75歳までの繰り下げで最大84%受給額を増やせる
65歳の人の平均余命は女性が約25年、男性が約20年という長生き時代であることを考えると、一生涯受け取れる公的年金を多くしておくことは、老後資金づくりの基本中の基本と言えます。
会社員や公務員が加入する厚生年金とは異なり、自営業者やフリーランスが加入する国民年金では収入に関わらず、保険料は一律で、年金額を左右するのは加入期間のみです。加入するのは20歳から60歳までの40年間で、学生時代から全期間納めたとしても、受け取れるのは満額で年78万1700円です(2020年度価格)。
しかし自営業やフリーランスでも、年金を増やす方法はいろいろあります。
まず公的年金を増やす方法として知っておきたいのが、年金を受け取る年齢を遅くする「繰り下げ受給」です。1カ月繰り下げるごとに0.7%ずつ年金額が増え、65歳からの受給を70歳まで繰り下げると年金額は42%増となり、増えた年金額を一生涯受け取ることができます。2022年4月以降は75歳まで繰り下げができ、最大で84%も年金を増やすことができます。自営業者やフリーランスは、健康ならば高齢になっても働くことができるという強みがあります。長く現役を続け、年金は繰り下げ受給にして年金額を増やすのがおすすめです。
手軽に年金を増やせる「付加年金」
最も手軽に年金を増やすことができるのは、「付加年金」です。
付加年金とは、付加保険料として400円を任意で支払うことで年金額が増えるもの。付加年金額は「200円×付加保険料納付月数」で算出され、仮に240月(20年)納めると、4万8000円、年金が増えます。2年間でモトがとれる計算です。
付加保険料を納めるためには、市区町村役場の窓口に申込みが必要です。後日、付加保険料の納付書が送付されますから、金融機関やコンビニなどで納めます。国民年金保険料を前納で納め済みの場合は、別途、付加保険料のみを納めることができます。
ただし、後述する「国民年金基金」に加入している場合、付加保険料を納めることはできないので注意が必要です。
国民年金基金で終身年金を増やせる
自営業やフリーランスが国民年金の上乗せとして利用できる制度には、「国民年金基金」と「確定拠出型年金(iDeCo)」があります。
国民年金基金は自営業やフリーランスが任意で加入できるものです。65歳から一生涯受け取れる終身年金を基本に、一定期間だけ受け取る確定年金や、受取開始が60歳からのタイプなど、7種類があり、一定の範囲内で組み合わせることができます。
掛金は加入するタイプや年齢、性別によって異なり、掛金の上限は月額6万8000円です。掛金は全額、所得から差し引くことができ(所得控除)、課税所得が減る分、所得税と住民税が軽減されるメリットがあります。税負担を抑えながら、老後資金の準備ができるというわけです。
例えば30歳(1990年12月1日生まれ)の人が加入する場合について見ていきましょう。
終身年金B(65歳からの終身年金。保証期間はなし)に1口加入した場合、掛金は1万2010円(女性の保険料。男性では9650円)です。60歳までに支払う掛金の合計は約431万円で、65歳から一生涯、月額2万800円、年額24万9300円の年金が受け取れます。
またこのケースで課税所得金額が200万円の場合、所得税・住民税の節税効果は年間約3万円で、実質的な掛金の負担は約11万5000円です。
ちなみに、受給前あるいは受給から15年以内に死亡した場合に遺族に一時金が支給される終身年金Aというタイプでは、1口の掛金は1万2500円(女性の保険料。男性では1万740円)です。国民年金基金の公式サイトでさまざまな加入プラン例が紹介されていますし、各種の試算もできます。
iDeCoは運用益非課税のメリットも
iDeCoは、一定の範囲で掛金を出し、60歳以降、年金や一時金として受け取るものです。掛金は、投資信託や預金、保険商品などから、自身で選んだ商品で運用され、その運用成果によって受け取る額が決まります。掛金は月額5000円以上で、上限は職種などによって異なり、自営業やフリーランスでは月額6万8000円が上限です。
国民年金基金と同じように、掛金は全額、所得から控除され、所得税や住民税が安くなります。さらに、通常、預金の利子や投資信託で得た利益には約20%の税金がかかりますが、iDeCoの運用で生じた得た利益は非課税です。
