「素人っぽい動画」の恐るべき広告効果
【原田】小島さんが代表を務めるNateeってどんな会社なんですか。
【小島】TikTokで活躍するインフルエンサー(インターネットの中で消費者に大きな意思決定に影響を与える人たち)の事務所業を行っています。芸能事務所のデジタル版というとわかりやすいかもしれません。
TikTokでインフルエンサーになっている人をスカウトして、プロデュース・育成をして、動画案件に出演してもらいます。TVのキャスティングも多いですね。現在は160人が弊社に所属しています。年齢層で言うと、7割が10代後半から20代後半です。30代以上の人、あるいは動物たちも所属しています。
【原田】企業がキャンペーンするとき、その人たちにTikTokに出演してもらうのですか。それともTikTokだけとはかぎらないのですか。
【小島】後者です。特定の層に人気がある人たちなので、TikTok内に広告を打つときにお願いすることが多いですが、「TikTokで活躍する人を取り上げたい」というテレビ側のニーズも高まっています。
【原田】Nateeのタレントさんが出ているものでは、どんなプロモーションの事例がありますか。
【小島】たとえば、カンムさんのサービスであるプリペイドカード「バンドルカード」の動画が一例です。これはクレジットカードを持つことができないような10代をメインターゲットにしているのですが、TikTokでは“素人っぽさ”を出したところが好評でした。TikTokは、プロがつくった洗練されてかっこいい動画ではなく、素人目線のわかりやすい動画のほうが高い効果を出すことがわかっています。
某フィットネスアプリのプロモーションでは、ダイエット情報を発信しているインフルエンサーが話し口調で説明するという動画も、非常に効果が高かったです。
また、NTTドコモの出前サイト「dデリバリー」とピザーラがコラボしたプロモーション動画は、ウェブCMっぽい動画で成功しました。というのも、動画を製作したのは、素人ながら動画編集が非常に上手で、音楽とカメラカットを組み合わせるのがとてもうまい人たちだったから。動画の作り手によってプロモーションのやり方に大きな違いが出るので、そこがTikTokの面白さかもしれません。
【原田】普通の人たちを使って動画を作るにはYouTubeでは難しいのですね。
【小島】そのとおりです。
フォロワー数より大切なこととは
【原田】どうやってタレントを発掘しているのですか?
【小島】独自のツールを用いてリスト化し、そこから良さそうな人を見つけて、声をかけています。スカウトの目安は、第一に「TikTokのフォロワーの数が多いこと」、そしてコスメなど「特定のジャンルに強いこと」です。また、「炎上しないこと」も重要です。企業からの案件の場合は、「自由にやりたい」という気持ちが強い人だと難しいです。
【原田】リストに上がるフォロワー数の基準はありますか。
【小島】今だと、最低10万フォロワーは必要です。所属タレントの何人かは100万フォロワーを超えています。
【原田】どうやってタレントを育てるのですか。
【小島】TikTokにおける収入は2種類しかありません。一つは企業からの広告案件を受けることによる収入で、もう一つは自身のファンに対してグッズやイベントを販売することによる収入です。前者の場合も、それぞれのファンに対して商品を紹介してほしいという話になるので、結局どれくらい濃いファンがついているかが問われます。
フォロワー数は大事な数字ですが、それ以上に、紹介したものを買ってくれる人が何人いるかが重要です。たくさん買ってくれるようなファンを得るためには、普段のコミュニケーション、情報発信の質が大事になるので、そのあたりをサポートしているのがうちの会社になると思います。あまりそういうところまでフォローしている会社がないので、われわれはデータを見ながら、効果が出る人に対して提案をしています。
【原田】フォロワー数が多い人の動画のほうが、大きな反響を得られるわけではないのですね。
【小島】数よりも、特定層にリーチできるかどうかが大切です。極端な話ですが、フォロワーが100万人いても、タレントにパワーがない場合は宣伝しても何も売れないというケースもあるんです。
流行り廃りの速度が速いことが特徴
【原田】そういった濃いファンを持つにはどのような工夫が必要なのでしょうか。
【小島】一つ言えるのは、ファンとどう向き合っているかが重要だということでしょう。10万フォロワーがついたからといって、その人が偉くなるわけではないのですが、勘違いして人間性が変わってしまう人がいます。そういう変化にはファンも敏感に反応するので、どんどん離れていく。流行り廃りの速度は速まっている印象があります。
【原田】テレビタレントよりも速いですか?
【小島】速いと思います。テレビで取り上げられる頃には、SNSではもうそれほど人気がないという人もいますね。
【原田】抱えているタレントさんは、TikTokからテレビに進出するというのが主流なのでしょうか。
【小島】私たちが見ている範囲では、それが主流になりつつあります。既存の芸能事務所だと、テレビ映えする人を発掘していると思うのですが、われわれのような事務所はTikTokで人気が出るのが先で、その後に他の媒体に出るという流れになります。
今注目の成長株タレント
【原田】マネジメントしている人の中で、成長株がいれば教えてください。
【小島】まずは知哉くん。TikTokで活躍していたのですが、AbemaTVの高校生版リアリティショー「恋する週末ホームステイ」に出演し、そこからブレークしました。その番組内で彼女ができたのですが、今では自身のアカウントで、彼女も登場するようになりました。最近だと、若い方たちに訴求したいという行政のPR動画で、二人が出演しています。各SNSアカウントもフォロワーがすごく伸びています。
もう一人はゆでたまごさん。もともとライブ配信をしていたのですが、TikTokやYouTubeをやりたいということでわれわれのところに所属してもらった経緯があります。男性から人気が出て、Natee内でもっともフォロワーが伸びました。今は女性ファンもつけたいということで、方向を考えているところです。
知哉くんはテレビへの露出を増やしたいということでAbemaTVなど他の媒体に積極的に出ていますが、ゆでたまごさんはビジュアルが強いので、TikTokやYouTubeに絞っています。
人類総タレント化の時代へ
【原田】TikTokのこれからをどのように見ていますか。
【小島】インターネットは世の中をオープンでフラットにしました。YouTubeはテレビだけに許されていた動画放送を誰もができるようにしましたし、Instagramでは、かっこいい雑誌媒体の代替のようなコンテンツが誰にでも作れるようになりました。そしてネットタレントを使ったプロモーションが盛んになり、誰もが広告主になれる状況ができあがりつつあります。今後、誰もが自分のブランドを持てる時代になっていくと思います。
メルカリでは使ったものを中古品で出品することができますが、今後は中古ではなく、かっこいいブランドサイトとオリジナルの商品を、一般の人たちがどんどん作っていくという形に変わっていきます。その中で、TikTok含めSNSの力は強くなり続けるでしょう。
若い人にとってSNSはもはや空気みたいなものなので、使う・使わないという話ではなく、それがないと生きられないという存在になっている。そこに対する考え方は、企業さんも変えていかないといけないと思います。若い人たちはそのチャンスをものにしていけるか、ですね。
私たちは「人類をタレントに!」というミッションを掲げているのですが、誰もがやりたいことでお金を稼げる社会にしたいなと思っています。