「投機に向いた商品の存在」なのです。ということは、たとえ景気がどん底であっても、世界に緩和マネーがあり余っているなら、そのマネーは株式市場などに向かうのです。
以前も指摘しましたが、株価は「景気の良し悪しを測るバロメーター」にできるものではありません。あくまでも、そのときどきのマネーの流量の中における、個々の企業の成績表です。そして今日は、全世界で「不況対策のコロナ緩和(つまり「不況なのにカネ余り」)」が進んでいるわけですから、その認識はさらに歪みます。
未来永劫続くバブルは存在しません。過去に起こった世界のバブルは、すべてはじけています。これから投資を考えておられる皆さんも、コロナ禍はいずれ収束し、そのときに緩和は必ず終わるということを、常に忘れないでください。