老後資金を準備するなら、iDeCo(個人型確定拠出年金)を検討したいところ。掛金に応じて所得税や住民税が安くなるなどの節税効果があるiDeCoが、制度改正でさらに使いやすくなります。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんが解説します――。
iDeCoの文字ブロック
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老後資金の有力な候補

公的年金以外にも、老後資金を準備しておきたい……。そのツールとして有力な候補となるのが、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)です。

会社員や公務員は厚生年金、個人事業主やフリーランスは国民年金に加入しています。iDeCoは、それらに上乗せする形で、任意で加入するものです。毎月、一定の掛金を出して自身が選んだ金融商品で運用し、60歳以降に年金や一時金として受け取ります。

「老後資金は気になるけれど、普通に投資をしたり、預金したりすればいいのでは……?」と思う人もいますが、iDeCoにはさまざまなメリットがあります。

iDeCoは節税効果が大きい

まず第1のメリットは、掛金が全額所得控除されることです。iDeCoの掛金は全額、所得から控除され、課税所得が減ることで、所得税と住民税が安くなるのです。例えば年収800万円、40歳の人が毎月2万円の掛金で60歳まで積み立てた場合、所得税と住民税で年間7万2000円もの節税効果があります。60歳までの20年間では、節税額は144万円にものぼります。積立総額は480万円ですが、節税額を考慮すると、実質的には336万円の負担、ということになります。

また掛金は投資信託か預金、保険から自身で選択した商品で運用されますが、運用で得られた利益には税金がかかりません。普通に投資するより、有利です。積み立てたお金を受け取る際にも、一定の控除があります。

iDeCoは2001年にスタートし、2021年1月時点で185万人が加入しています。何度か改正も行われており、2022年4月以降はさらに使い勝手がよくなります。

1.受取開始時期は75歳まで延期できる

まず、2022年4月に行われるのが、受取開始時期の延長です。現状では、60歳から70歳の間に受け取りを開始しなくてはなりませんが、22年4月以降は、受取開始時期の上限年齢が5年延長され、最高で75歳での受取開始が可能となります。

私は、人生100年時代では、「健康を保って、好きな仕事を、細くてもいいから長く続ける」ことが大事だと思っています。これは、年金づくりをすることと同じくらい、大切なことです。70歳まで働く、いやいやもっと働く、という人にとって、受取開始時期の選択肢が広がるのはメリットと言えます。

積み上げたコインの上にいるシニアカップル
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掛金を出せるのは60歳まで(22年5月以降は条件により65歳まで)で、それ以降は掛金を納めることはできませんが、それまでに出した掛金についてはそのまま運用が続けられます。前述のとおり、iDeCoの運用益には税金がかからないので、普通に投資信託で運用したり、預金したりするより、有利に運用できます。投資信託で運用していたけれど、安全な預金に切り替えたい、といった運用先の変更も可能です。

2.65歳まで掛金を出せる

2022年5月の改正では、加入できる年齢が5年間延長されます。

現在、iDeCoに加入できるのは20歳~60歳未満の人ですが、22年5月以降は、65歳未満まで、5年間延長されます。

65歳ごろまで働くのは普通になりつつあり、60歳以降も掛金を出したいという人も増えていくと見込まれます。老後資金も増えていきますし、掛金が所得控除されて所得税と住民税が安くなるメリットが受けられる期間も長くなります。

ただし65歳まで加入できるのは一定の条件を満たす人のみ、です。

65歳まで加入できる人の条件

条件は、「国民年金に加入していること」。これはiDeCoに加入するための元々の条件で、フリーランスの方などで国民年金の保険料を納めていない場合などではiDeCoに加入できません。また会社員や公務員は国民年金に加入しており、定年後、再雇用や定年延長などで、60歳以降も会社員として働く場合、厚生年金に加入する働き方をする場合には、国民年金にも加入していることになります。したがって、会社員として働いている間(厚生年金に加入している間)は、65歳までは継続して加入できるというわけです。

