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ファミリーフレンドリーな社会の実現をめざして活動する製薬会社「メルクバイオファーマ」社。同社が2017年より実施している「妊活および不妊治療に関する意識と実態調査」から、働く男女の妊活についての悩みや不安をひも解き、働きやすい会社・共生する社会とはどんなものなのかを考えた。

妊活と不妊治療への意識と実態を調査

2020年9月に発足した菅政権。さまざまな目玉政策を掲げるなか、一躍目や耳にする機会が増えたのが「不妊」や「不妊治療」のワードだ。当事者以外は通り過ぎてしまいがちな言葉や問題だが、女性の社会進出が進んだ現代では、キャリアと妊娠を天秤にかけざるを得ないケースもあり、ともすると結婚・妊娠のタイミングを逃してしまうことも。さまざまな状況が重なることで、「欲しくても妊娠できない」状況に陥る人も少なくなく、さらに少子化は日本社会全体に関わるため、実は「妊活」や「不妊治療」は、他人事ではない大事な問題でもある。

こうした日本の“社会課題”を広く周知し解決へと導くため、「メルクバイオファーマ」社では、2017年から「妊活と不妊治療」に関するアンケート調査を行っている。

同社は、不妊治療・オンコロジーを重点領域として日本の医療に貢献する製薬会社であり、とくに不妊治療領域ではグローバルで60年以上の実績を誇る。同社が行うアンケート調査では、男女各世代の妊活と不妊治療への意識と実態、企業制度の現状などが紹介されている。

では、早速調査結果をみてみよう。

20~40代男女がもっとも気になる社会問題は“少子化”

全国3万人に行った第4回「妊活および不妊治療に関する意識と実態調査」の事前調査(※1)によると、20~40代の男女がもっとも関心を寄せる社会的課題は「少子化対策」(40.6%)で、次に「健康と福祉」(37.8%)、「貧困対策」(29.7%)と続く。

日本の人口減少は顕著で、2055年には日本の人口は1億人を割り込むと予想されている(内閣府「高齢社会白書」2019年6月発表)ことからも、高齢化社会への危機感はどの世代も強いが、とくに次代を担う20代、30代の4割以上の男女が「少子化対策」に関心が高い。さらに、将来「子どもを授かりたい(すでにいる人はさらに授かりたいか)」と考えている人、「授かりたいが、難しいと思っている」人を合わせると、20代では約7割、30代では約5割に上る(図1)。

[図1]将来子どもを授かりたいか?

「不妊に悩んだ経験はあるか」との問いには、「過去悩んだ経験がある」「現在悩んでいる」を合わせると、全体の2割超が経験あり。とくに30代では男女ともに高くなり、30代女性では約3人に1人が不妊の悩みを経験している(図2)。

[図2]不妊に悩んだ経験

妊娠・出産年齢の理想と現実の差には、知識不足も要因?

次に、図1で「将来子どもがほしい」と回答した1万4635人に対し、子どもを授かるのに理想的な年齢を聞いたところ、「25~29歳」が6割超と男女ともにもっとも多く、30歳以上と回答した人は2割弱だった。

しかし、子どもがいる1万3423人に、第1子を授かった年齢を尋ねると、「25~29歳」で授かった人は4割弱で、30歳以上で授かった人が4割以上いることから、自身が考える子を授かる理想の年齢と実際に授かった年齢に乖離があることが判明。

そこで、妊娠のしやすさ、妊娠する力である“妊孕性(にんようせい)”を図る指標として、妊娠・出産に関する知識の正答率(知識尺度)を調べたところ、全13問中、正答率が60%以上の項目はわずか2項目。逆に「カップル10組のうち1組は不妊である」(31.2%)、「今日では40代の女性でも30代の女性と同じくらい妊娠する可能性がある」(34.0%)など、正答率が30%台の項目は5項目にも上った。

正答平均点でいえば、100点満点換算で45.6点と若干低く、20~40代の女性では平均52点ほどの正答率だ(図3)。

昨今、芸能人の高齢出産のニュースなどに触れる機会が増え、「40代でも30代同様に妊娠できる」などの間違った知識を持つ人も多いが、そういった事例は、あくまでも“希れ”なケースだと知ることが大切だ。

[図3]妊孕性知識尺度(正答平均点)

