世界を見渡せば、生まれた国や育った環境の違いだけで弱い立場に立たざるをえない人たちが大勢います。問題解決に挑む団体や、私たちができることをまとめました。(後編/全2回)
ヘルプし、サポートの概念
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寄付金が日本の赤ちゃんや子ども、お母さんの支援に

フローレンス
特定非営利活動法人(認定NPO法人)
宮崎真理子さん

大切な仕事の日に、わが子が突然熱を出す。保育園に預けられないどころか、頼れる実家も近くにない。そのときの焦燥感と絶望感たるや。身に覚えのあるワーキングマザーも多いのではないだろうか。そんなとき、頼みの綱となるのが、「親子の笑顔をさまたげる社会問題を解決する」というミッションを掲げるフローレンスだ。

急病で保育園に預けられない子どもに対して、保育スタッフが自宅で保育を行う。親は安心して仕事ができる。
急病で保育園に預けられない子どもに対して、保育スタッフが自宅で保育を行う。親は安心して仕事ができる。(写真提供:フローレンス)

病児保育は月会費制で、金額は自動車保険のように利用回数(直近3カ月)と子どもの年齢に応じて変動する。当日の朝8時までに予約をすれば、保育スタッフを原則100%自宅に派遣してくれ、予約日の朝6時までならキャンセル料もかからない。入会すれば、最短で当日からの利用が可能だ。

フローレンスはこのほかにも、保育園運営事業、障害児保育事業、赤ちゃん縁組事業、子ども宅食事業などを展開し、親子を取り巻く社会問題に対して事業を通じて解決することを目指している。

「病児保育事業の場合、子どもの命を1人で10時間預かるというプレッシャーの中で仕事を遂行しなければなりません。それができる人材をいつでも不足しないように採用するのは大変ですし、スキルアップのための研修や人材育成に力を入れることも必須です。すべての行動の軸を“子どもの命優先”として、保育の質の担保に努めています」

事業の裏側について説明してくれたのは、ディレクターの宮崎真理子さん。自身も2児の母親で、事業の範囲を拡大したのは、出会った親子一人一人の声に向き合ってきたからこそだと話す。

赤ちゃんの命は助かってもその先のインフラがない日本

例えば、医療的ケア児(たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする子ども)の問題がある。医療技術の進歩により、助かる子どもの命が増えている一方で、医療的ケア児の数は1万8000人と、この10年で2倍に増加している。フローレンスにも、「障害があるわが子を保育園に預かってもらえずに困っている」という1本の電話があった。

医療的ケアを理由に保育園入園を断られた子どもを預かる「障害児保育園ヘレン」。先生や友達と遊ぶことで発達を促す。
医療的ケアを理由に保育園入園を断られた子どもを預かる「障害児保育園ヘレン」。先生や友達と遊ぶことで発達を促す。(写真提供:フローレンス)

「病院を退院した途端、親は24時間365日つきっきりで子どもをケアする日々が始まります。特に母親は大変で、保育園に預けられなければ、仕事を辞めざるをえません。何とかしなければと思いました」

そこで新たに立ち上げたのが「障害児訪問保育アニー」だ。障害が理由で保育を受けられない子どもの自宅に保育スタッフが訪問し、マンツーマンで保育を行う。

「『アニーがあったから、私は社会に戻ることができた。私も社会に恩返しできるように頑張ります』。利用者第1号であるお母さんからのこの言葉が、今でも支えになっています。障害児だけでなく、双子や三つ子の育児も過酷です。子どもの貧困や虐待の問題も外からは見えにくいうえ、国の支援の歩みはとにかく遅い。自分たちがロールモデルとなり、全国で“やりたい”と手を挙げた人が同じ事業をできるように、制度や法律を整えるための活動を推進しています」

障害児保育、貧困、虐待死など、1日50円からの寄付が、子どもを救い、日本の未来を支えるのだ。

日本の医療を支える
日本赤十字社

献血=輸血というイメージを持つ人も多いのではないだろうか。実際は、献血された血液全体のうち、輸血用血液製剤となるのはおよそ半分で、そのほとんどががんなどの病気の治療に使われている。残りの半分は血漿けっしょう分画製剤という医薬品の原料となる。血漿分画製剤は、感染症、血友病などの治療に用いられるが、近年、必要とされる量が急激に増加している。

