2020年に開催予定だった東京オリンピックは、新型コロナウイルスの世界的大流行を受け、開催が1年延期されることとなりました。近代オリンピックの歴史は1896年のアテネ大会からですが、開催が延期となったのは、夏冬含めて今回が初めて。開催地に莫大な経済効果をもたらすオリンピックですが、過去に開催が危ぶまれたオリンピックはなかったのでしょうか。調べてみると、いろいろありました。
メダル
※写真はイメージです(写真=iStock.com/ccahill)

火山の大噴火で開催地が変更に

第4回ローマ大会(1908):イタリア・ナポリ近郊にあるベスビオ火山は、過去に何度も大噴火を起こしている活火山です。そのパワーはすさまじく、たとえば紀元79年にポンペイ市を全滅させた大噴火では、噴煙が20kmも巻き上がり、火山灰の重みで建物は潰れ、火砕流で街は焼き尽くされました。

そのベスビオ火山が、1906年に噴火したのです。これは困りました。ローマとナポリは225kmしか離れておらず、その被害がローマまで至るのは間違いないからです。結局第4回大会は開催地を変更せざるをえず、急きょロンドンで開催されることになりました。自然災害で開催地が変更されたのは、近代オリンピック史上初めてのことでした。

戦争で中止になった3大会

第6回ベルリン(1916)/第12回東京(1940)/第13回ロンドン(1944):これらはすべて、戦争で中止になったオリンピックです。1916年のベルリンオリンピックは第1次世界大戦中、1940年の東京オリンピックは、日中戦争を機に国際情勢が緊張したこと、日本が戦争準備のために資材使用を制限する必要があったことから開催権を返上、さらに1944年のロンドンオリンピックは第2次世界大戦中のため、中止となりました。こういう中止を見ると、やはりオリンピックは「平和の祭典」だとわかります。

ただし、戦時下にきわめて近い状況でのオリンピックは、開かれた例があります。第11回のベルリン大会(1936)がそれです。当時のドイツはナチス政権下だったため、世界の多くのユダヤ人選手はボイコットしましたが、国家レベルでのボイコットは、ほぼありませんでした。

ちなみに、この大会期間中、ホスト国のドイツは反ユダヤの看板を撤去し、外国人訪問客に反同性愛法を適用しませんでした。ただし、この大会は、アーリア人の人種的優越性を世界に知らしめるプロパガンダとしての性質を強く持っていたため、ナチスは選手団をアーリア人だけで統一し、国を挙げて徹底的に強化しました。その結果、ナチスドイツはメダルのほとんどを獲得したのです。

開催国の対立陣営がボイコットした特殊な事例

ボイコット
※写真はイメージです(写真=iStock.com/tumsasedgars)

第22回モスクワ(1980)/第23回ロサンゼルス(1984):非常に特殊なオリンピックとなったのが、この2大会です。この2大会は、米ソの冷戦対立激化を受けて、それぞれ対立陣営の主要国の多くが不参加を表明しました。

その結果、モスクワオリンピックには、アメリカ・日本・西ドイツなど50カ国が、またロサンゼルスオリンピックには、ソ連・東ドイツ・キューバ・北朝鮮など16カ国が参加をボイコットしました。

特に選手たちに気の毒だったのが、モスクワオリンピックです。この大会は1980年7月開催でしたが、日米などのボイコットが急きょ決まったのが、大会直前の5月。それまでオリンピックに向けて入念に準備し、金メダルが有力視されていた柔道の山下選手やマラソンの瀬古選手が泣いていたことは、今でも多くの人が覚えているでしょう。

11人が殺害された悲劇のオリンピック

第20回ミュンヘン大会(1972):テロで悲劇的な事件が起こったオリンピックもあります。1972年のミュンヘンオリンピックです。なんと選手村にパレスチナ武装組織「ブラックセプテンバー」が侵入し、イスラエルの選手を人質に立てこもったのです。

中止や延期にはなりませんでしたが、人質となった9人を含め、選手11人などが殺害されてしまいました。

感染症で開催が危ぶまれたオリンピックも

第18回の東京(1964)/第31回のリオ(2016):最後に、今回の東京2020同様、感染症で開催が危ぶまれたオリンピックを紹介します。

実は過去にも、オリンピック直前に感染症が流行し、開催が危ぶまれた大会が2回ありました。1964年の東京オリンピックと、2016年のリオオリンピックです。

東京オリンピックは1964年10月より開催予定でしたが、その直前の6月に日本で集団赤痢が発生し、さらに8月にはコレラ患者が発生。日本中が大いにあわてましたが、政府の行動は迅速でした。政府は東京港と羽田空港の従業員、付近住民、接客業従業員など18万人以上にコレラと天然痘の予防接種を行うと同時に、赤痢対策として関係者32万人の検便も行い、何とか蔓延を防いだうえで開催にこぎつけました。

また前回大会にあたるリオオリンピックでも、開催直前にブラジルを含む中南米でジカ熱が流行しましたが、WHO(世界保健機関)が緊急事態を宣言し、IOC(国際オリンピック委員会)と協力し、中南米の感染症対策を徹底したおかげで、無事開催することができました。

さらに夏季オリンピックではありませんが、2010年の第21回冬季バンクーバーオリンピックの開催時期は、ちょうど新型インフルエンザの世界的大流行時でしたが、開催前にワクチンが開発されたため、開催できました。

2020年9月、IOCのコーツ副会長はAFP通信のインタビューに対し、「2021年の東京オリンピックは、新型コロナが完全終息していなくても開催する」と述べました。果たしてどうなるのでしょう。日本にとっては、確実に開催して低迷する経済を回復させたいところですが……。