自営業者やフリーランス、また会社員・公務員に扶養されている配偶者などは、原則、60歳以降に国民年金に加入できず、iDeCoに加入できるのは60歳までです。ただし、未加入期間があって国民年金保険料を満額納めていない(40年加入していない)場合は、その期間の分だけ、60歳以降も国民年金に「任意加入」できます。国民年金は20歳で加入が原則ですが、学生の間は保険料を納めなかった、転職の狭間に未加入期間がある、といった場合は、任意加入が可能であり、任意加入する間はiDeCoに加入できる、というわけです。

公的年金は、一生涯受け取ることができ、老後資金の強い味方です。国民年金の未加入期間があると年金額に影響しますから、任意加入の制度を知っておきましょう。

3.企業型DCに入っている人もiDeCoに入りやすくなる

2022年10月には、「企業型DC」に加入している会社員にメリットのある改正が行われます。企業型DCとは、企業型確定拠出年金のこと。退職金制度の1つで、企業が資金を拠出し、従業員自身が選んだ金融商品で運用する仕組みです。

会社員もiDeCoに加入できるのですが、現行の制度では、勤務先が企業型DCを導入している場合、会社の規約を一部変更する必要があります。22年10月の改正では、そうした要件が撤廃され、事業主の掛け金が拠出限度額(月額5万5000円)に満たない場合は、規約を変更することなく、iDeCoに加入できるようになります。掛金の金額は、「2万円以内、かつ、事業主の掛金と合わせて月額5万5000円を超えない範囲」です。

また企業型DCのほかに確定給付企業年金(DB)などにも加入している人は、事業主の掛け金が拠出限度額(月額2万7500円)に満たない場合にiDeCoに加入でき、掛金は、「1万2000円以内、かつ、事業主の掛金と合わせて月額2万7500円を超えない範囲」です。なお、DBに加入している場合の掛金の上限については、2023年以降、DBとiDeCoで計5万5000円に見直される予定です(時期は未定)。

勤務先の退職金制度は老後を考えるうえで重要なことですが、意外と「正確には把握していない」という人も少なくありません。どんな制度があり、掛金はいくらなのか確認してみましょう。

4.マッチング拠出かiDeCoを選べるようになる

勤務先によっては、企業型DCについて、従業員自身も掛金を出す「マッチング拠出」を導入しているところもあります。マッチング拠出では、企業の掛金と同額までを給与引き落としで拠出するもので、マッチング拠出ができるかどうかは、企業によって異なります。

現在は、マッチング拠出ができる企業ではiDeCoには加入不可、2022年10月施行の改正後は、マッチング拠出かiDeCo、どちらか一方を選択(併用は不可)となります。

マッチング拠出なら、資金の管理などにかかる手数料は会社負担というメリットがあるのに対し、iDeCoでは加入時、運用時にかかるコストが自己負担となります。またマッチング拠出では企業が金融機関を選び、その金融機関がそろえた中から運用する商品を選びますが、iDeCoでは、自身が自由に金融機関を選ぶことができ、利用したい商品があるか、使い勝手がいいかなどを比較検討することも可能です。

所得控除や運用益非課税のメリットは、マッチング拠出、iDeCoとも、同じです。

月額5000円からスタート可能

iDeCoは老後資金作りのための制度であり、60歳まで資金を引き出すことができません。キャリアアップのための自己投資や住宅購入、教育費、独立資金など、老後を迎えるまでにはさまざまな「お金がかかること」があります。そのため、iDeCoやマッチング拠出をすることには慎重になる人もいますが、60歳まで引き出せないことを、老後資金を確実に準備できる、というメリットと捉えるのもいいと思います。

月額5000円から始められるので、無理のない金額から始めて少しずつ増やしていくのもいいでしょう。また年に1度まで、掛金の額を変更することもできますから、資格取得にお金がかかる年は額を減らす、収入アップしたら掛金も増やす、といったことも可能です。