採血の前後には水分補給が必須。温かい飲み物を選ぶと血液の循環が良くなり、採血時間を短縮できることも。(写真提供:日本赤十字社)
採血の前後には水分補給が必須。温かい飲み物を選ぶと血液の循環が良くなり、採血時間を短縮できることも。(写真提供:日本赤十字社)

そもそも血液は、酸素や栄養を体の隅々にまで運ぶ重要な役割を持ち、人間の生命を維持するために欠かせないもの。しかし、どんなに医療技術が進歩しても人工的につくることはできず、長期保存することもできない。輸血を必要とする人だけでも年間約100万人はいるとされ、安全な血液を多くの患者に安定的に届けるためには、1日に約1万3000人が献血に協力する必要がある。少子高齢化が進む中、10~30代の献血者数は、この10年で約37%も減少しており、このままでは血液の安定供給に支障をきたすおそれもある。

一瞬の痛みと15分間。それで救える命がある

日本赤十字社では、献血する人・輸血を受ける人の健康と安全を守るために、採血に関してのさまざまな基準を設けている(詳細はホームページ)。この採血基準を満たしている健康な人なら誰でも献血が可能だ。当日の体調や既往歴などを考慮して、最終的に医師が判断をする。

採血時間は、全血献血(400ミリリットル・200ミリリットル)は10~15分、成分献血(血小板成分・血漿成分)は採血量に応じて40~90分程度。針を刺す瞬間はチクッとするが、採血中に痛みが続くことはない。血圧や血色素量(ヘモグロビン濃度)は体調によっても変わるので、以前、献血ができなかった人も、可能な範囲で再挑戦してみてほしい。その温かな血が医療を支え、命をつなぐのだから。

緊急時に命をつなぐ
国境なき医師団
特定非営利活動法人(国際協力NGO)

インドの医療従事者に安全対策をトレーニングする国境なき医師団のスタッフ。写真提供:国境なき医師団(cGarvit Nangia)
インドの医療従事者に安全対策をトレーニングする国境なき医師団のスタッフ。(写真提供:国境なき医師団©Garvit Nangia)

自然災害、紛争、感染症の流行などによる人命の危機に対して、「独立・中立・公平」な立場で医療・人道援助活動を行っているのが国境なき医師団だ。活動資金の大半を民間からの寄付でまかなうことにより、政治や権力からの影響を受けずに、医療ニーズがある世界中の現場へ駆けつけることができる。日本を含む世界38拠点に事務局を持ち、医師や看護師をはじめとするスタッフが約70の国と地域で援助活動を行う。

日本の窓口は、特定非営利活動法人国境なき医師団日本。広報部のベヒシュタイン紗良さんは、「私たちは国境が命の境目とならぬよう、緊急性の高い医療ニーズに応え、その国の政府やほかの援助機関が医療を提供できる環境が整ったら撤退する。“絆創膏ばんそうこう”のような存在」と話す。

安全な飲み水も医薬品も寄付がなければ届けられない

これまでの活動地の多くは、紛争や難民の多いアフリカや中東だったが、今や日本を含めた世界中が新型コロナウイルスの脅威にさらされている。世界各地で感染予防対策や治療にあたっているほか、今後ワクチンや治療薬ができたときに世界の誰にも適正な価格で届くよう、国際社会に呼びかけているという。

コンゴ民主共和国でははしかの流行と新型コロナウイルス感染症の二重苦となっている。写真提供:国境なき医師団(cMSF/CarolineThirion
コンゴ民主共和国でははしかの流行と新型コロナウイルス感染症の二重苦となっている。(写真提供:国境なき医師団©MSF/CarolineThirion)

「もともと衛生状態が悪く、医療体制も不十分な難民キャンプは、さらに危機的な状況に陥っています。また、内戦下にあるイエメンでは、入院患者の4割以上が亡くなるという時期もあり、“昨日まで元気だった人たちがバタバタ死んでいくのは見るに堪えない”という現地からの声も聞こえます」

緊急支援に備え、基本的には使途を指定せずに寄付を募っているが、新型コロナ対応のように支援対象を選択することも可能だ。医薬品も清潔な飲み水も、寄付がなければ届けることができない。寄付こそが難局を乗り越える力となる。

途上国の女性と子どもを守る
ジョイセフ
公益財団法人(国際協力NGO)

望まない妊娠により、自分の人生を諦めざるをえない女性たちがいる。妊娠から出産までの過程で亡くなる女性は1日800人以上。18歳未満で結婚する少女は1日3万3000人。今もなお、女性であるがゆえに命や健康が危険にさらされ、さまざまな差別に直面する人たちがいる。

