確定拠出年金のしくみ
確定拠出年金には「企業型DC」(企業型確定拠出年金。以下、DC)と、「個人型iDeCo」(個人型確定拠出年金。以下、iDeCo)があります。
DCは企業が従業員のために導入する退職金制度で、企業が毎月一定の掛金を拠出し、退職金や年金を準備するものです。対してiDeCoは個人が任意で加入し、自身のために掛金を出して年金づくりをする制度です。iDeCoは月額5000円から始められ、自営業者やフリーランスでは月額6万8000円まで、勤務先に企業年金の制度がない会社員では月額2万3000円までなど、上限が決まっています。
掛金をどんな金融商品で運用していくかは、DCでは従業員自身が、iDeCoでは加入者本人が選ぶことになっています。商品の選択肢には、「預金商品」「保険商品」「投資信託」があり、選んだ商品の運用成果によって、将来受け取れる額が決まってきます。
通常、預金の利子や投資信託で得た利益には約20%の税金がかかりますが、DCやiDeCoの運用益は非課税であり、有利な運用ができます。またiDeCoでは掛金が全額、所得から控除されるため、所得税や住民税が安くなるのも大きなメリットです。
「利確」したほうがいいのか
資金の運用先として投資信託を選んでいる場合、値動きも気になるところです。
今年に入って株価が大きく上昇しているため、「このまま投資信託で運用していて大丈夫?」と思う人もいるようです。DCやiDeCoでは、途中で運用商品を変更することができるので、投資信託を売って利益を確定させ、資金を預金や保険に移した方がいいか、というわけです。
株価上昇でも見直しの必要なし
ここでは、株式に投資する投資信託を前提に話を進めますが、結論から言うと、株価が上がったからといって利益確定の必要はなく、そのまま投資信託での運用を続けてOKです。
DCやiDeCoでは、毎月一定の額を投資する、積立投資になります。株価などが高い時には少なく、安い時には多く買うことになり、高値で多く買ってしまう高値づかみの失敗を避けやすく、価格が安い時にたくさん買えるメリットがあります。これを「時間分散効果」と言い、投資のリスクを抑えるための重要なポイントです。長期で続けると、平均買付単価が抑えられる効果が期待できると考えられています。
したがって、短期間で利益を確定させていくより、長く続けたほうが、効果が出やすい、というわけです。
今後、株価が下がったらどうなるのか
運用で効率的に増やすより、安全性を重視したい、という人でも、55歳くらいまでは利益確定を考えず、投資信託での運用を続けていいと考えられます。この先も、長期でみれば株価が下がる局面はありますが、受取開始となる60歳まで5年あれば、その間に回復することも期待できるからです。
またDC、iDeCoとも、現行では60~70歳の間で受取開始時期を決めることになっていますが、制度改正により、2022年からは、受取開始時期を75歳まで選択できるようになります。長寿化により、65歳まで働くのは当たり前、できれば70歳、75歳くらいまで、という考え方も広がりつつあり、受取開始時期の選択肢が広がるのも、そうした動きに合わせた措置です。
これを踏まえると、もしも、60歳、65歳の時に価格が下落していたら、相場が回復するまで、受取時期を先延ばしすることもできる、ということになります。
20~50代前半の人なら、まだまだ先は長く、ここで利益確定するより、もっと長く運用を続けたほうがいいのです。
資産全体でバランスを見て判断を
それでも価格が下落するのが怖いという人や、50代以上で数年後には年金を受け取りたい、という場合は、投資先の変更を考えてもいいでしょう。預金も候補になりますが、債券を中心に運用する投資信託に切り替える、という選択肢もあります。
そのような検討をする際には、DCやiDeCoだけでなく、資産全体のバランスをチェックすることをお勧めします。預金、貯蓄目的の保険、株式や投資信託など、資産全体を棚卸しするのです。リスク資産(株式など、元本保証がない資産)の割合が多すぎると感じたら、年齢に応じて徐々に減らしていくのもいいと思います。
その際、DCやiDeCoで投資している分はキープして、別に投資している分を整理していくほうが有利になる場合があります。前述のとおり、DCやiDeCoは利益が非課税であるため、利益が出やすい商品で運用したほうが、恩恵が受けやすいからです。
預金や保険での運用はモトがとれない
では、DCやiDeCoを預金や保険で運用している人は、今の時期、どんな戦略をとるべきでしょうか。
「確定拠出年金統計資料(2020年3月末)」の資産配分状況を見ると、DC、iDeCoともに預金や保険などの元本確保型で運用している人のほうが、投資信託で運用している人より多く、5割を超えています。
預金や保険での運用では運用益が非課税になるメリットが活きません。またiDeCoについては、口座管理手数料として月額で少なくとも171円、金融機関によっては600円以上がかかります。掛金が所得から控除され、所得税や住民税が安くなる節税効果はあるものの、預金や保険では口座管理手数料をカバーするだけの利息は得にくく、重い手数料を負担することになるわけです。
そうしたことからも、少なくとも50代前半までは、投資信託を選択したいところです。
迷ったら世界株インデックス投信でOK
投資信託は多くの投資家から集めた資金をまとめて株式や債券などに投資し、得られた利益が分配金や値上がり益として投資家に還元される仕組みの商品です。iDeCoでは、運営管理機関が複数の投資信託を選定しており、その中から選択することになります。どれを選べばいいか分からない、ということから、つい、預金にしてしまう、という人が多いのですが、まずは、世界株に投資するインデックス投信を選ぶといいでしょう。
インデックス投信とは、特定の指数(例えば日経平均や東証株価指数など)に値動きが連動する投資信託です。世界株に投資するインデックス投信は、先進国や新興国を含めた世界中の株価の動きを表す指数に連動するもので、その1本に投資すれば、世界中の株式に投資したような成果が期待できます。投資では投資先が広いほど、値動きが安定しやすいと考えられていますから、分散効果を得ながら投資ができるというわけです。
日本株を含む・含まないなど、複数のタイプがある場合は、ほかの資産とのバランスも考えて選択しましょう。日本株には別途投資したいから投資信託は日本株を除いた世界株インデックス投信にする、などです。
前述のとおり、DCやiDeCoでは時間分散を図りながら投資できるためリスクも抑えられますが、どうしても投資が怖い、という場合は、世界中の株式や債券に分散投資するバランス型というタイプを選択肢にする手もあります。債券の比率が高いほど、リターンは抑えられますが、安全性は高くなります。
iDeCoはさらに使いやすくなる
DCは勤務先主導であるため、誰でも加入できるわけではありませんが、iDeCoは自身が望めば多くの方が加入できます。実際、コロナ禍でも、iDeCoの加入者は増加傾向で、年金づくりに取り組む人が多いことが分かります。DCに加入している人が別途iDeCoに加入するには労使の規約の定めが必要ですが、2022年からは定めがなくても加入できるようになり、より門扉が広がります。
またDCについては、企業が拠出する掛金のほかに、従業員自らが掛金を出す「マッチング拠出」ができる場合もあります(企業により異なる)。
DC、iDeCoとも、積み立てた資金を受け取れるのは原則60歳以降であり、そのほかのお金(住宅購入資金や教育費など)とのバランスを考えることも大切ですが、有利な制度ですから、積極的に活用したいところです。ポイントは、時間分散が得られる仕組みを利用して、株式に投資する投資信託で積極的に運用することです。