不妊治療への不安は経済的負担が1位。治療費は平均130万円に

次に、自分もしくはパートナーが不妊治療を過去に経験、または現在経験している20~40代の男女300人に対して行った本調査(※2)の結果を見ていこう。

まず、全体の約9割がなんらかの経済的負担を感じ(図4)、その内容(複数回答)は、薬剤以外の治療費(74.3%)がトップで、次に薬剤費(49.3%)と続く。

[図4]不妊治療の経済的負担の有無

もっとも負担の大きい不妊治療費について、医療機関に支払った金額は、男女不妊治療経験者の平均で総額130.6万円(図5)。女性に限ると平均約153.4万円だ。

また、サプリメントや漢方、気分転換などの趣味や旅行、家事負担軽減のための出費が負担だと回答した105人の「不妊治療のための二次的出費総額」は、平均で約236.5万円(図6)、医療機関への支払い額と合わせると平均総額約370万円とかなりの高額になる。「不妊治療にかけてもいい費用の総額」は、男女平均で約150.4万円に対し、実際の不妊治療に関連して支払った総額はその2.5倍以上の計算だ。こうした経済的負担の大きさから、不妊治療をあきらめた、一時中断した、遅らせた、継続を迷った人は6割以上に上る。治療費用が想定よりも多くかかることが治療継続の足かせになっているよう。

[図5]医療機関に支払った不妊治療費(総額)

[図6]不妊治療のための二次的出費(総額)

そもそも女性は、「妊活や不妊治療をしている」ことを知られたくない

経済的負担以外では、「仕事との両立」に悩む男女が3割強。治療のための有給休暇取得は、1カ月平均4.4日で、20代女性では5.8日、30代女性では5.3日。不妊治療をする男女の約4人に1人は週1回以上有給休暇を取得し通院している計算になる。また、勤務先は「不妊治療で休みを取りにくい」と答えた人が3割いる。

20~40代男女従業員と、人事担当者に「仕事と妊活」について調査した結果(第3回:2019年実施)(※3)、会社に「妊活助成制度がある」と回答したのは全体のわずか2割だ(図7)。

[図7]あなたが働いている会社に妊活に関する助成制度はありますか?

菅政権下では早期の「不妊治療費の保険適用化」実現に期待が高まるが、なぜ企業側での助成制度導入が進まないのだろうか。そこには、妊活を相談しやすい環境かどうかが関係しているのかもしれない。

そもそも女性は「妊活をしていることを職場で悟られないようにする」ことに悩む人が多く(40.2%)、相談しにくい職場環境では、より「妊活助成制度がほしい」と要望しにくいかもしれない。結果、仕事の調整がつかず、妊活より「仕事を優先させた」女性は約6割近い(図8)。通院回数の多さを負担と感じる女性は男性の2倍以上(44.7%)に上り、仕事の調整への負担は、男性より16ポイントも高い(52.7%)。女性は男性よりも仕事と不妊治療の両立の大変さを強く感じており、それにより、助成制度のない職場では、「妊活により退職・異動した」女性は、男性の6.3倍にも上る(図9)。

[図8]仕事と妊活の両立で、仕事を優先させた経験はありますか?

[図9]妊活のために退職・異動した人はいますか?

助成制度があると妊活環境が改善され、離職率ダウンも期待できる

しかし、妊活助成制度のある企業で働く従業員の男女約7割が「妊活しやすい」と回答していることから、企業に妊活助成制度があることで、妊活や不妊治療を必要とする従業員の精神的・経済的負担は軽くなり、結果、「会社の離職率が下がった」(22.0%)と人事担当者の5人に1人が回答している。

メルクバイオファーマ社によると、こうした調査は、患者サポートグループの声などから働きながら不妊治療や妊活を続けることの難しさを知ったことがきっかけだそう。自社内でも妊活や不妊治療を学ぶ教育啓発の機会を充実化させ、不妊治療のための有給休暇制度、高度不妊治療費に対する助成制度を実現し、実態を知る・知らせる大切さを痛感しているという。

こうした教育啓発と支援制度を「YELLOW SPHERE PROJECT(通称YSP)」と称し、活動を展開している。黄色の満月をYSPのアイコンとしてデザインし、「月の力を味方につけて」妊活サポートの輪が広がることを期待している。

“ファミリーフレンドリーな社会”とは、妊活しやすく・子育てしやすい社会。企業や社会など、周囲も含めて当事者をサポートする環境づくりが早急に求められる。

※1:事前調査=全国の20~40代の男女3万人を対象にインターネット調査(2020年4月実施)
※2:本調査=(自身またはパートナーが過去に不妊治療を受けた、または現在受けている)不妊治療経験者300人を対象にインターネット調査(2020年4月実施)
※3:本調査=従業員300人以上の企業で働く妊活経験のある男女300人(男女5:5)、従業員300人以上の企業で働く人事担当の男女200人を対象にインターネット調査(2019年4月実施)

Edit & Text=戌亥真美