SDGsは経営の羅針盤! “使ってなんぼ”の指標です
まず基本として、SDGsというのは「Sustainable Development Goals」の略で、エス・ディー・ジーズと読むのをご存じの方も多いと思います。SDGsは直訳すると「持続可能な開発目標」となります。これは2015年9月の国連サミットで採択された取り組みで、30年までに達成するために掲げた17の目標(ゴール)のことを指します。
これら17の目標とは、環境をはじめ、貧困や人権、教育などの問題解決をめざしたもので、たとえば「飢餓をゼロに」「人や国の不平等をなくそう」「海の豊かさを守ろう」といったものがあります。どれも生きていくうえで大事なことばかりですが、一方でわれわれ日本人にはなんとなくピンとこない部分があり、開発途上国が抱える課題、のようにどこか他人ごとと考えている人も多いのが実情。もっといえば、近年徐々に浸透しはじめてきたSDGsですが、「自分ごと」として捉えている企業は残念ながら少ないのが現状です。
しかしながら、実はSDGsはビジネスパーソンにこそ重要かつ実用的な取り組みだということをご存じでしたか? そう、この17の目標は地球に住む一個人としてだけではなく、経営者や管理職という立場として、将来会社が発展するための大きな羅針盤として活用することができるものなのです。
たとえば17の目標を、企業経営のTo Doリストのキーワード集として活用してみましょう。そうすると①世界的視野②文明的視野③未来志向という3つの軸が明確になって、今、会社にとって何が必要で、どう行動すればよいかということが自然と見えてきます。このリストを洗い出してみると、そこにはビジネスのヒントがたくさん隠れていることに気づくはずです。
また、SDGsはビジネスパーソンの共通言語ともいえます。会社や所属部署が違っていても、17の目標に照らし合わせるだけで議論がしやすく、建設的な話し合いができるというメリットもあります。
反対に今やSDGsを実践していない企業は、世界目線で見ると「遅れている」「意識が低い」と見られてしまいます。それは投資家からの支持が得られないだけでなく、この先当たり前のようにサステナブルやSDGsといった教育を受けてくる若者たちが、そのような企業を選ばなくなるという事態が起こることも示唆します。人材が集まらないというのは企業にとって致命的。上質なマンパワーを集めるという意味でも、SDGsの活用はもはや企業にとって絶対不可欠なのです。
ビジネスパーソンの新常識となったSDGs
私の経験から、SDGsはこれからはますますグローバル・メガトレンド化が進み、どこまで理解し活用できるかが重要になると予想しています。なぜなら株価水準やブランディング、先に挙げた人材確保などのすべてにおいて企業の発展に影響するのですから。つまりSDGsはただの参照事項ではなく、必須事項となることは確かなのです。
事実、15年には世界最大の機関投資家である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、ESG投資の推進を明確化したことにはじまり、SDGs未来都市として政府により94自治体が選定されましたし、東京オリンピックの調達・運営のルールでもSDGsが明確に打ち出され、政府は「SDGs五輪」とまで言っています。
そう考えると、優秀な、もしくはメジャーな取引先を選ぼうとすればするほど、その企業はSDGsを実践している可能性があり、一方で自身の会社がまったくの手つかずともあれば……他社が使っている共通言語や羅針盤を持っていないも同然なわけですから、取引のうえでは自然と不利になるでしょう。とくにこれからはSDGsを活用しなければ、各方面から取り残されてしまう恐れもあるということなのです。
もちろんそれは海外企業が相手の場合にはさらに顕著になります。現状、日本は欧米の企業に比べてSDGsで後れをとっています。右にならえの日本企業に対し、欧米は頭がやわらかく行動的なんですね。現に16年、つまりSDGsが採択された翌年、スウェーデンのレジリエンスセンターでは、17の目標をウエディングケーキになぞらえた図で独自の理解を示しました。要は習うより慣れろ、机上の空論を繰り返すより一歩踏み出せ、といった感じでしょうか。もちろん彼らも実践しながらの試行錯誤はあったでしょうが、それこそがSDGsを自分ごと化して捉え、現実の羅針盤として生かすということにほかなりません。
言葉にするとややこしく、真面目に勉強すればするほど嫌いになってしまいそうな(笑)SDGsですが、これからのビジネスにおいてとにかく使える虎の巻だと考えれば、もっと気楽に、かつ振り回されることなくビジネスの発展に役立てられるはずですよ。
意外と知らない! SDGs用語集
SDGsの学びを深めるにしたがって、多くの用語が出てくることに気づきましたか? ここでは「これさえ押さえれば基本はOK!」の関連用語5つを簡潔に説明します。
CSR
Corporate Social Responsibilityの略で、「企業の社会的責任」を意味する。企業は自社の利益のみだけでなく、経済活動をすると同時に本業を通じて、社会や環境に貢献するという考え方に基づく。
ESG投資
これまでのように企業の業績だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)への取り組みも判断材料とする投資。SDGsに取り組む企業はESGの評価が高まるとみなされることが多い。
Sustainable
Sustain(持続する)とable(~できる)から成り立つ単語で、意味は「持続可能な」。昨今は未来のことを考え、環境や社会に配慮したアクションを示すことが多い。
Social Business
世界的問題(貧困、環境保護、差別、教育など)の解決を目的としたビジネス。寄付金などに頼らず、経済活動を行うことで社会的支援を継続していくのが最大の特徴。
ISO
非政府機関International Organizationfor Standardization(国際標準化機構)の略称。本部はスイスのジュネーブ。ISOが定めた世界基準の規格は「ISO規格」といわれる。
いまさら聞けない、SDGsにまつわるQ&A
これからのビジネスにSDGsが大切なことがわかったところで、素朴な疑問を先生に直撃!
