2月15日、日経平均株価の終値が3万円の大台に乗りました。コロナショックからの急速な回復ぶりに、「乗り遅れた」と感じている人も多いのではないでしょうか。40年以上にわたって株式市場を見てきた経済コラムニストの大江英樹さんが、乗り遅れたと思って悔しい思いをしている人に勧める2つの投資法とは――。
取引板を見つめる女性
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今はまだバブルではない

日経平均株価が3万円に乗せました。これは30年ぶりということでいささか株式市場のまわりにいる人たちは、ざわついています。この流れにますます強気になる人、「これはもうバブルだ」と言う人、そして乗り遅れて悔しいと思っている人等々、その心情はさまざまです。 

私が見聞きしている範囲内では、「バブルだ」と言っている人が多いような気がしています。今の株式市場がバブルなのかどうかはわかりませんが、株式市場に40年以上関わってきた私から言わせると今はまだバブルではない、と思います。なぜなら「バブルだ」と言う人が結構多いからです(笑)。バブルというのははじけてから初めて「あれはバブルだった」と気が付くものです。懐疑的だった人もみんなが総強気になったところがバブルの局面なので、多くの人が警戒している現状では決してバブルには至っていないと考えられます。

業績が好調な企業も多い

もちろんコロナ禍で各国共、政府がかなりの金額のお金をばらまいているという面はありますが、個別の企業業績を見ていると好調な企業も多いので、かつての80年代終わりや2000年前後の時のように株価が実体以上に過大評価されていることもありません。何かのきっかけで一時的に下落することはあるでしょうが、個別の企業業績で考えればすぐに上昇基調に戻るのではないかと思いますし、“行き過ぎたバブル”というところまでは行っていないと感じています。

バブルのときに起きる2大社会現象

バブルの特徴として私は2つの社会的な現象を気にしています。それは経済誌やマネー誌ではなく、一般週刊誌や普段は経済の話なんか何も載せない、流行物を取り扱う男性誌や女性誌で株の特集をやったりすることが増えてくると要注意です。

リビングの机の上に置かれた複数の雑誌
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もうひとつは、評論家の中に株価の上昇を見て「今回だけは違う」と言う人が増えてくることです。市場がバブルで高値を付ける頃や逆に暴落して大底を付ける頃になると、だいたいこの“今回だけは違う”おじさんが登場してくるのです(笑)。

これは洋の東西を問わずあるようで、アメリカでも株価が低迷した70年代の最後のほうには総悲観の様相を呈してきて、Business Weekという雑誌の1979年8月13日号では、表紙に「Death of Equity(株式の死)」というフレーズが登場しましたが、現実はそこから株価が大きく上昇を始めた、というのも実に皮肉なことでした。そういう視点で見れば、まだバブルとまでは言えないでしょう。

日経平均にはまったく興味がない

でも恐らく、投資経験のある多くの人は「日経平均が3万円に乗った」というニュースを目にして「しまった! 乗り遅れた」とか「もう今から買っても遅い」と思っていることでしょう。確かに昨年のコロナ禍で一番下がった時の日経平均から見ると、倍近くまで値上がりしていますから、「乗り遅れてしまった」という気持ちになるのは無理もありません。

ただ、私自身は日経平均株価については全く気にしていません。というかほとんど何の興味もありません。なぜなら私は個別の株式に投資をしているからで、全体像を見ても何の意味もないからです。

そもそも日経平均株価というのは株式市場全体を表しているわけではありません。東京証券取引所第1部に上場している約2000銘柄のうちの225銘柄を選んで平均値を算出しているにすぎません。しかもその225銘柄の中でもファーストリテイリング(ユニクロ)やソフトバンクグループなどの寄与度が大きいため、ごく一部の銘柄の値上がりによって日経平均株価が上がっているのです。

