経営者や投資家をはじめ、多くの富裕層と交流のある午堂登紀雄さんは、「企業経営においても、家計においても、固定費を圧縮することがとても重要」と話します。お金持ちが実践している驚くべき固定費の削り方とは――。
コストカットのイメージ
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悪いシナリオを前提にビジネスを設計

新型コロナウイルスのワクチン接種が世界中で始まりましたが、その結果によってはアフターコロナが予想外に早くやってくるかもしれません。

個人的には「アフター」というよりも「ウィズ」コロナ時代を想定しており、より悪いシナリオを前提に生活やビジネスの設計をしていくつもりです。

とはいえ、特に潔癖で真面目な人が多い日本では「ニュー・ノーマル」と呼ばれる生活様式が定着していくと考えられます。そこでそういう時代を見据え、富裕層はいま何をしているのか、私の周囲の人たちの意識や行動を探ってみました。

オフィス縮小、社長自らお引越し

ホワイトカラー型職種を中心に、リモートワークやテレワークが増えているのはご存じの通りですが、「意外になんとかなる」と気づいた経営者は、オフィスの縮小や移転に動いています。これは昨年(2020年)からあった動きですが、退去予告期間が終わればさらに加速しそうです。

もはや都心に大きなオフィスを構える必然性がなく、すると会社の近くに居を構えていた経営者自身も都心に住む必要がなくなるため、高い家賃がバカバカしくなります。なので、オフィス移転と同時に経営者も引っ越すケースが目につきます。

そして彼らはすでにアフターコロナを見据えて先行投資を行っています。それが人材採用です。

むろん業種業態にもよるのですが、コロナ不況で転職市場に優秀な人材が出てくることを見据え、中途人材の獲得意欲が上がっています。知人のヘッドハンターに聞いたところ、新規事業や業務改革といった変革系ニーズが高くなっているとのことでした。

また、リモートワークで的確な指示や業務分担ができないダメ上司も明白となりましたから、リーダークラスの求人は相変わらず多いそうです。

個人の生活に応用できることを挙げるとすると、「引っ越しによって家計の家賃負担を下げる」「転職のチャンスが増える可能性がある」という点でしょうか。

非接触・非対面コミュニケーションへの対応

富裕層の多くは起業家・経営者ですが、オフィスや店舗の縮小・撤退はしても、そこの競争力強化には余念がありません。

知人の飲食店経営者は、会話や現金のやりとりを極力減らすためモバイルオーダーシステムを導入し、別のITベンダー社長は会議室に空気除菌装置を設置したそうです。

また、プロジェクト共有システムなどオンラインでのチームコミュニケーションツールの導入・活用にも積極的です。SlackやChatwork、LINE WORKS、Microsoft Teamsなどが有名ですが、それぞれメリットデメリットや特徴があるので、複数のツールを使い分けているようです。

ビジネスとテクノロジーのコンセプトイメージ
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IT業界などでは比較的なじみがありますから普及・浸透は早かったですが、それが全産業に広がっています。

これを個人に適用すると「チームコミュニケーションツールを使いこなせない(自部門内で上手に活用できない)人は淘汰されかねない」「ツールのおかげで従来型の報・連・相は不要となり、リーダーはよりチームの生産性向上への貢献が求められる」ということが言えるでしょう。

内部留保を高める

昨年末に経営者仲間の忘年会に呼ばれたのですが、そこで盛り上がったのが「手元現金をいかに分厚くするか」というテーマでした。

喫緊で必要ではなくても、とりあえずコロナ緊急融資を申し込み、借りられるだけ借りて余剰資金を厚くしている人がほとんどでした。飲食店経営者もいたのですが「使える助成金・補助金はすべて使い倒した」と言っていました。

私もそうだったので考えることはみな同じなんだなと感じましたが、これを個人に適用するとどうなるか。

やはり家計の貯蓄率を高め、コロナによる影響が長引いても生活が脅かされない体制の構築ということでしょう。

お金が減れば支払いをどうするかということに思考が支配され、冷静さを失います。すると前向きな発想にならず創造性も失われるなど、判断力を含めた知能全般が低下します。貧困に陥ると、こういう副作用があるのです。