アフガニスタンのクリニックでの診療の様子。(写真提供:ジョイセフ)
アフガニスタンのクリニックでの診療の様子。(写真提供:ジョイセフ)

そんな女性の命と健康を守り、すべての女性が自由に性・妊娠・出産・避妊を選択できる社会を目指しているのが、1968年、日本で誕生したジョイセフだ。創設者の國井長次郎さんは、戦後日本の復興過程で、予防医学、家族計画、母子保健の普及に努め、妊産婦や乳児の死亡率を世界トップレベルにまで低下させることに寄与した。その経験とノウハウを生かし、これまでに世界39カ国で活動を行っている。

女性が人生を選択するために心身の健康と正しい知識を

ミャンマーでは、母子保健推進員を養成し、妊産婦や母子を支援している。(写真提供:ジョイセフ)
ミャンマーでは、母子保健推進員を養成し、妊産婦や母子を支援している。(写真提供:ジョイセフ)

例えばザンビアでは、10代女性の23.3%が妊娠している。しかし、知識不足やアクセスの悪さなどから、妊婦健診を受けない人が多く、保健施設で出産できない人も半数以上いる。ジョイセフのプロジェクトでは、保健施設から離れた場所に住む妊婦が宿泊できる待機所を設置するなど、安心して出産できる体制を整えるだけでなく、若年妊娠、性感染症、性暴力を予防するためのプログラムを展開。

その先も、地域住民が村の保健施設と連携し、自分たちの命と健康を守る活動を主体的に実施・維持できるようになることを目指している。「女性と少女たちが自分の人生を選択するためには、適切な情報と知識を身につけ、生かしていくことが大切です」と理事長の石井澄江さんは語る。

現在は、日本国内で孤立する女性の支援にも力を入れている。活動を支えるのは、寄付やイベントへの参加のほか、女性として同じ目線で考えることだ。

インドの人身売買から子どもを守る
かものはしプロジェクト
認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)

今、私たちがこうしている間にも世界では、だまされて、たった2万円で売春宿に売られてしまう少女がいる。性的搾取を目的とした人身売買の被害にあっている子どもは、世界に年間約100万人。最も被害者数が多いのがインドだ。そこで「子どもを取り巻く不条理をなくす」ために活動しているのが、かものはしプロジェクトだ。

女性蔑視の文化が根強く残るインド。最も被害が多い西ベンガル州の村で女性たちの話を聞く村田さん。写真提供:かものはしプロジェクトともに?Siddhartha Hajra
女性蔑視の文化が根強く残るインド。最も被害が多い西ベンガル州の村で女性たちの話を聞く村田さん。(写真提供:かものはしプロジェクト©Siddhartha Hajra)

共同創業者の村田早耶香さんは、19歳のときに児童買春問題について知り、2002年に同NPOを立ち上げた。「サバイバー(人身売買の被害者)に寄り添って、共に声を上げる支援」「社会の仕組みを変える支援」を両輪に、2024年までに性的搾取を目的とした人身売買をなくそうと奔走している。

「やっと売春宿から救出されても、家族や周囲から受け入れられず、生きづらさを抱えてしまう人も多い。そんなサバイバーの心をケアし、一人一人に寄り添った支援を行っています」

被害者たちが声を上げ社会の仕組みを変えていく

一方、少女をだまして売春宿に売り渡す仲介人(トラフィッカー)が有罪になり、処罰されることはほとんどない。そこでインドでは、現地パートナー団体と協力し、国に働きかけて捜査機関を設置するなど、取り締まりの強化や裁判の支援を行う。

問題を解決し、社会の仕組みを変えようと、力を合わせて活動する女性たち。
問題を解決し、社会の仕組みを変えようと、力を合わせて活動する女性たち。(写真提供:かものはしプロジェクト©Siddhartha Hajra)

「“これ以上自分たちのような被害者を出したくない”と声を上げ、リーダーとして社会の仕組みを変えようとしているサバイバーもいます。彼女たちは、私たちの希望です。これからもサポートを続けていきたい」

活動は今、新型コロナウイルス感染拡大により重大な局面を迎えている。「全土封鎖と大型サイクロン被害が重なり、家も雇用も食料もなく、生きるために法外な利子で借金をする人も少なくない」。今後も「生き延びるため」の支援が必要だ。