Q.SDGsが企業ブランディングに使えるって本当ですか?
A.ズバリ本当です! ビジネスチャンスになり、リスク回避にも役立ちます
SDGsがいわば「世界共通言語のようなもの」という説明はしましたが、これを活用すれば世界的視野が手に入り、ビジネスチャンスをつかむきっかけになります。
SDGsはすべてのチャンスとリスクを網羅していますから、それを照らし合わせれば企業の強みと弱みを新たに発見することができるのです。17の目標をもとに企業を分析して無形資産を洗い出せば、どのようにブランドイメージを構築すればよいかが明確になります。つまりそれは「自社らしさ」を最大限アピールするためにもってこいのツールになってくれるということです。
また、ブランディングにSDGsを活用するということは、企業独自の言葉ややり方で経営理念を説明していたときよりも、ずっと世界に伝わりやすくなるということでもあります。それはもちろん社外だけでなく社内に対しても同じこと。すると、外へのアピールだけでなく、社員全体の共通認識も強化され、企業の方向性が定まることにもつながるのです。このことからも、SDGsは多くの人の共感を呼ぶコミュニケーションツールともいえるのです。
Q.先進国である日本でもSDGsの取り組みは必要ですか?
A.長寿企業の多い日本にとって、世界と渡り合うための必須事項です!
ときに日本の有名企業は「すでに創業以来の経営理念があり、幅広く世の中に知れ渡っているのでSDGsは必要ない」といわれることがあります。ですが、このSNS全盛時代において、世界を視野に入れた場合はどうでしょう? また仮に、かたくなに日本国内だけに向けたビジネスを貫こうとしても、顧客となる人々の間にもSDGsの考え方は広まり続けていて、おまけに多様化が進んでいくのだとしたら、今までのやり方(言語)では通用しなくなる可能性があります。
企業として信念があるのならなおさら、その信念を貫くためにもSDGsという共通言語が必要! ときに社会課題に向き合う機会と責任のある長寿企業が多いわが国でこそ、SDGsを使い上手に発信していくべきです。また、SDGsは本業で活用することによって企業価値が上がります。腕のいい職人や素晴らしい社員のいる企業ならば余計に、モチベーションの向上にもつながるのです。
Q.17の目標は正直多すぎて……。覚えやすい方法はありますか?
A.SDGsの成り立ちを体系立てた図とともに「5つのP」で覚えましょう!
SDGsは地球規模の問題を解決し、持続可能な未来を実現するための17の目標ですが、それがさらに細かく169のターゲットに分かれるため、全部は覚えにくい、という声をよく耳にします。けれど「地球上の誰ひとりとして取り残さない」という誓いは、途上国も先進国も区別がなく、すべての人が取り組むべきもの。おまけに最初に述べたようにビジネスにおいて重要な指針となるわけですから、自然と覚えられたら楽ですよね。そこで国際連合広報センターが勧めているのが5つのPで分類する方法です。
5つのPとはPeople(人間)、Prosperity(繁栄)、Planet(地球)、Peace(平和)、Partnership(協働)のことで、たとえばPeople(人間)なら1(貧困)、2(飢餓)、3(保健)、4(教育)、5(ジェンダー)、6(水・衛生)となります。
同じようにProsperity(繁栄)=7(エネルギー)、8(経済成長と雇用)、9(イノベーション)、10(不平等)、11(持続可能な都市)。Planet(地球)=12(持続可能な生産と消費)、13(気候変動)、14(海洋資源)、15(陸上資源)。Peace(平和)=16(平和・公正)、Partnership(協働)=17(パートナーシップ)というように構造を理解し体系づけると覚えやすいはず。
これを自分たちにとって使いやすい形に変換したのが、スウェーデン発のウエディングケーキになぞらえた図解だったといえます。それぞれが「自分ごと化」して捉えることが大切です。
Q.アフターコロナ時代にSDGsは役に立つと思いますか?
A.こんなときだからこそSDGsを活用して苦境を乗り切りましょう!
2020年がスタートしたときには、まさかこのような事態になると予想していた人はいなかったでしょうが、世界は今まさに未曽有の危機を経験している真っただ中。私たちは変化の激流にもまれています。いわゆる大きなパラダイムシフトが起こっていると言ってもいいでしょう。
人々の考え方から働き方、そして生き方まですべての常識がくつがえり、右も左も、上も下もわからなくなっている今、それこそSDGsという羅針盤の出番です。たとえば会社の業績が新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に悪化したとしても、17の目標を照らし合わせることで問題解決へのヒントが得られ、リスクを最小限に抑えるには? この先どちらに舵を切るべきか? という方向性が見えてきます。たとえ今ダメージを負っていたとしてもベターリカバリーが可能になるのです。
1度ブレてしまった軸を元に戻す――それもまたSDGsの大きな役割です。
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