これまでさまざまな媒体や講演などで長期分散投資をすすめてきた中野晴啓さん。50歳、貯金ゼロからのスタートでは老後資金は間に合わないかと思いきや、さにあらず。50代からの長期投資を始めるコツとは――。
考える女性
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50代“ラスト昭和世代”の懐事情

以前私が出版した本に『退職金バカ」(講談社+α新書)というものがあります。読者ターゲットは今の私と同じ50代です。当該書では、退職金を後生大事に預金で抱え込むことも、初めて大金を手にして金融機関におだてられ言われるがまま金融商品を買うことも、適切な行動ではないと申し上げました。今の50代は退職金がもらえることを当たり前と考えている最後の世代、要するに我が国の20世紀高度成長期における社会文化を前提とした生き方が染みついた、ラスト昭和世代とも言えましょうか。

バブル期を体験した世代であり、楽観的人生観を引きずってきた一方で、もうひとつ特徴的なのが、戦後の高度成長時代を初期から生き抜いて来た親世代から教え込まれた格言、「預金は良いこと」「貯金しなさい」の価値観と行動規範を社会正義として受け入れてきた世代でもあるわけです。

「預金は正義」を堅実に実践してきた50代は、きっとそこそこの預貯金があることでしょう。しかし今や新たな富を産まない預貯金だけでは金融資産は殖えず、公的年金を加味しても老後資金は不足する、との論調で昨年話題をさらったのが政府の「年金2000万円問題報告書」(正式名称は金融審議会市場ワーキング・グループ作成の「高齢社会における資産形成・管理」)です。

他方で社会全体が毎年豊かになっていった高度成長期の一億総中流文化にバブル気分も付加された能天気系の50代には、「人生何とかなるさ」を口癖に根拠なき楽観に支配された結果、50歳貯蓄ゼロの人も少なくありません。

老後資金づくりのラストチャンス

「人生100年時代」到来によって、50歳はもはや壮年ではなく人生の中間点で、次の50年を見据えたお金との付き合い方が焦眉の急です。逆説的に言えば、50代にも充分な残存時間があって、立派な資産形成世代なのだという前向きな意識改革をすべての50代に求めたいところです。

相応に預貯金があっても、自ら納得出来るそれなりに豊かな人生を100年スパンでまっとうしたいならば、ゼロ金利で富を産まぬお金を、リターンを産むお金に置き換える必要があるし、いわんや50代になるまで宵越しの金を持たぬ人生を送ってきた人たちにとっては、老後資金づくりのラストチャンスであるとの自覚も不可欠です。

成長プロセス
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50代貯金ゼロの人への処方箋

50代金融資産無しの人は、これから気合を込めた本気の長期投資が必定です。と言っても不可能なことでは決してありません。ヤング世代なら毎月1万円からスタートすることをおすすめする積立投資ですが、50歳から始める長期資産形成は最低でも毎月5万円の積み立て実践を肝に銘じて、根気強く続けてください。

急に5万円もの拠出は無理と言うなかれ。余力がないならば現状生活のダウンサイジングは不可避です。都会の中心部の住居を郊外に移す。大型自家用車を中古の軽自動車に買い換える。赤ちょうちんの回数を半減させる等々、本気を出せば50代なら帳尻をつけられるはずなのです。このコロナ禍で、在宅勤務の推奨や大勢での会食を控える動きがある中、上記のような生活のダウンサイジングは、これまでより実行しやすくなっています。

毎月5万円なら、非課税制度の「iDeCo」と「つみたてNISA」を両方活用すれば、非課税枠内のみで投資することも可能です。

月5万円の投資で3200万円の老後資金を手に

同時に「人生100年時代」を展望する時、60代定年悠々老後の幻想を捨て去り、生涯現役のつもりで仕事を続けていく努力も怠れません。75歳まで仕事を続け、同時に公的年金受給を繰り下げられたならば、65歳から受給される年金金額の約1.8倍が生涯に亘って受け取れることになり、100年時代の老後に強い支えとなります。

そして毎月5万円の積立投資を75歳まで25年間地道に継続できたなら、世界の想定成長軌道に鑑みた普遍的グローバル株式投資信託の期待リターンを年率複利6%とすると、投資資金合計1500万円に対して25年後には3200万円程度に育っていると仮定できます。

そして75歳から先も引き続き長期投資を継続しながら、100年人生を踏まえて計画的に取り崩し活用していく。更には繰り下げた公的年金も豊かな人生づくりの強力な味方になることでしょう。

「人生100年時代」では50代はまだまだ若者です。人生の後半生を充実させるべく、昭和の常識と価値観から脱却するとともに、社会構造の転換を能動的に受容して、自ら行動を起こす勇気と意志の醸成が何より大切な時なのです。