5.5組に1組が不妊治療を受けている
不妊とは、妊娠を望み、避妊をしないで性交をしていても、一定期間妊娠しないことを言います。一定期間がどの程度なのかも気になりますが、公益社団法人日本産科婦人科学会では1年が一般的と定義しています。また女性に排卵がなかったり、男性の精子数が少ないなどで妊娠しにくかったりする場合は、1年に満たない時期でも治療を始めるほうがよいとも考えられています。
2015年現在、日本では、不妊を心配したことがある夫婦は35%で、2002年の26.1%から増加しています。これは夫婦全体の約2.9組に1組にあたり、多くのカップルが不安を感じていることが分かります。さらに不妊治療を受けたことがある夫婦は、全体の18.2%で、2002年の12.7%から増加。約5.5組に1組が治療を受けていることになります(厚生労働省・不妊治療と仕事の両立サポートハンドブックより)。
不妊治療の種類
不妊治療にはどんな方法があるのでしょうか。
図表1は、主な不妊治療の概要です(内閣府資料)。
一般不妊治療と言われる治療法には、排卵日を診断して性交のタイミングを合わせる「タイミング法」、内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵をおこさせる「排卵誘発法」があります。ほかに生殖補助医療とされるのが、「人工授精」「体外受精」「顕微鏡下精巣内精子採取術」です。
一般的には、検査をして原因を探り、タイミング法、人工授精、体外受精など、段階的に治療を進めていくことが多いようです。
保険適用の治療、提供されない治療
不妊治療は経済的な負担も大きいというイメージがあります。実際はどうなっているのでしょうか。
不妊治療には、健康保険が適用されるものと、適用されないものがあります。
「タイミング法」と「排卵誘発法」には、健康保険が適用されます。いずれも、1回あたりの治療費は数千円~2万円程度で、健康保険によって窓口負担は3割になります。
対して、「人工授精」や「体外授精」などには健康保険が適用されません。配偶者間の人工授精の治療費は1回1万~3万円程度と、小さいとは言えない額です。さらに「体外受精」「顕微鏡下精巣内精子採取術」については、1回あたりの治療費の平均が20万~70万円程度と、かなり高額です。
体外受精の治療費助成制度
そこで、体外受精などについては、国や地方自治体が治療費の一部を助成する制度があります。「特定不妊治療費助成制度」です。
対象になるのは、「体外受精」と「顕微鏡下精巣内精子採取術」で、助成額は1回30万円(一部、治療方法によっは10万円)です。70万円の治療で助成を受けると、自己負担は40万円となります。
特定不妊治療費助成制度は2021年1月から内容が拡充されました。助成額は1回15万円から30万円に増額されたほか、助成回数は以前、生涯で通算6回までだったところ、1子ごとに6回まで(40歳以上43歳未満は3回まで)となっています。
また以前は夫婦合算の所得が730万円未満という所得制限がありましたが、現在は、所得に関係なく、助成が受けられるようになっています。なお、対象となるのは、妻の年齢が43歳未満の場合です。
特定不妊治療費助成制度は、実施主体が自治体となっており、自治体に申請します。自治体が指定する医療機関での治療が条件となりますので、事前に確認が必要です。
また自治体によっては、独自で支援を上乗せしている例もあります。例えば東京23区の自治体の中には、治療状況によって5万円、または2万5000円を上限に助成を上乗せするなどの例があります。
必要な費用を時系列で把握しよう
注意したいのは、助成金を受け取れるのは治療が終わってからであり、医療機関に支払うお金は全額準備しておかなければならない、ということです。
治療、出産まで、いつ、どのくらいのお金が必要になるか、時系列で把握しておくことが大切です。
一般不妊治療は、どのクリニックでもあまり差がないようですが、体外受精では通院の回数などがケースによって異なります。最初に、治療方針や治療内容、費用面も含めて確認し、医師と相談のうえ、進めていくことが大切です。
2022年の健康保険適用を目指して検討
助成があっても、治療費の負担は大きいものです。実際、経済的な理由から、治療をあきらめる夫婦も少なくありません。そこで国は、体外受精などについても健康保険を適用とする方針を打ち出しました。2022年4月に保険適用とすることを目指して、現在、検討が進められています。
健康保険適用になれば窓口負担は3割となります(ただし、特定不妊治療費助成制度による助成金はなくなる可能性もあります)。
また高額療養費が使えるようになるのも、大きなポイントです。高額療養費が使えれば、窓口負担が50万円であっても、自己負担の上限は8万円程度(一般的な所得の場合)に抑えられます。ただし、高額療養費は、1カ月の(月初から月末)の自己負担額の上限なので、月をまたぐ場合などについては注意が必要です。
健康保険適用には、未承認の薬を使う場合はどうするのかなどの課題もありますが、治療しやすい環境が整って欲しいところです。
なお、不妊治療にかかる医療費は、医療費控除の対象となります。医療費控除とは、医療費の自己負担が年間で10万円を超えた場合、10万円を超えた分を所得から控除できるものです。対象となるのは、人工授精、体外受精、採卵消耗品、薬代などで、助成金などを引いた分です。所得が減る分、所得税や住民税の負担が軽減されます。控除を受ける場合は確定申告が必要です。
不妊治療は、ストレスがかかり、不安になることもあるでしょう。一人で抱え込まずに、配偶者、医師、看護師にも相談しましょう。また診察時間が長くなることがあるので、仕事との調整がつきやすいかどうかも重要です。早朝や夜など対応してくれる病院であれば、仕事への影響も減らせるかもしれません。