固定費をいかに減らすか

そうならないための手立てとして、特に大きいのは固定費を減らすことです。なぜなら固定費は収入が増えても減っても同じだけかかりますし、一度手続きをすれば、努力しなくても半永久的な効果をもたらしてくれるからです。

前述の通り、たとえば賃貸に住んでいる人なら引っ越しするとか、家主に家賃の減額交渉をする方法があります。

わが家でもここ数年、下記のような固定費削減に取り組んできました。

午堂家が取り組んだ固定費削減プラン
・自宅兼賃貸マンションの建設で住居費ゼロに
・投資ローン/住宅ローンなど各種ローンの借り換えで金利コスト削減
・投資物件の管理手数料を交渉によって減額
・電気会社の変更で電気料金の削減
・クレジットカードの見直しで年会費削減とポイント還元率アップ
・固定電話の解約(個人の携帯で十分)
・モバイルWi-Fiの解約(昨今は無料Wi-Fiポイントが多いのでさほど不便はない)
・楽天モバイルへの変更(これまでも格安スマホで4回線で月約9500円と安かったですが、ほぼ無料に)
・その他、新聞購読はしていないし、テレビもないのでNHK受信料もかからない

ちなみに、固定費だけでなく、私は服もまったく買いません。毎日ほぼ同じ格好ですし、ちょっとぐらい穴が開いていても着るからです。洗顔フォームやボディソープ・整髪剤といったものは一切使わず、リンスインシャンプーだけです。散髪も以前は美容院で3500円でしたが、いまは近所の1000円カット。これで十分です。

ま、私の場合は極端すぎてあまり参考にならないかもしれませんが。

給料が上がらないリスクに備える

固定費をはじめとした支出を減らすことと同時に、収入を増やす努力も必要になります。このコロナで企業による資金の内部留保が正当化されたため、給料がより上がりにくくなる可能性があります。

従来は企業が資金を溜め込み従業員に還元していないという批判がありましたが、コロナでも雇用を守れるのはその溜め込んでいた資金があったからだ、と言われればなかなか反論しにくいものがあります。

なので給料が上がらないリスクに備え、個人は副業などに取り組む必要があるように感じます。

自己責任意識をもつ

飲食業や観光業をはじめ、多くの企業がコロナの影響を受けていますが、私がSNSでつながっている企業経営者のコメントを見ていて気が付くことがあります。

それは「弱音を吐かない」「政府や行政のせいにしない」という点です。

大変な状況であっても、政府の政策に不満があっても、そこで愚痴をこぼすのではなく「それでも自分は何をすべきか」をつねに考え実行しているという印象です。

他人や未来は、必ずしも自分の思い通りにはなりません。

だからこそ、頼らない、依存しない、自分の力で切り開くことを前提に判断を重ねている。また、事業や投資にはリスクはつきものです。リスクがあってもそれを上回るリターンが見込めるかどうか、リスクをヘッジする方法はないか、そのリスクに直面したならどう対応するかを考える。そしてあらゆる出来事を「自分の責任です」と言い切れるように行動している。

こうしたリスクとリターンのバランスを考慮する視野の広さ、自己責任意識の強さがあるからこそ、彼らは起業し成功を収め、富裕層になったのだと考えられます。

マスクから鼻が出ているかどうかとか、マスクの素材が不織布か否かなどと騒いでいる人には出てこない発想でしょう。

つねに優良案件を探している

と、ここまでは事業を興して富裕層になった人たちの話ですが、投資(不動産や株など)で財を成した人たちはどうでしょうか。

端的に言うと、総じて「買い意欲が強い」という印象です。不動産投資家はいまも物件を探しており、株式投資家は安く放置された銘柄を探しています。良い物件や良い銘柄があればつねに買い出動であり、「コロナで様子見」という人は私の周りでは少数派です。

コロナでビビッて委縮したりしないこういう姿勢もやはり、彼らを富裕層に押し上げた原動力の一つのような気がします。