英会話学校イーオンの日高由記さんは、現在70歳の最年長英会話講師。40代後半で英語の勉強を始め、51歳で英検1級、53歳で通訳案内士の資格を取得しました。専業主婦だった日高さんが英語に目覚め、人気英会話講師になるまでの苦労や大失敗とは――。

働きたかったけれど……家族を優先させた20年

20代で結婚してからずっと専業主婦だった私が、50歳を前に突然「何かやらなきゃ」と思いついて、英語の勉強を始めて、51歳で英検1級、53歳で通訳案内士の資格を取得したことは前回お話しした通りです。

英会話イーオン 非常勤講師 日高由記さん 撮影=プレジデント ウーマン編集部
英会話イーオン 非常勤講師 日高由記さん 撮影=プレジデント ウーマン編集部

大学時代は仕事をしたいと思っていましたが、結婚した相手が新聞記者でしたので、転勤あり、三交代ありで、とても私がわがままを言って働ける状況ではありませんでした。新聞記者の妻って、本当に忙しいんです。20、30代は夫のサポートをしながら2人の子どもを育て、40代に入ると、夫の母と暮らして介護もしました。とにかく、自分のことは後回し。ずっと家族を優先させた毎日を送ってきました。

しかし40代も後半になると、子どもも手をはなれ、母の世話もひと段落し、ぽっかりと空白の時間ができた。ある日、ふと英語の勉強をしようと思ったわけです。

勉強を始めてからは、本当に楽しかったですね。とくに通訳案内士試験のときは、勉強を仕事だと思って、毎朝9時までに家事をすませて、9時から部屋で勉強、お昼をはさんで、また夕方5時か6時ごろまで勉強。私があまりに部屋にこもっているので、夫が「大丈夫?」とのぞきにくることもありました。

通訳案内士の仕事で冷や汗ものの失敗も

英語が上達してくると、だんだん欲が出てきて、これを仕事にしたい、教えてみたいと思うようになりました。あきらめていた仕事ができるかもしれないって。まずは経験を積むためにボランティアで通訳案内士を始めました。そうこうするうちに英検1級、通訳案内士の資格がとれたので、本格的に通訳案内士の仕事をフリーランスでスタートさせました。

日高由記さん
撮影=プレジデント ウーマン編集部

通訳案内士の仕事を始めたころは、失敗の連続。今でも思い出すのは、アフリカの人たちが日本にプラントの見学にいらしたときのこと。私が通訳で入っていたわけですが、アフリカ人の一人の方が、何かぼそぼそと質問したんです。それを私は聞き取れず、「どうしよう」と頭が真っ白になってしまった。結局、そこはスルーして進めてしまったんです。

でも、あのとき私は「あなたの言っていることがよく聞こえませんでした。質問は何ですか?」と、もう一度聞けばよかったんです。でもそのときは、そんなことすら思いつかないほど余裕がありませんでした。

だから今、生徒さんたちには「聞こえなかったときは、もう一度聞いてくださいね」と何度もお話ししているんです。

56歳から月~金は英語講師、日曜は通訳案内士という生活

通訳案内士の仕事と並行して、通訳案内士の学校でも教え始めました。ただ受け持っていたのは、英語のほかに、受験科目である日本地理、日本歴史、一般常識。ぜいたくな話ですが、私としては英語だけを教えたかった。そんなときに、たまたまガイド仲間のひとりが、英会話イーオンの講師をしていて、私にもすすめてくれたんです。

とはいえ、そのときの私は56歳。「いくらなんでも無理なんじゃない?」と友人に言っても、友人は「大丈夫、大丈夫」とこたえます。難しいだろうなと思いながらダメ元で応募してみたら、なんと合格。そこから月曜日から土曜日までは、英会話イーオンで英語講師、ガイドがある日曜日は通訳案内士という生活が始まりました。

英会話イーオンで教えている生徒さんは、小さなお子さんから大人まで。最高齢は76歳の方です。たいていは自分でやりたいと思っておいでになるので、みなさんやる気があります。ですから、こちらとしても教えがいがありますね。

3、4カ月でTOEIC®が300点以上アップした生徒

印象に残っている生徒さんの一人で、大手銀行にお勤めの女性がいらっしゃいました。その方はずいぶん長いこと、ネイティブの英会話学校に通っていらしたんですが、全然伸びない。イーオンにいらしたときは、TOEIC®のスコアが400点ぐらいでした。でも会社の上司からは、1年以内に730点とるように命じられていたようです。ならば日本人の先生がいいんじゃないかというカウンセラーのアドバイスもあって、私が受け持つことになりました。

いざ彼女とのプライベートレッスンが始まってみると、本当に質問が多い。細かいニュアンスがわからなくて、これはどうですか、あれはどうなるんですか、とレッスン中は質問の嵐。おそらくネイティブの先生には、ここまで質問できなかったんでしょうね。

あやふやだった基礎的な文法はすべて日本語で理解し、いちから積み上げていくことで、彼女の英語力はぐんぐん伸びていきました。

レッスンでは細かいニュアンスを説明し、会話を練習し、自宅では『CNN ENGLISH EXPRESS』をやってもらいました。シャドーイングやオーバーラッピングなど速さについていく練習をしてもらうためです。

そうすると、なんと3、4カ月でTOEIC®のスコアが730点を超えたんです。

やはり細かいニュアンスは、日本語で説明されないと、わからないままなんですね。ネイティブの先生に聞いてわかるなら、それはすでに高いレベルに達しているということ。そこまでいかないなら、まずは日本人の先生から教わるほうがいい。

とにかく英語の上達には、わからないことはわからないままにしない。その大切さを私も改めて彼女から教わりました。

英語学習と人生の意外な共通点

ここ最近は新型コロナウイルス問題で、レッスンはオンラインのときもありました。やはり対面のレッスンがベストですが、英語学習は毎日続けることが重要なので、オンラインでも続けていくことは大事でしょうね。

対面でもオンラインでも、生徒さんはお金や時間を投資してレッスンを受けてくださるわけですから、私としても何かしら“益”を持ち帰っていただきたい。生徒さんに「これだけはできた」という達成感を得ていただくことを目標にしています。

それがその方にとっては、単語や文法の理解かもしれないし、英語を話せるようになったことの喜びかもしれない。なにかしらつかめるものがあって、願わくはその人のモチベーションを上げることができれば、講師としては本望です。

私は今70歳ですが、このままずっと教えていたいですね。やはり、こうやって自分が社会に参加してバリバリ働けることに、生きがいもやりがいも感じますし、本当に幸せを感じます。

どんな仕事も大変なことはつきものですが、私はなるべくポジティブな面を見るようにしています。ネガティブな面も見ようと思えば、いくらでも見られます。でも自分のできないことを見るより、できたことや今できていることなど積極的な面を見て、喜ぶほうがずっといいですよね。ここまでできた、もうちょっとできるかも、って前向きになれる。

それは英語の学習でも人生でも同じことだと思います。