流行りものは短命で終わる
投資信託には、様々な種類がありますが、そんなジャンルのひとつに「テーマ型投信」と言われるものがあります。例えば、ロボット、5G、AI、ESG、といった様々なテーマを通じて特定の業界や企業に投資をするというタイプの投資信託です。こうしたテーマ型投信というのは別に最近出てきたわけではなく、かなり昔からありました。でもこういう“流行りもの”の多くはだいたいにおいて、短命で終わっています。
典型的なのは2000年前後のいわゆる「ドットコムバブル」です。当時のIT企業の株価が大幅に上昇しました。そんな時代にはそういう企業に投資するファンドが林立しましたし、更にもっと前だと1984年頃にはバイオブームでこうした企業に投資するファンドもたくさん出ていました。
時代が変わってもテーマを変えて売り出される
いずれのケースもあまり良い結果とはならずに終わっていますが、相変わらずこうしたテーマ型投信は時代が変わってもテーマを変えて売り出されています。
株式投資の場合は、その時代の流れに乗ることが大事ですからこうしたトレンドを見極めることはとても重要なことですが、投資信託の場合は、こうしたテーマ型投信を買うというのは決してお勧めできるものではありません。その理由は大きく言うと3つあります。
①テーマ型投信は合理的とは言えない
株式投資信託というのは複数の企業の株式に投資をするものです。投資信託の種類は様々で、その分類方法も色々ですが、一番基本になるのはパッシブ型かアクティブ型という分け方でしょう。パッシブ型は例えば日経平均やTOPIXといった市場の指数に連動を目指すタイプなのでとてもシンプルですが、アクティブ型の場合はどういう投資対象に投資をするのか? というのが重要なポイントになります。大型株か小型株か、あるいは割安株を中心に選ぶバリュータイプか、成長性を重視して銘柄を選定するグロースタイプか、といった具合です。
ここで注意しなければならないのは、アクティブ型は独自のポリシーの下に運用することになりますが、それは投資する基準を明確にしているということであって、選択する銘柄の母集団を最初から小さくするという意味ではありません。例えばグロース株に投資をするというファンドであれば、業種や規模は関係なく、中長期的な視点で成長するかどうかという基準で選ぶべきものです。そういう銘柄を数多い上場企業の中から選ぶことが大切ですから、選ぶ対象の母集団が大きいほど、良い銘柄を発掘できる可能性が高くなるのは当然だと言えます。
だとすれば、テーマ型投信のように投資する対象を最初から狭めてしまうというのはあまり合理的な投資方法であるとは言えないでしょう。
②「わかりやすいこと」が「儲かる」とは限らない
にもかかわらず、なぜ多くの人はテーマ型投信を買おうとするのでしょうか? その理由は“わかりやすい”ことと“売りやすい”ことにあります。買う顧客側から見れば最大の理由は何と言ってもわかりやすさでしょう。AIやロボット、5Gなどというテーマはテレビやニュースでもよく取り上げられていますので、投資信託のことをよく知らない人でもなじみがあります。
これは販売する側から見るととても売りやすいということになります。ただ、いくら言葉を聞いたことがある、或いはそれについてよく知っていたとしても、それらに関する企業の株価が必ずしも上がるとは限りません。「わかりやすいこと」と「儲かること」はまったく別問題なのです。
話題のものほど「上がりそう」と勘違いしてしまう
行動経済学では「利用可能性ヒューリスティック」と言われる心理があります。これはどういうことかと言うと、身近なものやわかりやすいものは、起きる確率が高くなると勘違いすることを言います。どうやら投資信託を選ぶ際にもこの「利用可能性ヒューリスティック」が影響を与えているように思えます。具体的に言うと、知っているもの、最近話題になっているものは上がる確率が高そうに思えるということなのです。
テーマ型ファンドに当てはめて言えば「株のことはよくわからないけど、AIやフィンテックはブームだし、これからの時代はESGが大事だものなぁ」と言った具合に誰でも想起しやすいことから、関連する株も上がるのではないか? と感じてしまうのです。
③既に高値になっている場合が多い
ところが多くの場合、一般のニュースや話題で取り上げられているということは、既に株式市場でも相当関心が高まっているということですから、株価もかなり高値圏に来ていることが多いのです。
「これからの日本にとって重要なテーマだ!」「長期的に成長が期待できる分野だ!」……。それはそうかもしれませんが、株式市場というものは当面利益が上がっていなくても短期的には実態をかなり先取りして動く場合が多いものです。言わば関連するテーマの銘柄であれば何でもかんでも株価が上昇するということがしばしば起こります。したがってテーマ型ファンドが設定された時点では往々にして投資対象の銘柄が既に高値圏になっているという可能性が高いということなのです。証券会社での40年近い私の経験を振り返ってみてもテーマがもてはやされた時に設定されたテーマ型ファンドの多くは、その後悲惨な結末を迎えているのです。
急騰局面で売却しておいたほうが無難
ただし、こうしたテーマ型ファンドは短期的には儲かる可能性もあります。高値圏にいるということはそれだけ株価の動きも大きくなっているため、設定してごくわずかの間に急騰することもあり得るからです。そうなると一気に人気が高まり、更に売れるということになりますし、当然販売するほうも非常に強気で勧めてくるでしょう。
ところがそこで買うのは非常に危険だと考えるべきです。仮にテーマ型ファンドを既に購入してしまった人であれば、そうした急騰局面では売却しておいたほうが無難だと思います。先ほども述べたように私の経験から言えば、今までに設定されたテーマ型ファンドのその後を見ても、長期的に成長が続き、大きくなるとは到底思えないからです。
流行りに乗って「理想買い」しないように
株式というのは面白いもので、その会社が非常に優れたビジネスモデルを持っていたり、まだ開発の段階だけど画期的な新商品や新薬の開発が見込めたりする場合は、現実の業績が伴っていなくても先行きを見越して上がることが多いのです。これは「理想買い」といわれる局面です。ところがその後は業績が思うように伴わないために下がり、しばらく低迷しますが、後になって現実に利益が出て業績が伴ってくると上がるということもよくあることです。これが「業績買い」と言われるものです。
例えばソフトバンクが2000年の前後に株価が20万円以上をつけたのは「理想買い」の段階だったと言えるでしょう。そしてその後株価が大幅に下落し、しばらく低迷を続けたものの、その後に取り組んだ携帯電話事業が中核となり、着実にキャッシュを生み出す企業になってからは再び上がってきた。これは「理想買い」から「業績買い」に移行した良い例と言えるのではないでしょうか。
テーマ型ファンドにおいても本当にしっかりと長期に継続しそうなテーマのものであれば、長期投資として買っておくのも悪くはないと思います。ただしその場合でも理想買いで盛り上がっている最中にわざわざ高値を買いにいく必要はありません。理想買いの後に一旦株価が下がった時に買えばいいからです。
結論として、長期的に資産形成を目指す一般投資家は短期的な人気に左右されるテーマ型ファンドを買わないほうが賢明でしょう。“流行りもの”に飛びつくと、ろくなことはないというのは投資の世界でも真実だからです。