iDeCoは会社員や公務員でも利用できますが、現状では勤務先の年金制度などによって加入できないケースがあります。2022年からはほぼすべての会社員が加入可能となるので、フリーランスの人が将来、会社員になった場合なども、iDeCoでの年金づくりを続けることができます。
国民年金基金とiDeCo、どちらがいいか
国民年金基金とiDeCoは、両方に加入することもできますが、掛金は、2つ合わせて月額6万8000円までです。どちらかに加入するか、あるいは両方に加入するか、どのように考えればいいでしょうか。
国民年金基金は受け取る額が決まっているのに対し、iDeCoは選択した商品の運用実績によって受取額が決まり、運用がうまくいけば受け取れる額は多くなる仕組みです。長期間、積み立て投資ではリスクを抑える効果も期待できるため、投資信託で運用するのもいい選択です。とはいえ、運用のリスクをとりたくない、安心感を優先させたい、という人もいるでしょう。そういう人は、国民年金基金が適しているかもしれません。
手数料についても注意が必要です。iDeCoでは加入時、加入中、年金で受け取るときに手数料がかかります。国民年金基金にはそうした手数料はありません。国民年金基金は65歳(60歳の受け取りも選べる)、iDeCoは原則的に60歳までは受け取れませんから、スキルアップや結婚、住宅購入、子育て費用などの準備と並行して行うことになり、場合によってはそれほど多くの金額を年金づくりに充てられないケースもあるでしょう。そうした状況で国民年金基金とiDeCoの両方に加入すると、iDeCoの掛金は少額になり、相対的に手数料の負担が重くなる(掛金から考えて手数料が高くなる)ことも考えられます。
またiDeCoは一時金、または最長20年間、年金として受け取るのに対し、国民年金基金は一生涯受け取れる終身年金である、というのも大きな違いです(受け取り期間が一定期間のタイプもある)。長生きリスクに備える、という意味では、国民年金基金の終身タイプを選ぶことになりそうです。
小規模企業共済はさらに月額7万円まで掛けられる
もう1つ、知っておきたいのが、「小規模企業共済」です。
小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための退職金制度で、納めた掛金に応じて、将来、退職金(一時金)や年金として受け取ることができます。掛金は月額1000円~7万円の範囲で選択でき、納めた掛金は全額所得控除でき、所得税、住民税が軽減されます。また事業資金が必要な際など、納めた掛金に応じて、一定の範囲で資金の借入れもできます。
受け取り方は、廃業した場合(リタイアした場合)や死亡時に受け取る共済金A(一時金)、65歳以上で受け取る共済金B(180カ月以上、掛金を支払った人)、解約手当金など、複数の方法があり、もっとも受取額が多くなるのは共済金Aです。
例えば30歳の人が月額2万円、35年加入した場合、掛金合計は840万円。事業廃止などで共済金Aを受け取る場合の受取額は約1010万円となります。また掛金を支払っている間の節税効果は、年間約3万9000円です(課税所得200万円の場合の概算)。
小規模企業共済は、国民年金基金やiDeCoとは別に、月額7万円まで掛金を出すことができるため、より多くの所得控除を受けたい人は選択肢に加えましょう。
このように、自営業やフリーランスにも、年金を上乗せする方法はたくさんあります。所得控除のメリットは大きいので、収入が多い人は、メリットを上手に生かして年金づくりをしてください。国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済とも、掛金は途中で増額したり、減額したりできるので、無理のない額からはじめて、収入が増えたら掛金を増やす、というのもいいでしょう。
私も個人事業主の1人です。国民年金基金と、小規模企業共済に加入し、国民年金と国民年金基金は老後の生活費として使い、いつか体調を崩すなどで完全リタイアしたら、小規模企業共済の共済金Aを医療費や介護費(ホスピスや有料老人ホームに入所する費用など)に充てる予定です。