荒削りな仮説でもすぐに行動して確認することが重要
今回のセミナーは2部構成で行われ、第1部のクロストーク「変化の時代を生き抜く、新規事業のおこし方」には一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事を務める山野千枝氏が登場。ビジネス誌の編集長として多くの経営者を取材したり、後継ぎ経営者の支援をしたりするなかで感じた「成功しているリーダーの行動」などについて、弊社編集者の質問に答えていった。
まず山野氏は、自身が名付けた「ベンチャー型事業承継」について「世代交代を機に、若手後継者が家業の経営資源を活用して、新規事業をおこすこと」と説明。それに注目した理由について、「3000人以上の経営者の話を聞くなかで、起業家やサラリーマン社長と比べ、後継ぎ経営者には“イノベーションをおこすことへの動機付けに美意識を感じた”」と話し、具体的には「事業を預かっているという気持ちが強く、存続や永続へのコミットが原動力となって、新しい事業やサービスを生み出している」と語った。
さらに、事業を成功させている後継ぎ経営者の共通点について2つのポイントを挙げる。「一つは、行動を重ねること。人に会うとか、現場を見に行くとか、躊躇せずに行っている。荒削りでも、思い付いた仮説をすぐに確認するということをやり続けている」と言う。そしてもう一つは、「前職で培った“自身の得意なこと”を把握したうえで家業に戻っている。それを家業のビジネスと掛け合わせている人がうまくいっている」と分析した。
いきなり改革ではなく、改善からのほうが社員はついてきやすい
続く第2部では、突っ張り棒で業界トップシェアを誇る平安伸銅工業の竹内香予子社長、家業のかまぼこ屋「鈴廣」のパッケージデザインやブランドディレクションを担う鈴木結美子氏の2名が加わり、山野氏を進行役とするパネルディスカッションを実施。「ビジネスを成長に導く、アイデアとアプローチ」をテーマに、自身の経験や考えを語り合った。
新聞記者を経て、27歳のとき平安伸銅工業に入社した竹内氏は、当初、「突っ張り棒だけではジリ貧だ」と感じたという。しかし、一方で安定した業績も続いていたため、その理由を探るべく、整理収納アドバイザーなどユーザーの声を聞くことにした。すると、既存商品がものすごく愛されていることに気づかされる。「それを知って、商品や会社の良さを生かすことを腰を据えて考えるようになった」と振り返る。それを受けて、山野氏は「外から戻ると家業を全否定しがちだが、そうではなく強みを生かした点が結果的に魅力ある新製品の開発につながっている」と加えた。
一方、前職の広告代理店で営業やマーケティングに従事した鈴木氏が、家業のかまぼこ屋「鈴廣」で行ったことの一つに「ブランドブック」の制作がある。パッケージやロゴ、さらにかまぼこの形などについてあるべき姿をまとめたものだ。制作の目的について、鈴木氏は「全社の意識を統一するため。“普段からやれている”と当たり前になっていることを目の解像度を高めて見つめ直し、自分たちの技術や美学を再確認することが重要だと感じた」と語る。
続いて、リーダーとしてのチームのまとめ方について、竹内氏は段階を踏んで事業開発に取り組んだという。「まずは、突っ張り棒をつくっている鉄パイプとプラスチックの成形品でできることを考えた。いきなり改革するのではなく、まずは改善から。そうして新しいことができる態勢を整えたうえで、既存の製品分野にとらわれない“意味のイノベーション”に取り組んだ」。いきなりホームランを狙うのではなく、送りバントで手堅く進塁を重ねる方が社員はついていきやすいというわけだ。
そして最後、セミナー参加者から質問として寄せられた「女性が跡を継いだり、家業に関わったりすることのメリット」について、鈴木氏は次のように答えた。「かまぼこであれば、ギフトとして女性が購入する場合も多いなか、“これならほしいと思ってもらえる”という判断がすぐにできる。また、女性のライフステージごとの変化をはじめ、生活のなかで気づいたことを会社の制度や仕組みに反映させるのにも向いている」
およそ1時間半、それぞれの実感がこもった多様な話を聞くことができた今回のビジネスセミナー。さらなる成長を目指す女性リーダーにとっては、示唆に富む内容だったに違いない。
※各人の発言は、当レポートの作成にあたって再構成しています。
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