現に日経平均が3万円に乗った2月15日には一日で564円上昇しましたが、そのうち、値上がりした上位10銘柄だけで上昇分の65%を占めていますし、前述の2銘柄(ユニクロとソフトバンク)だけで33%、つまりたった2つの銘柄の値上がりで全体の3分の1を占めているのです。したがって、日経平均株価に連動する投資信託を買っている人以外は日経平均が上がろうが下がろうが、それほど大きく気にする必要はありません。

乗り遅れた! と思う人におすすめの投資法2つ

では、「しまった! 乗り遅れた」と思っている人たちはここから一体どんな投資方法を考えればいいのでしょうか? 方法は2つあると私は思います。1つは投資信託ではなく、個別株に投資をすること、そしてもし投資信託に投資するのなら積立投資をおこなうことです。

前述したように、株価が上がっているといっても、それは日経平均が上がっているだけで、全ての株が上がったというわけではありません。この1年ほどの間で上昇した銘柄の多くはコロナ禍により、在宅が増えたことによって恩恵を得た企業です。外出や旅行の自粛によって大きな打撃を受けた飲食業や運輸、宿泊業など、まだまだ株価が低迷したままの企業はたくさんあります。

しかしながら、ようやくワクチンが認可を受け、感染者の数も落ち着いてくれば、これまで業績が落ち込んでいた企業の回復も見込めるでしょう。それによって低迷していた株価が上昇に転じる可能性も出てきます。そんな業種の中で個別の企業を探すという方法があります。

配当利回りで選ぶのも手

個別銘柄に関してもうひとつは配当利回りで考えてみるのも面白いでしょう。現時点で配当利回りが5%以上の銘柄は100社近くありますし、4%以上で見れば300社以上あります。配当利回りが高いということは業績が良くて配当が多いということもあるでしょうが、株価が下がっているために利回りが高くなっているという場合もあります。したがって配当利回りさえ高ければ何を買っても良いというわけではありませんが、『会社四季報』などを利用してこれらの企業の今後の業績予想を調べてみて、回復基調にあるということであれば、投資する価値はあるでしょう。

そもそも今の時期に利回りが4~5%もあるのであれば預金のまま置いておくよりもずっと良いですし、前述したように配当利回りが高いということは株価が下落しているからということも多いからです。日経平均が3万円に乗ったからといって全ての株が高くなっているわけではないことは知っておくべきでしょう。

乗り遅れた人の勧める第2の投資法

もうひとつの投資戦略としては投資信託を積立で購入していくという方法もあります。積み立てで投資をするというのは毎月定額で投資信託を購入するというやり方です。この方法だと、購入金額が一定ですから相場が高い時は少ししか買わず、安い時はたくさん買うことになります。結果として平均購入価格が低く抑えられる効果が得られます。これは「ドル=コスト平均法」という買い方です。言うまでもありませんが、今後も株価の上昇が続くと思うのであればこういう買い方よりもまとめて一括で買ったほうがはるかに成果は高くなります。逆にこれから下がる時にこういう買い方を続ければ、いずれ高い成果を得られます。

もっとも絶対下がることがわかっているのであれば「買わない」という選択肢が一番ですが、問題はどこまで行っても上がるか下がるかは絶対確実にはわからない、ということです。したがって買い方としてこの積立方式はいくらかマシな方法であることは間違いありません。

積立投資なら世界中に分散投資を

さらにもし積み立てで購入していくのであれば分散投資、それも日本だけではなく、世界中の株式市場に投資していくのが一番良い方法だと思います。日経平均が3万円になったといっても世界全体で見れば日本の株式市場の割合は7~8%程度しかありません。今は、世界中の株式市場にその規模の割合に応じて分散投資できるタイプの投資信託はたくさんあります。

あくまでも私の個人的意見では、バブルという感覚は全くありませんが、「投資はしたいが、乗り遅れた! ここから買うのは恐い」という人であれば、今回お話した2つの方法をとってみるのはどうでしょう。そのほうが、いつまでも後悔に苛まれることに比べれば、ずっと精神衛生上は良いと思います。ただし、全く悔しくないし、興味も無い人は何もしないのが賢明です。